やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

2巻をお読みいただく前に

 従来の疾病対応と異なり,「口腔成育」では子どもや養育者が主体となります.支援する専門職には,生活者の視点で問題を検討する姿勢が求められるわけですが,専門領域に長く携わっていると,どうしてもこの発想を忘れがちです.
 そこで本書は,
 1巻:問題を生活者の座標軸でとらえてみよう
 2巻:口腔成育の実践例を通じて,口腔成育の模擬体験をしてみよう
 3巻:どんな個別の背景にも応じられるような,解析力を身につけよう
 というように,口腔成育へのステップアップの段階を踏まえた編集になっています.2 巻をお読みいただくにあたり,本書の特徴を生かすポイントをお伝えしたいと思います.
 ● 専門職だけが成育の支援者ではありません,むしろ地域の大人としての意識が大切です.主体者である生活者の視点からでないと,有効な解決策は生まれません.どの項目についても,この視点からの検証を忘れずにお読みください.
 ● タイトルは「具体例から実感する成育のマインドとストラテジー」としました.口腔成育のこころと実践のための戦略を,具体例から実感していただくのが,2 巻の目的です.異なるカテゴリー別にその支援例をまとめました.
 ● 第1章「子どもとの協同作業」をお読みいただくことで,口を介した支援から,子どものこころや行動が成育していく過程を実感していただけると思います.大人が治療や予防だけを目的とせずに,子どもの目線で一緒に考えると,子どもの主体的判断と行動が生まれます.
 ● 第2章は「子どもと家族への支援」です.さまざまな障害のある子どもとその家族への支援例から,「障害や疾患にかかわらず口の働きを介して子どもが成育する」喜びと仕組みに触れてください.決してあなたに関係のない支援活動ではありません.そのこころに出会えれば,誰にでも取り組み可能な成育支援です.
 ● 第3章「歯の数や萌出に問題があったなら」には,永久歯の配列に関する不可逆的要素への対応例をまとめました.口腔育成のスキルではなく,不可逆的要素の判別とさまざまな選択肢の提示が,口腔成育における支援計画立案の重要な鍵であることを,実感していただきたいと思います.
 ● 第4章は「噛み合わせや顎関節に問題があったなら」です.第3章と同じ目的で,遭遇機会の多い反対咬合と上顎前突,また口腔育成のなかでも解決困難ながら,避けては通れない顔面の非対称と顎関節症をモチーフにしました.日進月歩の医療技術の進歩も,生活者の問題解決には欠かせない情報です.
口腔の成育をはかる 2 巻:具体例から実感する成育のマインドとストラテジー CONTENTS

第1章 子どもとの協同作業
 子どものインフォームドコンセント―医療体験からも子どもは成育する― 佐々木洋
 [コラム] 診療室では母親にも一緒にいてもらいますか?(治療時の親子同室と親子分離) 田中英一
 むし歯に悩む家族への支援―乳幼児に対する地域的な口腔成育― 田中英一
 [コラム] 生活者とのよりよい関係の構築 田中英一
 子どものアドボケイト―専門職の役割と連携― 佐々木洋
 [コラム] 母子健康手帳の活用 田中英一
 幼児の口腔外傷―緊急時の協同作業をどのように進めるか― 佐々木洋・佐々木美喜乃
 [コラム] 口にケガをしたら 宮新美智世
 指しゃぶりをやめられない子どもへの支援―子どもの気持ち― 佐々木洋
 口呼吸と不良姿勢のある子どもへの理解 伊藤学而
 構音障害のある子どもへの MFT 佐々木洋
 MFTの形態成長に及ぼす効果と評価 佐々木洋
 [コラム] 口腔成育における歯科衛生士の役割 田中英一
 [コラム] 家族そろって歯磨きの習慣をつけましょう 田中英一
 
第2章 子どもと家族への支援
 学校教育現場における口腔成育 藤井和子
 [コラム] 言語発達支援 藤井和子
 発達障害のある子どもへの摂食機能療法 田村文誉
 [コラム]よだれが止まらない 田村文誉
 摂食機能障害のある学童への支援 佐々木美喜乃
 口唇裂口蓋裂のある子どもへの医療連携 幸地省子
 [コラム] 協力の得られない子どもへの対応 田中英一
 障害のある乳幼児と家族への新しいアプローチ―ピアカウンセリングとグリーフケア― 武田康男
 子どもの障害に悩む家族への支援 落合 聡
 [コラム] 離乳のための上手な食具の選び方 田村文誉
 [コラム] 主体的な行動ができない子どもへの対応 井上美津子
 [コラム] 「子どもと家族の生活機能」への支援と連携―ライフサイクルにそった ICF成育支援モデル― 佐々木洋
 
第3章 歯の数や萌出に問題があったなら
 [コラム] 上顎側切歯の先天性欠如例から考える口腔成育 佐々木洋
 先天性多数歯欠如の解決策を考える 曽根由美子・嘉ノ海龍三
 先天性欠如を歯の移植により解決した事例 田中 匡・嘉ノ海龍三
 埋伏上顎犬歯を牽引した事例 中筋宏明・嘉ノ海龍三
 上顎中切歯と犬歯の埋伏(萌出遅延)―早期発見の意義― 佐々木洋
 大臼歯の萌出異常を認めたら 高橋 勉
 [コラム] 下顎第二大臼歯の萌出異常は予測できる? 高橋 勉
 [コラム] 歯にタバコのヤニがついていたら 伊藤智恵
 
第4章 噛み合わせや顎関節に問題があったなら
 乳歯列期からの反対咬合へのアプローチ 片芝辰也・嘉ノ海龍三
 診療ガイドラインに基づいた反対咬合へのアプローチ 菅原準二
 ヘッドギアによる上顎前突へのアプローチ―その問題点と解決策― 菅原準二・山田 聡
 [コラム] 顎外固定装置とコンプライアンス 菅原準二
 機能的矯正装置による上顎前突へのアプローチ 佐藤亨至
 [コラム] 機能的矯正装置は患者さんとの協力が成功の鍵 佐藤亨至
 成長期の顔面非対称への非外科的アプローチ 菅原準二
 成人期の顔面非対称への外科的アプローチ―口腔成育における最終処置の効果と限界を知る― 菅原準二
 スケレタル・アンカレッジ・システム(SAS)―歯や噛み合わせに対する新しいアプローチ― 菅原準二・御代田浩伸
 成長期の顎関節症へのアプローチ 井上裕子
 成人期の顎関節症へのアプローチ 山田一尋
 診断と支援計画の立案 佐々木洋

文献
索引