やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 約15年前に,日本の歯科界ではカリオロジーブームが起こりました.このブームがもたらしたのは,
 ・齲窩は疾患の本質ではなく結果にすぎない
 ・齲蝕という疾患の本質は,脱灰が再石灰化を上回っていることである
 という,齲蝕に対する考え方のパラダイムシフトでした.当然,齲蝕の治療は,修復治療一辺倒から,カリエスリスクコントロールと修復治療を両立させるスタイルへの変化が求められましたが,検査キットを用いた唾液や細菌についての検査の意義が明確にできないまま,このカリオロジーブームは終わってしまいました.
 しかし,このときに紹介された「齲蝕をマネジメントしていく」というアプローチの仕方は,ブームとともに消え去っていくようなものであってはならず,筆者の診療室では,その後も根幹となる考え方はぶれずに,臨床を展開していきました.
 当院では,約20年前よりコンピュータのデータベースソフトを用いて,臨床疫学データを蓄積してきました.ある日,学生時代の恩師からそのデータを解析してみないかというお話をいただき,カリエスリスクについてさまざまな切り口で考える貴重な機会を得ました.
 本書は,そのときのカリエスリスクに関する考察や,多岐にわたる日常臨床に必要な知識を,初学者にもわかりやすいようにまとめたものです.
 齲蝕のマネジメントは,これからの歯科医療に必須のもので,そのかなりの部分を担っているのが歯科衛生士なのです.「歯科医院はむし歯を詰めてもらうところ」というイメージを「歯科医院は口の健康を管理してくれるところ」へと変化させていくことに本書が役立てば,これにまさる喜びはありません.
 2015年9月
 伊藤 中
 はじめに
Chapter 1 齲蝕とはいかなる疾患なのか
 1-1 齲蝕と齲窩は異なる
 1-2 齲蝕とは?
 1-3 カリエスマネジメントの2本の柱
 1-4 齲蝕の疫学
 1-5 齲蝕病変(1)歯冠部齲蝕(エナメル質,象牙質)
 1-6 齲蝕病変(2)小児〜若年者,乳歯の齲蝕
 1-7 齲蝕病変(3)高齢者の根面齲蝕
 1-8 齲蝕病変(4)二次齲蝕
Chapter 2 齲蝕の成り立ち(病因論)
 2-9 病因論の変遷 齲蝕原性細菌の探索
 2-10 発症のしやすさ(多因子疾患)
 2-11 口腔常在細菌叢と他のリスクの相互関連
 2-12 齲蝕原性細菌(1)ミュータンスレンサ球菌
 2-13 齲蝕原性細菌(2)ラクトバシラス菌
 2-14 齲蝕原性細菌(3)その他の酸産生菌
 2-15 食事
 2-16 唾液(1)唾液の働き
 2-17 唾液(2)唾液腺開口部と部位特異性
 2-18 唾液(3)口腔乾燥症,唾液減少症(原因と対策)
 2-19 社会・経済的要因
 2-20 歯の形態,歯質
 2-21 その他の状況 マイクロクラック,酸蝕
Chapter 3 カリエスマネジメント
 3-22 カリエスマネジメントの概要
 3-23 カリエスリスクアセスメント(1)基本的な診査
 3-24 カリエスリスクアセスメント(2)補助的な診査
 3-25 カリエスリスクの修正(1)基本的な考え方
 3-26 カリエスリスクの修正(2)齲蝕原性細菌に対して
 3-27 カリエスリスクの修正(3)ホームケア,フッ化物の使用
 3-28 カリエスリスクの修正(4)フッ化物の安全性
 3-29 カリエスリスクの修正(5)食習慣
 3-30 初期齲蝕病変の検出(1)視診,触診
 3-31 初期齲蝕病変の検出(2)X線写真
 3-32 初期齲蝕病変の検出(3)その他の補助的方法
 3-33 初期齲蝕病変のモニタリング
 3-34 初期齲蝕病変の活動性
 3-35 初期齲蝕病変の治療(再石灰化の促進)
 3-36 フィッシャーシーラント
 3-37 メインテナンス(1)メインテナンスの内容
 3-38 メインテナンス(2)メインテナンスの難しさ
 3-39 カリエスマネジメントの齲蝕抑制効果
 3-40 カリエスマネジメントの長期的効果
Chapter 4 症例から学ぶカリエスマネジメントの実践
 Case1 母子感染
 Case2 Early Childhood Caries
 Case3 家族の健康観
 Case4 生活の乱れによるリスクの変化
 Case5 唾液減少症
 Case6 シェーグレン症候群
 Case7 根面齲蝕の進行停止
 Case8 ローリスク患者の根面齲蝕
 Case9 高齢者の齲蝕コントロール
 Case10 最高のカリエスマネジメント
Column
 (1)齲蝕と遺伝
 (2)キシリトールの現在の評価は?

 さくいん
 著者略歴