やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文

 医学・歯学の進歩とともに歯科における診療内容が多様化しつつあるが,とくに口腔外科領域においてはその傾向が著しい.これに対処するために,歯科医師には常に新しい知識の習得が要求され,卒後研修の重要性が指摘されている.このような状況下に現在,学部教育における教授要綱の改訂,国家試験に関するガイドラインの作成作業が進行しつつある.
 それによると,これからの卒後研修,学部教育,国家試験準備などに適した教科書としては,単に知識を集大成したものではなく,実際の症例を具体的に提示したものが必要とされているが,現存の成書を通覧すると,名著といわれる専門医向けのものは内容が膨大すぎて初学者には理解しにくく,一般臨床医向けのものでは基礎的な説明が不十分な嫌いがある.また,学生向けとされているものは,主として座学のために書かれたものが多く,実地臨床に役立たせることはむずかしいようである.
 そこで編者らは,主として歯学部教育および卒直後教育を目的として,座学にも臨床実習にも役立ち,また実際の臨床の指針ともなりうる内容を備えた教科書を編纂したいと考え,本書を企画した.
 このような目的から,各章の前半では疾病の概念,診断,治療などに関する一般的な知識をコンパクトにまとめ,後半では実際の症例を供覧するという構成をとり,多数の写真,図,表を用いることとした.また,巻末には比較的遭遇する機会の多い症候群,ならびに臨床検査値の一覧を掲載して読者の便をはかった.
 執筆者には,歯学部学生の指導に腐心しておられる私立大学の中堅教授の先生方を選ばせていただきご依頼申しあげたところ,限られた紙面に凝縮された原稿と精選された症例写真がよせられ,ほぼ当初の企画意図をかなえることができたものと自負している.しかし,何分にも内容が広範であるにもかかわらず紙面が限られているために,多くの項において原稿の削除,短縮を余儀なくされ,また適切な症例が得られなかった疾患については割愛せざるをえなかったことは残念である.この点については,改訂の機会があれば補足して,より完璧なものにしたいと念願している.読者の方々のご意見を頂戴できれば幸いである.
 最後に,ご多忙中にもかかわらずご執筆をご快諾くださった先生方に対し深謝すると同時に,全体を調整する立場から貴重な原稿に一部手を入れさせていただいた失礼を陳謝したい.また,本書の出版にご尽力いただいた医歯薬出版株式会社の印丸一二夫氏,牧野和彦氏に感謝する.
 1985年1月 編集者一同
1章 歯と歯周組織の異常……工藤逸郎
 1.歯の異常
  1.萌出の異常
  2.数の異常
  3.位置の異常
  4.形の異常
  5.形成の異常
 2.歯周組織の異常
 〔症例〕
   智歯の埋伏
   小臼歯の埋伏
   過剰埋伏歯
   乳歯の埋伏歯
   87埋伏
   先天歯
   乳歯の晩期残存
   少数歯症
   上顎臼後歯
   正中過剰歯
   下顎小臼歯部過剰歯
   歯の転位
   歯の移転
   巨大歯
   矮小歯
   歯根肥大
   Aの2根
   Hutchinsonの歯
   エナメル質形成不全症
   Turnerの歯
   奇形歯
   融合歯
   象牙質形成不全
   斑状歯
   着色歯
   肥大性歯肉炎
   ヒダントイン歯肉肥大症
   歯肉線維腫症
   Serres-Epstein上皮真珠
   外骨症
   義歯性線維腫
2章 奇形・変形症……山岡稔,待田順治
 1.裂奇形
 2.顎骨変形症
 3.口腔軟組織の異常
  1.舌の異常
  2.口唇の異常
  3.小帯の異常
  4.その他の異常
 〈付〉顔面・口蓋の発生
 〔症例〕
