やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

Introduction〜口腔内写真はなぜ必要?〜
 歯科医療は,「歯を削る治療」を中心としたものから,現在は齲蝕や歯周病に対する「予防」と「メインテナンス」へと大きくシフトしています.私たちが考える究極の歯科医療とは,自分の歯列と咬合を維持し,できるだけ義歯やインプラント治療が不要な口腔のままで生涯を送っていただく口腔マネジメントです.しかしながら現代は,齲蝕や歯周病の治療を必要としている患者さんも数多く存在しており,専門性の高い歯科治療も求められています.一度治療が終了した患者さんが,再び大がかりな治療を必要としないよう,良好な口腔状態を維持していただきたいのです.
 このような時代のなかで,初診時からの口腔内写真を記録しておくことは,かかりつけ歯科医院としてとても重要なことだと考えます.口腔内写真の目的は,「現症の記録」「病態の把握」「初期齲蝕部の経過」「治療成果の確認」「成長の記録」「経年変化の観察」また,「変化がなく安定していることの確認」などです.
 治療が進んでくると,初診時の状態を忘れてしまう方も少なくありません.メインテナンスに入るころに患者さんと初診時の状態を見てみると,「こんなにひどかったの!」と驚かれることがあります.写真記録を患者さんと情報共有することで,よりご自身の口腔内に関心をもってもらい,以後,生涯にわたって治療の少ない口腔を確立し,快適な生活に結びつけてほしいのです.このように,口腔内写真には,「患者さんへの説明」「治療計画の立案」「患者さんのモチベーション」「術前術後の比較」といった臨床のメリットが多々あります.
 また,当院では,撮影をとおして,「スタッフ間のコミュニケーション強化」や「スタッフの技量チェック」などにも役立っていると感じます.さらに,さまざまな学会で,会員の診療レベルが学会の要求度に到達しているかどうかを審査する,「認定」および「専門」という資格制度が設けられています.きれいな口腔内写真やX線写真は,こういった制度に申請を出すときには必須の要件になっています.せっかくよい診療を行っていても,写真やX線写真がないことで正当に評価されないのは残念なことです.
 本別冊では,口腔内写真のためのカメラの選択,撮影の準備やコツ,そして実際の症例における利用方法について述べたいと思います.
 2021年4月 齋藤善広
 Introduction〜口腔内写真はなぜ必要?〜
Part 1 口腔内写真を知る
 口腔内写真のルール
 口腔内写真撮影の目標
 口腔内写真に必要な構図
Part 2 撮影の準備
 撮影に用いる機材
 患者さんの頭位
 ユニットポジションと撮影距離
 ミラーの当て方・カメラの角度
Part 3 撮影の流れ
 準備から片づけまでの流れ
Part 4 部位ごとの撮影
 正面観
 上顎咬合面観
 下顎咬合面観
 側方面観(頬側)
 上顎口蓋側面観
 下顎舌側面観
 撮影順序まとめ
 12枚法の場合
 5枚法の場合
 基本以外の撮影パターン
Part 5 撮影人数別手順
 3人で撮る場合
 2人で撮る場合
 1人で撮る場合
Part 6 臨床への活用
 口腔内写真から何がみえてくる?
 生活背景
 歯周治療の経過
 包括的な治療,手術時の所見や咬合状態など
 着色
 シェード(ホワイトニングや歯科技工士との連携)
 小児の咬合誘導や成長過程
 粘膜疾患の進行度
 高齢者の変化
Part 7 歯科用コンデジの活用
 カメラ初心者にもやさしい操作性
 オートトリミング機能を用いた撮影
 撮影の手順
 部位ごとの撮影
 その他の特長
 一眼レフカメラとの違い
Part 8 口腔内写真撮影の練習
 カメラの操作に慣れる
 模型を用いたミラー練習
 相互練習
 実際に撮影してみよう!
Part 9 Q&A
 Q.写真が暗くなります
 Q.ピントが合いません
 Q.目で見えている色と写真の色が全然違います
 Q.写真が傾いてしまいます

 これが知りたかった! カメラのトリセツ(1)
  口腔内撮影用一眼レフカメラのつくり
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 おわりに