やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 「整理整頓」はちょっとしたブームです.不要なものを捨てる指南役はテレビでも引っ張りだこです.いろいろな職場でも,事故を減らし,生産効率を上げるために整理整頓が行われています.その1つの“5S(整理・整頓・清潔・清掃・習慣化)”活動は東京医科歯科大学歯学部附属病院でも実施され,医療安全や不要なコストの削減に役立っています.
 実は,歯周治療学の世界でも,比較的最近,同じようなことが行われました.2006年にスウェーデンのJan Wennstrom教授らがまとめた「歯周インフェクションコントロール」の概念のことです.基本的にはこの10数年間に判明した新事実をふまえて従来の歯周治療の方法を整理し,整頓したものです.そのなかでは,歯肉縁上プラークコントロールを前提に歯肉縁下のプラークを抑制することで,歯周炎の進行を停止し,それを維持していくことを歯周治療の大きな柱の1つとしています.この概念の特徴は,無駄を捨て去った結果,とてもシンプルでわかりやすくなったことです.本書では,この歯周治療の考え方をベースにして,治療過程で次々と必要になる判断や出現する問題の解決の際に大切なことをまとめてみました.
 臨床の現場で直面する問題に対しては,それぞれに解答が用意されていません.目の前で起きている問題の原因を考え,推理して解答を探します.そのときに必ず役立つのが基本知識です.本書ではそのいくつかについて解説しましたが,同時に学校の基礎科目で学んだことと実際の臨床で経験することをつなげるためにも役立てば幸いです.ビジュアル的にも,基礎で学ぶ細胞レベルの顕微鏡の世界と臨床での肉眼レベルの世界との中間として,虫メガネ(実体顕微鏡)レベルの大きさの写真を用いた解説を心がけました.
 この本の元となったのは,私が歯科の臨床研修医のために作った教材です.そのため,内容に診断の要素が含まれています.ご存じのように,診断は歯科衛生士の業務ではありませんが,患者さんの口腔内で「これはちょっといつもと違う」「なにか別な病気かもしれない」などと気がつくことは非常に重要です.そのために必要なのはやはり基本知識です.ぜひ,“何か違う”に気がついたら歯科医師の診断へと橋渡ししてください.
 歯周治療が正しく進むと,改善していくことを目で見て感じることができます.患者さんも改善を自覚できます.治療する側としてもやりがいを実感できます.うれしいことです.
 本書が,一人でも多くの患者さんの歯周炎がよくなることに,そして治療に参加する歯科衛生士,歯科医師が充実感と達成感を覚えることに,すこしでも役立つことを願ってやみません.
 2012年 春 浦口良治
 はじめに

基礎編「考える力」を養う 基本レッスン10
Lesson 1 歯肉炎と歯周炎を見分けよう!
 DH Eyes! 01 歯肉炎と歯周炎の対応の違いは……?〜歯周炎と歯肉炎が混在したケースから〜
Lesson 2 あなたの知識,プロレベル?
 DH Eyes! 02 アタッチメントロスの原因は何?〜智歯周囲炎のケースから〜
Lesson 3 それ,本当に歯周炎?
 DH Eyes! 03 それ本当に歯周炎?〜セメント質剥離のケース〜
Lesson 4 SRPで歯周ポケットが浅くなる理由,知っていますか?
 DH Eyes! 04 プロービングでは何をみるの?
Lesson 5 それ,本当に根分岐部病変?
 DH Eyes! 05 根分岐部の検査のポイント
Lesson 6 BoPには3種類ある?
 DH Eyes! 06 プロービングのコツ
Lesson 7 SRPを始めるタイミングは患者さんの状態しだい!
 DH Eyes! 07 SRPを始めるタイミングは?
Lesson 8 “痛いSRP”と“痛くないSRP”
 DH Eyes! 08 患者さんに痛みを与えないインスツルメンテーションのポイント
Lesson 9 あなたのSRPは,“治るSRP”?〜SRP後の評価〜
 DH Eyes! 09 SRP前後の根面の探知
Lesson 10 SPTとダイエット
 DH Eyes! 10 SPTに移行した患者さん,どの部位が要注意?
応用編 こんなときどうする? ケースから学ぶ対応例
Case 1 病態を知り,治療計画を理解するために〜初期中等度慢性歯周炎のケースから〜
Case 2 SRPと歯周外科治療を併用したアプローチ〜中等度から重度の歯周炎症例から〜
Case 3 SPT移行後の再発に対応する〜リスク部位を抱えたままSPTに移行した症例から〜

 まとめの問題の答え
 索引
 執筆者一覧
 あとがきにかえて