   左側不完全口唇裂
   左側完全口唇裂
   口蓋裂
   両側性完全唇顎口蓋裂
   両側性斜顔面裂
   左側横顔面裂,正中下口唇裂
   上顎前突症
   下顎前突症
   小下顎症
   開咬症
   進行性顔面半側萎縮症
   正中菱形舌炎
   地図状舌
   先天性下口唇瘻
   巨大舌
   溝状舌
   先天性口角瘻
   二重唇
   上口唇小帯肥大症
   上口唇・上頬小帯短小症
   舌強直症
   咬筋肥大症
   Fordyce斑
3章 骨系統疾患……野間弘康
 1.骨系統疾患の概念
 2.骨系統疾患の鑑別診断
 〔症例〕
   鎖骨・頭蓋異骨症
   線維性骨異形成症
   Histiocytosis-X
   大理石骨病
4章 外傷……野間弘康
 1.骨折
 2.歯牙外傷(歯牙破折および脱臼)
 3.軟組織の外傷
 〈付1〉止血法
 〈付2〉縫合法
 〔症例〕
   上顎部骨折
   陳旧性上顎部骨折
   下顎骨骨折(正中骨折,下顎体,下顎角,無歯顎)
   下顎関節突起骨折
   陳旧性下顎骨骨折
   陳旧性下顎骨骨折(偽関節)
   病的下顎骨骨折
   小児顎骨骨折
   頬骨部骨折
   歯槽突起骨折
   歯牙破折
   歯牙脱臼
   タービンによる外傷
   機械的切創
   挫創
   咬傷
   裂創
   歯牙による褥瘡性潰瘍
   褥瘡性潰瘍
   Riga-Fede病
   気腫
5章 口腔感染症……久野吉雄
 1.急性化膿性炎
 2.慢性化膿性炎
 3.特殊(異)性炎
 〈付1〉感染の起こる条件
 〈付2〉微生物
 〔症例〕
   急性智歯周囲炎(正常方向位,近心傾斜)
   急性歯槽骨炎(根尖性,辺縁性)
   急性上顎骨骨膜炎
   歯性上顎洞炎
   急性下顎骨骨膜炎
   急性下顎骨骨髄炎
   急性歯性(口蓋)扁桃周囲炎
   急性口底炎(舌下隙,顎下隙,オトガイ下隙)
   頬部蜂巣織炎
   慢性下顎骨骨髄炎
   慢性硬化性顎骨骨髄炎
   慢性硬化性顎骨骨髄炎(Garre´ 骨髄炎)
   外歯瘻
   内歯瘻
   顎部放線菌症
6章 嚢胞……新藤潤一
 1.顎骨内嚢胞
  1.歯原性嚢胞
  2.非歯原性嚢胞
 2.軟組織嚢胞
〈付〉歯根尖切除術
 〔症例〕
   歯根肉芽腫
   歯根嚢胞
   濾胞性歯嚢胞(含歯性嚢胞,原始性嚢胞)
   歯周嚢胞
   正中上顎嚢胞
   球状上顎嚢胞
   鼻口蓋管嚢胞
   正中下顎嚢胞
   上顎洞粘液嚢胞
   術後性上顎嚢胞
   外傷性(単純性)骨嚢胞
   多発性嚢胞
   静止性骨空洞
   鼻唇嚢胞(Klestadt嚢胞)
   粘液嚢胞(下口唇,頬粘膜)
   Blandin-Nuhn嚢胞
   ガマ腫
   甲状舌管嚢胞
   オトガイ下・舌下型類皮嚢胞
   類表皮嚢胞
   鰓嚢胞
7章 腫瘍および腫瘍類似疾患……道健一
 1.良性腫瘍
  1.軟組織に発生する良性腫瘍
  2.顎骨に発生する良性腫瘍
   A.X線透過像を主体とする腫瘍
   B.X線不透過像を主体とする腫瘍
   C.X線透過像と不透過像の混在する腫瘍および半透過像を示す腫瘍
 2.悪性腫瘍
 3.腫瘍類似疾患
 〔症例〕
   エナメル上皮腫
   腺様歯原性腫瘍
   石灰化歯原性上皮腫
   集合歯牙腫
   複雑歯牙腫
   セメント質腫
   乳頭腫
   多形性腺腫
   線維腫
   化骨性線維腫
   骨腫
   脂肪腫
   血管腫
   リンパ管腫
   嚢胞性リンパ管腫
   神経鞘腫
   神経線維腫症(von Recklinghausen病)
   中心性線維腫
   中心性粘液腫
   中心性血管腫
   上顎歯肉扁平上皮癌
