やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

推薦の言葉

 故 東 与光教授の遺産として残るこの本は,1986年に初版として発刊され,以来ベストセラーを続けている名著であります.
 当時,口腔領域の画像診断に関する本は少なく,「アトラス 口腔画像診断の臨床」という書名のとおり,多くの歯科医師や国家試験に向かう歯学生らに広く愛されて来た本でもあります.その後,いくつかの問題点などの指摘をうけ,数回にわたって部分的な手直しをかさね,また,1990年には “ATLAS OF ORAL DIAGNOSTIC IMAGING”として,英文に翻訳され出版されました.そして国内はもとより,アメリカを中心に大きな反響を呼んでいます.このように東教授亡き後も,さらに広く愛されているのは,初版からこの本の出版に深くかかわってきた,当教室の生田裕之先生の努力のたまものと常々感じ入っています.
 生田先生は学生時代は写真部に所属しており,その写真は人物を中心に撮られ,写真雑誌に掲載されていたと聞きます.そのようなバックグランドを持っているからでしょう,大学院卒業後も益々X線写真の持つ,点{・}と線{・}を追う仕事に没頭していました.そのことは本文中のスケッチをみていただければおわかりいただけるかと思います.また彼は,X線写真の読影にはX軸,Y軸そしてZ軸の情報が必要不可欠であるとの持論者であり,今もってX線診断学の本質を追求し続けています.
 最近,放射線診断の分野では“総合画像診断”という言葉をよく耳にします.一方,顎顔面の放射線診断においても,X-Pをはじめ CR,CT,RI,MRI,US等の画像を用いて,形態,機能診断が広く求められています.また近年,歯科放射線の分野も専門化が進み,近い将来に顎顔面放射線診断専門医の制度が確立されるやもしれません.このような意味でも,第一線の臨床で活躍されている放射線診断医,歯科医師および歯学生をはじめ,この本を広く推薦するものです.
 今回,初版から5年半の歳月が過ぎました.そこで正常X線解剖,症例等の差し替えをはじめ,系統的にも体系的にも全面的に改訂され,さらに充実した内容で出版できますことに,放射線学教室としても慶びに堪えません.
 1992年1月20日 神奈川歯科大学放射線学教室 教授 鹿島 勇

第2版の序

 大学院時代,机の上の辞書のとなりのとなり…,一番端にきまって数冊のX線診断の本が窮屈そうに並んでいた.その場所とは裏腹に,その本は信号機の色やピンク色をしており,やけに存在感があった.そのうちの1冊の序に,“拡大鏡のすすめ”というエッセイのような序文があり,いたく感銘を受けたのをつい昨日のように思い出す.その内容は,拡大鏡や調光可能なスポットライトの絞りなどが,その実際の光学的な倍率などによる効果以上に,読影者に精神の集中をさそい,そのことに意味があるのだと述べていたように憶えている.
 亡き恩師東教授からいただいた数冊の本の1冊に,“凝視”という言葉が書かれている.この言葉にもこのような意味があるのではないだろうか.
 改訂にあたり,故 東教授の意志を継ぎ,鹿島 勇教授のご指導のもと“わかりやすく”を心がけた.そのために大幅な症例の追加と差し替え,および本文の全面改訂,また同一症例でも写真の焼きなおし,スケッチの書きなおしを行った.ここで,貴重な症例やご教示をいただいた多くの先生方に,深く感謝申し上げます.また,著者の意向を全面的に載録していただいた医歯薬出版に謝意を表します.
 本書を原稿や付図の整理など夜遅くまで手伝ってくれた妻,それから私ども両親,そして故 東 与光教授に捧げます.
 本書が初版同様,多くの歯学生ならびに臨床医の手元で一層お役に立つことを望んでやみません.
 1992年4月8日 生田裕之

