やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 本書は1981年に初版,1988年第2版として,『看護学生のための歯科学』(榊原悠紀田郎,中垣晴男,山中恵美子著)として出版され,版刷を重ねてきた著書を土台として,今回,著者グループを新たにし,編集・執筆をして『新 看護学生のための歯科学』の書名で新しい著書として上梓したものである.
 前書の発行から4分の1世紀の26年が経た.その間,日本は高齢社会へと移行した.高齢社会は成熟社会で,物,経済,資本,効率ばかりでなく,健康,教育生活,いきがいや思いやりも重視される社会となった.食事や食物の味を楽しみ,家族・友人との会話,楽器を吹いたり,飲み込みや嚥下に問題なく,表情が生きいきしていることなどは,よりよい生活をするうえでますます重要となる.
 このような成熟社会で,歯・口腔疾患などを含め,看護を担当する看護師,保健師をはじめ医療関係者には以前とは比べることができないほど,歯・口腔の健康維持についての素養が要求されるようになってきている.近年,歯・口腔の清潔保持と肺炎罹患との関係,歯周病と糖尿病,心臓病など全身疾患の関係など,多くの研究が発表されている.
 そこで,前著と比べて新しい歯科学の進歩・知見を取り入れたことはもちろん,次のような特徴をもたせた.
 (1)第1章「歯科医療とは」および第4章「歯科的処置および診療の補助」中に「障害者歯科」,また「言語聴覚治療」を入れたこと.
 (2)第5章「口腔外科患者の看護」に「嚥下障害患者の看護」を設けたこと.
 (3)第6章として「口腔のケアの実際」を設けたこと.
 (4)ところどころに「ラウンジ」欄を設け,歯科の事柄や流れの参考になる“コヒーブレーク”的なコラムを入れたこと.
 (5)実習にオレリーのプラーク・コントロール(PCR)および歯肉炎(PMA指数)を入れて充実したこと.
 (6)資料として歯科三法(歯科医師法,歯科衛生士法,歯科技工士法)の概要を表にして入れたこと.
 前著は,それ以前の従来の処置の補助・介助など手技中心であった歯科の看護教本に,歯科の保健指導もしくは口腔衛生的な内容を加えたことが特徴であった.26年経った今日,その方向は確実に進んできたことを考え,今後もますます歯・口腔の健康維持・増進を中心とする口腔衛生的な内容が看護教育上における歯科へ求められるものと予想される.
 本書はそれに応えようとする前著からの基本を受け継いでいる.本書が看護教育において,また現場の臨床の場面において活用され,それにより患者や人々の歯・口腔の健康増進,全身の健康増進,および,よりよい日常生活を支援できればこれ以上の幸せはない.
 本書を上梓するに際し,ご助言・ご協力を賜った恩師,愛知学院大学名誉教授榊原悠紀田郎先生,元愛知学院大学歯学部附属病院婦長山中恵美子先生および稲沢市民病院歯科口腔外科部長日下雅裕先生,愛知学院大学口腔衛生学講座各位に感謝する.
 さらに医歯薬出版株式会社の編集担当にあたられた今田芳則および辻寿両氏に感謝する.終わりに,それぞれ帰宅時間を心配しながら応援していただいた著者の皆様のご家族に感謝する.
 本書はこれら皆様のご助力がなかったら成らなかったであろう.また一方で,未熟な編集・著者のため,ご意見や間違いのご指摘などをいただくようお願いして序文とする.
 2007年12月
 中垣晴男
 (著者を代表して)
第1章 歯科医療とは
 1 医療と歯科医療
 2 歯科医療の特徴
 3 歯科診療の診療科名と内容
  1)歯科保存的処置
  2)歯科補綴的処置
  3)歯科口腔外科的処置
  4)矯正歯科的処置
  5)小児歯科的処置
  6)障害者歯科的処置
  7)歯科予防的処置
 4 歯科診療室の特徴
 5 歯科診療の補助・介助の特徴
 6 歯科患者の看護の特徴
第2章 口腔および歯の知識
 1 口腔の構造
  1)口腔
  2)上顎骨
  3)下顎骨
  4)顎関節
  5)咀嚼に関与する筋
 2 口腔の機能
  1)咀嚼
  2)消化
  3)発音・発声
  4)味覚
  5)表情(外観)
  6)嚥下
 3 歯の知識
  1)歯種
  2)歯の外形
  3)歯の内部構造
  4)歯の周囲の組織(歯周組織,歯周)
  5)歯の微細構造
  6)歯の物理的性質
  7)歯の化学的性質およびエナメル質表層の性質
 4 歯の成長・発育
  1)歯の発生
  2)歯胚の発生時期と石灰化開始期
  3)歯の発生時期の栄養および異常
  4)歯の萌出
 5 歯科保健の水準
  1)う蝕有病(経験)
  2)歯肉の炎症および歯石沈着
  3)保有歯数
  4)補綴の状況
  5)歯みがきの状況
  6)フッ化物塗布
 6 口腔の衛生
  1)乳歯萌出期における衛生
  2)乳歯列期の衛生
  3)混合歯列期の衛生
  4)永久歯列期の衛生
  5)成人・高齢者の衛生
  6)間食食品とう蝕
  7)歯口清掃
  8)歯垢(プラーク)の染め出し法
  9)歯ブラシ
  10)歯磨剤
  11)デンタルフロス
  12)歯間ブラシ
  13)義歯の清掃
第3章 歯および口腔の疾患
