はじめに
いまや,「歯科治療の成功には歯科衛生士の力が不可欠」といわれるまでに歯科衛生士の役割は広がり,重要になっています.ブラッシング指導やスケーリング・ルートプレーニング,SPT,メインテナンスなど,歯科衛生士が中心的な役割を果たす場面は多く,炎症のコントロールやその後の定期管理によって,良好な経過をたどっているケースは確実に増えてきています.一方,歯科医院来院者の口腔の健康への意識も着実に高まっており,予防や治療技術の充実・発展とあいまって,残存歯数も増加傾向にあります.
このような状況を迎え,歯科衛生士はいま新たな現実に直面していると感じます.それは,“炎症を除去し,セルフケア・プロフェッショナルケアで口腔内を管理しているにもかかわらず,悪化するケースがある”という現実です.つまり,患者さんと歯科医療者の努力によって齲蝕や歯周病を免れ,または乗り越えて,歯を残せば残すほどに浮かび上がってくる問題,それが本書のテーマ,「力」です.
これまでは,力の関与が疑われる問題に直面しても「咬合や力の問題は歯科医師が考えるべきこと」と捉え,あえてかかわろうとはしない歯科衛生士が多かったのではないでしょうか.齲蝕予防や歯周治療における歯科衛生士の役割が明確であるのに対し,力への対応において歯科衛生士が果たすべき役割が語られることは少なく,力の問題と向き合うために必要な知識や技術を得る機会もほとんどなかったのですから,それは仕方のないことといえるでしょう.
しかし,歯科衛生士が患者さんにとってより身近な存在となり,生活環境から口腔内のわずかな変化までも察知できるだけの時間を患者さんと共有できる立場となっているいま,「力」に対しても大きな役割を果たしうる時代が来ているのではないでしょうか.
力の問題には,歯の喪失による力の集中をはじめとする構造的な要因,ブラキシズムや悪習癖など治すことが難しい習慣や癖,さらには患者さんの心身の状態などが複雑に絡み合うため,対応は困難を極めます.しかし力の問題が,齲蝕や歯周病に匹敵するほど予後に大きな影響を与える重要な要素であることを感じはじめている方も少なくないと思います.
患者さんのさまざまな変化を総合的に判断することで,力の問題に“気づき“,歯科医師とともに情報を共有して,さらにそのことを患者さんに“伝える”ことができれば,患者さんの口腔や全身の健康を,いまよりさらに“守る”ことにつながっていくでしょう.
2010年4月
編者一同
いまや,「歯科治療の成功には歯科衛生士の力が不可欠」といわれるまでに歯科衛生士の役割は広がり,重要になっています.ブラッシング指導やスケーリング・ルートプレーニング,SPT,メインテナンスなど,歯科衛生士が中心的な役割を果たす場面は多く,炎症のコントロールやその後の定期管理によって,良好な経過をたどっているケースは確実に増えてきています.一方,歯科医院来院者の口腔の健康への意識も着実に高まっており,予防や治療技術の充実・発展とあいまって,残存歯数も増加傾向にあります.
このような状況を迎え,歯科衛生士はいま新たな現実に直面していると感じます.それは,“炎症を除去し,セルフケア・プロフェッショナルケアで口腔内を管理しているにもかかわらず,悪化するケースがある”という現実です.つまり,患者さんと歯科医療者の努力によって齲蝕や歯周病を免れ,または乗り越えて,歯を残せば残すほどに浮かび上がってくる問題,それが本書のテーマ,「力」です.
これまでは,力の関与が疑われる問題に直面しても「咬合や力の問題は歯科医師が考えるべきこと」と捉え,あえてかかわろうとはしない歯科衛生士が多かったのではないでしょうか.齲蝕予防や歯周治療における歯科衛生士の役割が明確であるのに対し,力への対応において歯科衛生士が果たすべき役割が語られることは少なく,力の問題と向き合うために必要な知識や技術を得る機会もほとんどなかったのですから,それは仕方のないことといえるでしょう.
しかし,歯科衛生士が患者さんにとってより身近な存在となり,生活環境から口腔内のわずかな変化までも察知できるだけの時間を患者さんと共有できる立場となっているいま,「力」に対しても大きな役割を果たしうる時代が来ているのではないでしょうか.
