やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 あなたが勤務している診療所では,1日に何枚くらいX線写真を撮影していますか?また,1日何回くらいシャーカステンやモニター上のX線写真を確認したり,X線写真を用いて患者さんに説明を行ったり,歯科医師やほかのスタッフと意見を交わすことがあるでしょう?おそらく,“今日は1回もX線写真を見なかった”という日は皆無ではないかと思います.それほど,X線写真は,私たちの臨床に浸透した,欠かせない画像診断ツールとして幅広く活用されています.
 X線写真は,元来三次元のものを二次元で投影させたものであるため,ほかの診査を併用し,自らの知識や経験から的確な情報を読み取る技量が問われます.三次元像であるCT写真でさえ,炎症の強弱や範囲,組織の回復力,骨欠損の原因といったものを教えてくれるわけではないため,それ相応の情報収集能力が必要になるのです.
 私が歯科臨床を始めたころ,「デンタルX線写真を1枚見れば,その人の臨床の質や姿勢がわかる」とよく先輩歯科医師に言われました.たしかに,規格性のあるX線写真が多くのことを教えてくれることを,臨床経験を積むにつれて実感しています.
 現在,私たちは,アナログ(フィルム)とデジタルが混在する過渡期の現場に身を置いています.「画質」のアナログか,「利便性」のデジタルか,ということもよく話題に上ります.最近では,デジタルX線写真の画質もすこしずつアナログX線写真に近づいてきています.将来的には,口腔内写真同様,そのほとんどがデジタルに移行する日も近いのかもしれません.いずれにせよ,X線写真1枚1枚にこだわりをもった臨床を目指し,継続していきたいものです.
 本別冊の編集にあたり,それぞれのテーマに関して一家言おもちの経験豊かな方々に執筆をお願いすることができました.Chapter1では,そもそもX線とは何なのか,X線が写る原理やどのようなX線像が望まれるのかといった基本的な事項について,Chapter2では,撮影法や現像,管理に至るまで一連の流れをステップごとに詳細に,Chapter3では,臨床で遭遇するさまざまな事象におけるX線写真読み取りのポイントをご解説いただきました.また,Chapter4では,臨床の第一線で活躍される歯科衛生士の方々に,X線写真の活用法を症例を通してご提示いただきました.
 周知のとおり,“歯科医院過剰時代”といわれる現在は,患者さんが歯科医院を選ぶ時代です.きれいで説得力のあるX線写真は,患者さんの理解を深め,信頼を得て,患者さんを医院に惹きつける材料としておおいに活用できるものだと考えます.
 本書を手にされた歯科衛生士の皆様の,明日からの歯科臨床にすこしでも効果的にお役立ていただければ幸いです.
 2011年4月
 編者代表・栃原秀紀
 はじめに
Chapter1 知っておこう!X線写真の基礎知識
 1 X線写真撮影での歯科衛生士の役割(熊谷真一)
 2 規格性をもったX線写真を撮影する意味(栃原秀紀)
 3 X線写真が写るしくみ(松永 久)
Chapter2 マスターしよう!X線写真のセッティング&管理
 1 さまざまなX線写真撮影法を知ろう(須貝昭弘)
 2 位置づけ(川瀬恵子)
 3 現像・定着・水洗・乾繰(手現像)(高木雅子)
 4 現像(自動現像)(栃原秀紀)
 5 X線写真の保管(山口英司)
 6 デジタルX線写真のセッティング(松永 久)
 7 デジタルX線写真の画像処理・データ管理(松永 久)
Chapter3 X線写真を読み取ってみよう
 1 正常像を知ろう(松田光正)
 2 パノラマX線写真を読もう(松田光正)
 3 歯周病の病態1─歯周病の基本的な病態─(熊谷真一)
 4 歯周病の病態2─骨欠損の形態─(熊谷真一)
 5 X線写真から読み解く 歯の状態・歯根の形態(熊谷真一)
 6 根分岐部病変(熊谷真一)
 7 エンド─ペリオ病変(歯内疾患と歯周病の関係)(熊谷真一)
 8 齲蝕の病態像1─初期齲蝕─(熊谷真一)
 9 齲蝕の病態像2─大きな齲蝕─(熊谷真一)
 10 歯髄の病変(熊谷真一)
 11 歯根破折(熊谷真一)
 12 補綴物の状態(栃原秀紀)
 13 セメント質の変化(熊谷真一)
 14 矯正治療による変化(菊地武芳)
 15 インプラントの変化(林 康博)
Chapter4 歯科衛生士によるX線写真の活用
 1 歯周治療におけるX線写真の活用(出口みき)
 2 リスク部位の経過観察─SPTにおける活用─(栗原明美)
 3 メインテナンス中にX線写真で大きな変化に気づいたケース(後藤理恵)
 4 X線写真を活用しての患者説明(アナログ編)(佐藤知子)
 5 X線写真を活用しての患者説明(デジタル編)(水本 優)

 Column
  (1)CCD方式のデジタルX線写真のセッティング(木公康)
  (2)被曝による影響ついて─術者の防護・患者さんへの説明(牛島 隆)
  (3)アナログX線写真とデジタルX線写真,どっちがいいの?(木公康)
  (4)CTの活用について─X線写真と比較してみよう─(牧野 明)
  (5)規格性のあるX線写真撮影のための院内トレーニング(栃原秀紀)

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