 1 歯の疾患
  1)う蝕
  2)歯髄炎
  3)根尖性歯周炎
  4)歯の奇形
  5)その他
 2 歯周疾患
  1)歯肉炎
  2)歯周炎
  3)歯周疾患の原因
  4)歯周疾患の治療
  5)歯周疾患の予防
 3 口腔軟組織の疾患
  1)炎症
  2)嚢胞
  3)外傷
  4)腫瘍
 4 顎骨の疾患
  1)顎骨骨折
  2)顎骨の炎症
  3)嚢胞
  4)腫瘍
 5 顎関節の疾患
  1)顎関節炎
  2)顎関節脱臼
  3)顎関節強直症
  4)顎関節症
 6 顔面や顎の先天異常
  1)口唇裂
  2)口蓋裂
 7 不正咬合
 8 AIDSと歯科
  1)AIDS患者の口腔・顔面・頸部症状
  2)歯科診療におけるAIDS予防対策
  3)AIDSウイルスの消毒法
第4章 歯科的処置および診療の補助
 1 歯科診療の流れ
 2 歯科診療の介補
  1)前準備
  2)患者の誘導および受診態勢のつくり方
  3)各治療の介補
  4)患者への術後説明と退出誘導
  5)使用器械および器具・材料のかたづけ
 3 歯科治療の概要
 4 歯冠修復
  1)金箔・金粉による修復
  2)成形修復
  3)インレー修復
  4)冠(クラウン)による修復
  5)継続歯(ポスト・クラウン)による修復
  6)橋義歯(ブリッジ,架工義歯)による修復
  7)その他の修復:インプラントによる修復
 5 修復に使用する器具,材料
  1)診査に用いるもの
  2)前準備に用いるもの
  3)窩洞形成に用いられるもの
 6 歯内療法
  1)歯髄疾患の種類
  2)歯髄疾患の治療法
  3)歯髄切断法(断髄法)
  4)抜髄,根管充法
  5)感染根管治療,感染根管充法
 7 歯周治療
  1)歯石除去(スケーリング)
  2)ポケット貼薬
  3)ポケット掻爬
  4)歯肉切除(ECT)
  5)フラップ手術(歯肉剥離掻爬術)
  6)組織誘導再生療法(GTR法)
  7)歯周組織再生療法(エムドゲイン法)
  8)咬合調整法
  9)固定法
  10)全身療法
 8 床義歯
  1)床義歯の分類
  2)全部床義歯(フル・デンチャー,コンプリート・デンチャー)
  3)部分床義歯(パーシャル・デンチャー)
  4)小児義歯
  5)即時義歯
 9 口腔外科的処置
  1)抜歯
  2)膿瘍切開
  3)歯槽骨整形術
  4)歯根尖(端)切除術
  5)嚢胞摘出術
  6)外傷の治療
 10 麻酔
  1)局所麻酔
  2)局所麻酔の器具・薬剤
  3)NLA麻酔および全身麻酔
 11 矯正歯科的処置
  1)矯正治療に用いられる器具・材料
  2)矯正装置の種類
  3)矯正的処置の手順
 12 小児歯科的処置
  1)小児歯科的処置の内容
  2)小児の臨床的対応
  3)小児歯科で用いられる器械・器具および材料
  4)咬合誘導のための処置
  5)小児歯科的処置介補に必要な知識
 13 障害者歯科的処置
  1)障害者の分類と理解
  2)障害者の歯科的対応
  3)障害者の歯科保健指導
 14 歯科予防的処置
  1)う蝕予防処置
  2)歯周疾患の予防的処置
 15 歯科臨床における消毒法
第5章 口腔外科患者の看護
 はじめに
 1 口腔外科患者の看護
  1)栄養の補給
  2)口腔の清潔保持(保清)・ケア
  3)口腔外科患者の精神面への看護
 2 疾患別看護
  1)顎骨外傷患者の看護
  2)炎症性疾患患者の看護
  3)良性腫瘍患者の看護
  4)嚢胞性疾患患者の看護
  5)悪性腫瘍患者の看護
  6)末期患者の看護
  7)口唇裂児の看護
  8)口唇修正術患者の看護
  9)口蓋裂児の看護
  10)口唇・口蓋裂児をもつ両親への援助指導
  11)顎骨変形症患者の看護
  12)顎関節強直症患者の看護
  13)障害者患者の看護
  14)言語障害患者の看護と指導
  15)嚥下障害患者の看護
 3 入院患者の診療介助
  1)処置の実際
  2)患者サイドに立った援助
  3)含嗽剤の選択
 4 包帯法
  1)包帯
  2)包帯の巻き方
第6章 口腔のケアの実際
 はじめに
 口腔のケアの実際
  1)歯の有無
  2)開口の状態
  3)特殊な条件下での口腔のケア
  4)保湿ジェル(歯科化粧品)
第7章 看護学生のための実習
 1 ブラッシング実習
  1)目的
  2)流れ
  3)実習
 2 歯肉炎(PMA)実習
  1)目的
  2)タイムテーブル
  3)実習
資料
 資料1.講義のすすめ方 資料2.関連する医事法 資料3.食品中の砂糖の含有量 資料4.最近の国家試験
索引
ラウンジ
 歯科医師(Dentist)と口腔科医(Stomatologiest) 口腔の健康 歯科医師の称号D.D.S(Doctor of Dental Surgery) ビーテル噛み(Betel nut chewing) カポジ肉腫 障害者への視覚素材を利用した説明方法 嚥下補助床 歯磨剤,デンタルリンス,含嗽剤は必要? ここでちょっと,耳より情報 Kポイントを知っておくと便利! 体位のいろいろ