力の問題には,歯の喪失による力の集中をはじめとする構造的な要因,ブラキシズムや悪習癖など治すことが難しい習慣や癖,さらには患者さんの心身の状態などが複雑に絡み合うため,対応は困難を極めます.しかし力の問題が,齲蝕や歯周病に匹敵するほど予後に大きな影響を与える重要な要素であることを感じはじめている方も少なくないと思います.
患者さんのさまざまな変化を総合的に判断することで,力の問題に“気づき“,歯科医師とともに情報を共有して,さらにそのことを患者さんに“伝える”ことができれば,患者さんの口腔や全身の健康を,いまよりさらに“守る”ことにつながっていくでしょう.
2010年4月
編者一同
はじめに
COLOR GRAPH サインを見逃さないで!「力」の影響が疑われるさまざまな現象と変化(監修:牛島 隆・森本達也・熊谷真一)
CHAPTER1 「力」を知ろう
1 「力」ってどんなもの?─力を与える側の因子(1)─機能運動に潜む危険性(牛島 隆)
2 「力」ってどんなもの?─力を与える側の因子(2)─非機能運動による力(牛島 隆)
3 「力」ってどんなもの?─力を受ける側の因子(熊谷真一)
4 「力」によって口腔内はどのように変化していくの?(森本達也・牛島 隆・熊谷真一)
CHAPTER2 「力」が関与するケースへの治療・対応の基本を理解しよう
1 長期経過観察からみえてくる 歯科衛生士が「力」を学ぶ必要性(林 康博)
2 「力」の診査・診断方法を知っておこう(森本達也)
3 SRPの前に理解しておきたい「力」の問題─歯周病症例における力の問題を推察してみよう!─(鷹岡竜一)
4 インプラント部位に現れる「力」の徴候─天然歯との違いを理解しよう─(武田孝之)
5 「力」のコントロールが必要な患者さんへのアドバイスと対応(仲村裕之)
CHAPTER3 「力」が関与するケースにおける歯科衛生士の役割を学ぼう
1 「力」の関与が疑われる患者さんへの情報収集・問診と説明のポイント(岡本めぐみ)
2 「力」の関与の有無をいかにして探っていくか─診断の過程と歯科衛生士の役割─(牧 宏佳・大野綾子)
3 「力」の関与が疑われるケースを担当して─私が考えたこと・行ったこと・伝えたこと─(磯部ひより・松本美保・中井由美子・壬生秀明)
4 「力を与える側」「力を受ける側」への対応における歯科衛生士の役割(牧野 明・畔川澄枝)
5 「ミクロ」の視点に「マクロ」の視点を加えていこう─強い咬合力と不利な欠損形態をもつ患者さんへの歯周治療─(松田光正・井手和子)
6 20年経過症例から「力」の問題を振り返る─気づくことができた徴候・見逃してしまった徴候─(品田和美)
CHAPTER4 「力」にアプローチするための必須用語集
1 基準面(星野由美・中野雅徳)
2 顎口腔系(沖 和広・皆木省吾)
3 咬合関係の要件(星野由美・中野雅徳)
4 咬合様式(横山敦郎)
5 咬合面(添野光洋・平 曜輔・澤瀬 隆)
6 咬合調整(岡 森彦・皆木省吾)
7 咬合力(横山敦郎)
8 欠損歯列の分類と咬合支持(永尾 寛・市川哲雄)
9 咀嚼能力(横山敦郎)
10 支持・把持・維持(後藤崇晴・市川哲雄)
11 リジッドサポート(横山敦郎)
12 義歯の動揺(岡島雅代・永尾 寛・市川哲雄)
13 被圧変位(尾立哲郎・平 曜輔・澤瀬 隆)
14 変形と破壊(内藤禎人・市川哲雄)
15 材料定数(内藤禎人・市川哲雄)
16 歯冠-歯根比(宮原健治・平 曜輔・澤瀬 隆)
17 延長ブリッジ・カンチレバー(鎌田幸治・平 曜輔・澤瀬 隆)
18 顎関節症と顎変形症(兒玉直紀・皆木省吾)
19 咬合性外傷(洲脇道弘・皆木省吾)
20 骨の吸収と形成(渡邉 恵・市川哲雄)
おわりに
索引
編者・執筆者一覧
COLUMN
