やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 根管治療の善し悪しについて,根管充填後のデンタルX線写真から評価する場合がいまだに多く見られることから,根管充填は歯科医師にとって気になる点と言えよう.しかし,根管治療の目的は根尖性歯周炎の予防と治療であり,そのコンセプトとして最も重要なのが無菌的治療で,次に細菌の除去また減少(根管形成,根管洗浄,根管貼薬)となる.根管充填は根管系の封鎖に含まれ,その重要度は高くないことから,根管充填の質のみを求めても治癒に至る確証はない.しかしながら,根管形成後に根管充填を行わなければ,いずれコロナルリーケージが起こって,根管内に再感染が起こる可能性があり,さらに修復処置もできなくなる.したがって,術後のX線写真のみで予後や成功を語ることはできないものの,根管充填は必要であり,可能な限り緊密に充填しなければならないことは言うまでもない.
 現在まで,多くの根管充填法が発案され,検証されているが,最良の術はないと言っても過言ではない.つまり,すべての症例に適応する根管充填法がないなかで,読者自身にとって最良の根管充填法とは何かを考えていただきたく,本書を執筆するに至った.難しいテクニックは習熟に時間がかかり,向き不向きもある.筆者は,基本的には得意とするテクニックにプラスαの要素を取り入れることで,さまざまな症例に対応できると考えている.そして,根管形態が複雑な場合は,シンプルで失敗しにくい根管充填法が第一選択となる.このように本書では,さまざまな症例や根管形態に対して適応となる根管充填法を紹介・推奨しているが,前述のように最良の術はないことから,本書が読者の先生方に合った方法を見つけ出す一助となれば幸いである.
 2024年4月 牛窪敏博
I編 根管充填のStrategy
 CHAPTER 1 根管充填のエビデンス(長谷川智哉)
  1 根管治療における根管充填の位置づけ
  2 根管充填の目的
  3 根管充填法の歴史的変遷と展望
  4 ガッタパーチャの特性
  5 従来型シーラーの特性
  6 バイオセラミックマテリアルの特性
  7 根管充填の時期
  8 根管充填法による予後への影響
 CHAPTER 2 根管充填法の選択(牛窪敏博)
  1 根管の解剖学的形態
  2 解剖学的形態による根管充填法の選択〜Solid Core vs Softened Core〜
  3 根管充填前後での注意点
 COLUMN
  根管充填のコスト(長谷川智哉)
II編 根管充填のMethod
 CHAPTER 1 側方加圧根管充填法(渡邉浩章)
  1 器材選択
  2 長所・短所
  3 術式
 CHAPTER 2 CWCT(黒瀬尚利)
  1 器材選択
  2 垂直加圧根管充填法の変遷
  3 CWCTの特徴
  4 CWCTの術式と勘所
 CHAPTER 3 Hydraulic Condensation Technique(渡邉浩章)
  1 器材選択
  2 長所・短所
  3 術式
 CHAPTER 4 MTAセメントによる根管充填(辰巳大貴)
  1 器材選択
  2 根尖開放歯
  3 根尖開放歯の歯内療法
  4 根管充填材としてのMTAセメント
  5 実際の使用方法
  6 MTAセメントによる根管充填の問題点
  7 まとめ
 CHAPTER 5 その他の根管充填法(橋本正隆)
  1 カスタムコーンテクニック
  2 マイクロシールテクニック
  3 コアキャリア法