   下顎歯肉扁平上皮癌
   舌扁平上皮癌
   口底部扁平上皮癌
   上顎洞扁平上皮癌
   下顎顎骨中心性癌
   口底部腺様嚢胞癌
   頬粘膜部粘表皮腫(癌)
   口蓋部悪性多形性腺腫
   耳下腺部腺房細胞腫(癌)
   上顎悪性黒色腫
   下顎骨肉腫
   下顎線維肉腫
   下顎悪性リンパ腫
   先天性エプーリス
   妊娠性エプーリス
   線維性エプーリス
   肉芽腫性エプーリス
   血管腫性エプーリス
   骨形成性エプーリス
8章 口腔粘膜疾患……南雲正男
 1.水疱を主徴とする疾患
  1.ウイルス性疾患
  2.皮膚の水疱症
 2.紅斑およびびらんを主徴とする疾患
 3.潰瘍を主徴とする疾患
 4.白斑を主徴とする疾患
  1.角化病変
  2.非角化病変
 5.色素沈着を主徴とする疾患
 6.その他の疾患
 〔症例〕
   疱疹性歯肉口内炎
   疱疹性(ヘルペス性)口内炎
   口唇疱疹
   ヘルプアンギーナ
   麻疹
   手足口病
   Hunt症候群
   帯状疱疹
   尋常性天疱瘡
   多形滲出性紅斑
   薬疹
   口角びらん
   剥離性歯肉炎
   慢性再発性アフタ
   Behcet病
   壊死性潰瘍性歯肉口内炎
   壊疽性口内炎
   急性偽膜性カンジダ症
   慢性肥厚性カンジダ症
   白板症
   扁平苔癬
   び漫性メラニン色素沈着
   色素性母斑
   肉芽腫性口唇炎
   血管神経性(Quincke)浮腫
   舌苔
   黒毛舌
9章 大唾液腺疾患……瀬戸ユ一
 1.形態および機能異常
  1.形態異常
  2.機能異常
 2.異物
 3.炎症
  1.非特異性炎
  2.特異性炎
  3.ウイルス性炎
 4.嚢胞
 5.腫瘍
  上皮性腫瘍
   A.良性腫瘍
   B.悪性腫瘍
 6.その他
 〔症例〕
   顎下腺腺体内唾石症
   顎下腺導管内唾石症
   顎下腺炎
   慢性硬化性唾液腺炎(Ku¨ttner腫瘍)
   流行性耳下腺炎
   慢性耳下腺炎
   顎下腺多形性腺腫
   耳下腺多形性腺腫
   耳下腺癌
   顎下腺癌
   Sjo¨gren症候群
10章 神経疾患……金澤正昭
 1.神経痛
 2.麻痺
 3.痙攣
 〈付〉顎顔面領域に分布する神経
 〔症例〕 顔面神経麻痺
11章 顎関節疾患……石橋克禮
 1.関節の肥大および腫瘍
 2.顎関節の外傷
 3.顎関節の炎症
 4.顎関節症
 5.顎関節強直症
 〔症例〕
   下顎頭部骨軟骨腫
   下顎頭部骨腫
   顎関節脱臼(習慣性脱臼)
   感染性顎関節炎
   リウマチ性顎関節炎
   顎関節症 変形性顎関節症
   顎関節強直症(骨性,線維性)
12章 リンパ節疾患……冨岡徳也
 1.リンパ節炎
  1.非特異性炎
  2.特異性炎
 2.リンパ系腫瘍
 3.その他
 〔症例〕
   慢性リンパ節炎
   結核性リンパ節炎
   良性腫瘍(嚢胞性リンパ管腫)
   転移腫瘍(細網細胞肉腫)
   悪性リンパ腫
13章 血液疾患……藤田訓也
 1.赤血球系の疾患
 2.白血球系の疾患
 3.出血性素因
  1.血管壁の異常
  2.血小板の異常
  3.血液凝固の異常
  4.線溶系の異常
 〈付〉止血・血液凝固の機序
 〔症例〕
   Hunter舌炎(悪性貧血)
   赤い平らな舌(胃切除後の巨赤芽球性貧血)
   Plummer-Vinson症候群(鉄欠乏性貧血)
   再生不良性貧血
   特発性血小板減少性紫斑病
   急性骨髄性白血病
   慢性骨髄性白血病
   血友病A

 付1 症候群……吉田広,道健一
 付2 検査値一覧……東江良昭,久野吉雄

 和文索引
 欧文索引