1 森本歯科医院における骨隆起の調査から(森本達也)
2 これだけは覚えておきたい 重さや力の大きさを表す単位(市川哲雄)
3 歯の「動揺」と「フレミタス」その違いとは?(市川哲雄)
4 使用後のナイトガードを観察して,診断に活かそう(牧野 明)
5 「力」と「骨の吸収・形成」の関連性を示すエビデンスはあるのか(市川哲雄)
COLOR GRAPH サインを見逃さないで!「力」の影響が疑われるさまざまな現象と変化(監修:牛島 隆・森本達也・熊谷真一)
CHAPTER1 「力」を知ろう
1 「力」ってどんなもの?─力を与える側の因子(1)─機能運動に潜む危険性(牛島 隆)
2 「力」ってどんなもの?─力を与える側の因子(2)─非機能運動による力(牛島 隆)
3 「力」ってどんなもの?─力を受ける側の因子(熊谷真一)
4 「力」によって口腔内はどのように変化していくの?(森本達也・牛島 隆・熊谷真一)
CHAPTER2 「力」が関与するケースへの治療・対応の基本を理解しよう
1 長期経過観察からみえてくる 歯科衛生士が「力」を学ぶ必要性(林 康博)
2 「力」の診査・診断方法を知っておこう(森本達也)
3 SRPの前に理解しておきたい「力」の問題─歯周病症例における力の問題を推察してみよう!─(鷹岡竜一)
4 インプラント部位に現れる「力」の徴候─天然歯との違いを理解しよう─(武田孝之)
5 「力」のコントロールが必要な患者さんへのアドバイスと対応(仲村裕之)
CHAPTER3 「力」が関与するケースにおける歯科衛生士の役割を学ぼう
1 「力」の関与が疑われる患者さんへの情報収集・問診と説明のポイント(岡本めぐみ)
2 「力」の関与の有無をいかにして探っていくか─診断の過程と歯科衛生士の役割─(牧 宏佳・大野綾子)
3 「力」の関与が疑われるケースを担当して─私が考えたこと・行ったこと・伝えたこと─(磯部ひより・松本美保・中井由美子・壬生秀明)
4 「力を与える側」「力を受ける側」への対応における歯科衛生士の役割(牧野 明・畔川澄枝)
5 「ミクロ」の視点に「マクロ」の視点を加えていこう─強い咬合力と不利な欠損形態をもつ患者さんへの歯周治療─(松田光正・井手和子)
6 20年経過症例から「力」の問題を振り返る─気づくことができた徴候・見逃してしまった徴候─(品田和美)
CHAPTER4 「力」にアプローチするための必須用語集
1 基準面(星野由美・中野雅徳)
2 顎口腔系(沖 和広・皆木省吾)
3 咬合関係の要件(星野由美・中野雅徳)
4 咬合様式(横山敦郎)
5 咬合面(添野光洋・平 曜輔・澤瀬 隆)
6 咬合調整(岡 森彦・皆木省吾)
7 咬合力(横山敦郎)
8 欠損歯列の分類と咬合支持(永尾 寛・市川哲雄)
9 咀嚼能力(横山敦郎)
10 支持・把持・維持(後藤崇晴・市川哲雄)
11 リジッドサポート(横山敦郎)
12 義歯の動揺(岡島雅代・永尾 寛・市川哲雄)
13 被圧変位(尾立哲郎・平 曜輔・澤瀬 隆)
14 変形と破壊(内藤禎人・市川哲雄)
15 材料定数(内藤禎人・市川哲雄)
16 歯冠-歯根比(宮原健治・平 曜輔・澤瀬 隆)
17 延長ブリッジ・カンチレバー(鎌田幸治・平 曜輔・澤瀬 隆)
18 顎関節症と顎変形症(兒玉直紀・皆木省吾)
19 咬合性外傷(洲脇道弘・皆木省吾)
20 骨の吸収と形成(渡邉 恵・市川哲雄)
おわりに
索引
編者・執筆者一覧
COLUMN
1 森本歯科医院における骨隆起の調査から(森本達也)
2 これだけは覚えておきたい 重さや力の大きさを表す単位(市川哲雄)
3 歯の「動揺」と「フレミタス」その違いとは?(市川哲雄)
4 使用後のナイトガードを観察して,診断に活かそう(牧野 明)
5 「力」と「骨の吸収・形成」の関連性を示すエビデンスはあるのか(市川哲雄)