初版の序

 この本は歯科大学の学生および第一線で活躍中の臨床歯科医のために書かれたものである.現在,歯科診療の診断にあたっては,デンタルX線写真とパノラマ写真が主流となっている.したがって,本書は画像診断といってもデンタルとパノラマX線写真を中心に書かれている.
 そもそも,画像診断とは,ある病巣をいろいろの手段によってイメージ(画像)として表現することである.最近の診断学では,X線写真だけでなく,超音波やアイソトープ(RI) や磁力線(MRI) などを利用して病巣の形態のみでなく,機能や代謝をも含めて総合的に画像としてあらわす傾向にある.この本にも症例によってアイソトープ検査や CTスキャンや超音波検査を加えた.読者は,これらの新しい検査法の導入によって,いままでのX線写真のみではわからなかった情報の得られることが理解できると思う.これは,あたかもピカソの絵画にみられるキュービズム(立体派)に似ている.つまり,ある対象物を平面的にだけ見るのではなく,あらゆる角度から立体的にとらえ,その対象物の本質を表現しようという意図である.医療の分野でも,病巣の本質を知ろうという画像診断の趨勢は,歴史的必然といえるかもしれない.
 さて,この本の特徴は,X線写真だけでなく,いろいろな画像とスケッチをも書いたことである.読者は,写真とスケッチを対比することによって,所見の特徴や解剖名などを明確に理解することができると思う.そして,これらの多くのスケッチは,いわゆるプロの専門家によったものではなく,すべて教室の大学院生のデンティストによって書かれたものである.スケッチの線には幼稚さがみられるかもしれないが,X線所見を十分に理解した人によって,書かれたものであることを強調したい.スケッチは,すべてつぎの3先生――生田裕之(第1〜9,12,13章),村橋秀夫(第10〜14章)および大塚 均(第15章と RIシンチグラム)――によって書かれた.彼らの献身的な協力が得られなかったら,この本は日の目をみなかったと思う.とくに,生田先生には本の構成や,「まとめ」など,たいへんお世話になった.ここで,これらの3人の先生に心からお礼を申し上げる.
 終わりに,この本の出版にあたり,多くの貴重なX線写真を利用させていただいた本学,口腔外科学教室の志村介三教授,新藤潤一教授,木下靭彦助教授ならびに多くの唾液腺や上顎洞患者をご紹介下さった横須賀共済病院耳鼻科の森 豊先生,夜久有滋先生に厚くお礼を申し上げます.また,貴重な症例を提供していただいた日本歯科大学放射線学教室の古本啓一教授(巨細胞腫の症例)および九州歯科大学放射線学教室の大庭 健教授(良性セメント芽細胞腫と中心性血管腫の症例)に深く感謝します.
 そして,教室の開設以来,今日まで多くの症例のX線写真の収集,整理にご協力下さったかつての教室員ならびに現教室のスタッフ―鹿島 勇,鈴木信一郎,閑野政則先生ら―また,多くの奇麗な写真の製作に骨を折ってくれた写真室の今井典夫技師ならびに原稿,付図を整理し
 てくれた教室の砂川和子君,赤堀悦子君ら多くのかげの方々にも心からお礼を申し上げる次第です.
 さて,いま脱稿にあたり,意に満たない文章や疑問の個所,著者の独断,偏見が目にとまる.しかし,学問には完成はなく,今回はこれで一応ピリオドを打つことにした.もし,将来,改訂のチャンスが与えられたら,時間をかけて補足し,より良き本に育てたいと願っている.
 このささやかな本が,多くの歯科大学の学生ならびに臨床歯科医にささえられて,これらの方々の放射線診断学の勉学にいささかでもお役に立てば幸いである.
 1986年4月 山吹の花さく日 東 与光

本書の使用にあたって

 1.本書の最大の特徴は単に画像だけでなく,その画像1つ1つにスケッチを加えたことです.これにより,これから種々の画像診断を学ぶ方に,異常所見が把握しやすいようにと考えたからです.そのためスケッチは強調したいところを誇張し,それ以外のところは割愛する傾向があります.
 2.本書の改訂にあたり,かねてより必要性を痛感していた“正常X線解剖学”を第1〜3章にわたって解説し,また必要に応じ各章にもつけ加えました.単に画像とその解剖名の羅列だけでなく,骨学を中心とした解剖像とそのスケッチ,そして画像とそのスケッチというように,系統立てて学べるよう工夫しました.
 3.所見については,スケッチに引き出し線を入れ,それに対応する所見を述べてあります.その症例の重要所見から順次,番号がつけてあります.これにより,その疾患の“特徴的所見“やその“表現”,そして診断の“進め方“や診断にいたる“考え方”を学んでほしい.
 4.また所見の表現にはある約束の慣用語があります.いわゆる“○○様”と表現されるような画像サイン(レントゲンサイン)です.これらの用語に慣れるために重複をいとわず繰り返し用いました.しかし,これらの多くは外来語で,日本語訳が統一されていないものも多数あります.
 5.本文中には画像サインをはじめ,重要な所見の表現,解剖名(またはX線解剖名),疾患名および撮影法(または撮像法)の名称もできるだけ英文も併記しました.なお,タイトルの疾患名,撮影法などは大文字ではじめ,本文中の疾患名,撮影法,解剖名は小文字ではじめ,画像サインなどの慣用語は()をつけ,小文字ではじめて付記してあります.
 【例】
 タイトル 疾患名:歯根嚢胞 Radicular cyst
 撮影法:口内法 Intraoral radiography
 本文中 疾患名:エナメル上皮腫 ameloblastoma
 撮影像:断層方式パノラマX線像 panoramic radiograph
 解剖名:歯根膜腔 periodontal ligament space
 慣用語:石けん泡状所見(soap-bubble appearance)
 6.各章の終わりに「本章のまとめ」の項があります.ここでは各章の重要事項を簡潔に表にしました.これにより知識の整理に便利をはかりました.また本文で述べられなかった重要事項を付記した章もあります.
 7.初版にあった「ワンポイント」は除きました.しかし,特に第7章の顎骨の嚢胞などでは病理学的にも問題のある疾患が多く,知識の混乱をさけるため,補足としてワンポイントと同様な項を付記してあります.
 8.本文中に同一の疾患や撮影法などに対して複数の表現をもちいています.読者に多少の戸惑いが生じると思いますが,用語の統一がない現在,代表的な表現を併記するほうが賢明と考えたからです.
 本書は以上の特徴を備えています.これらを念頭に入れて,十分に活用してください.
第1章 口内法X線解剖I
第2章 口内法X線解剖II・咬合法
第3章 口外法X線解剖
第4章 歯の異常
第5章 う蝕と歯周疾患
第6章 顎骨の炎症
第7章 顎骨の嚢胞
第8章 顎骨の歯原性腫瘍
第9章 顎骨の非歯原性腫瘍(付)線維-骨性疾患
第10章 悪性腫瘍
第11章 上顎洞の疾患
第12章 唾液腺の病変
(付)腺外腫瘤
第13章 外 傷
第14章 軟組織の石灰化,異物,虚像,他
第15章 顎関節の病変
第16章 系統疾患

付.顎・顔面領域の主な画像サイン
主な参考図書
和文索引
欧文索引