やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 歯科における薬剤の使い方の解説書は,抗生物質の内服による化学療法など口腔外科を中心とする歯科医師向けのものばかりで,歯科衛生士がペリオ・カリエスの予防を目的として外用塗布剤を使う方法を集中的に解説したものがありませんでした.しかし,抗菌薬・殺菌薬やフッ化物などの薬剤の外用塗布による予防歯科診療は,歯科衛生士法で定められている重要な業務です.プラークやバイオフィルムの機械的除去法であるPMTCが広く行われ始めたいま,過度のPMTCによる副作用(磨きすぎ)を予防するためにも,PMTCを補完する手法として外用塗布剤の併用(プロフェッショナル・ケミカル・トゥース・クリーニング:PCTC)が検討され,本書でも述べられているようにDental Drug Delivery System(3DS)としてマニュアル化されています.
 フッ化物の使用に関しても,今日ではかつて論じられた低濃度フッ化物の全身投与によるハイドロキシアパタイトからフルオロアパタイトへの変化よりも,高濃度のフッ化物の外用塗布や洗口による歯面でのフッ化カルシウムの形成とそこからのフッ化物イオンの持続的徐放が再石灰化を促進する効果がより重視されています.
 抗菌薬・殺菌薬やフッ化物には,それぞれ異なった薬効と不適切な使用による副作用が認められています.そこで,予防歯科診療における薬剤の使い方を専門家にわかりやすく解説していただく必要がありました.
 本書の執筆にあたった先生方は,臨床の第一線で活躍している方々です.歯科診療所における定期管理の手法として期待されるPCTCの具体的な手法を解説した本書を,これからの予防歯科時代の座右の書として,1人でも多くの歯科衛生士および歯科医師に活用していただくことを願ってやみません.

2005年10月
国立保健医療科学院口腔保健部部長
花田信弘
 ・はじめに
 ・執筆者一覧

序章 予防歯科を正しく知ろう
 (1)データから見た予防歯科(野村義明・西川原総生・花田信弘)
 (2)歯科衛生士が実践する予防歯科(花田信弘)
1章 バイオフィルムと抗菌療法
 (1)プラークから「バイオフィルム」へ(花田信弘)
 (2)PMTCと抗菌療法(西川原総生・奥田健太郎・武内博朗・野村義明・花田信弘)
 (3)各種細菌検査(西川原総生・野村義明・奥田健太郎・花田信弘)
 (4)Dental Drug Delivery System(3DS)―齲蝕原性菌,歯周病関連菌の制御と発症前リスク低減療法―(武内博朗・岡山秀仁・花田信弘)
2章 知っておきたい抗菌薬
 (1)抗菌薬の作用のしくみ(坂本春生)
 (2)抗菌薬の投与法について(坂本春生)
 (3)抗菌薬投与の注意点(坂本春生)
 (4)ミノサイクリン含有歯周ポケット治療薬(坂本春生)
 (5)診療室における歯周疾患のリスク低減療法(武内博朗・山吹綾乃・冨澤利予)
3章 知っておきたい殺菌薬
 (1)歯周治療における殺菌薬の考え方(沼部幸博)
 (2)殺菌薬の作用のしくみ(沼部幸博)
 (3)薬剤の種類と効能(沼部幸博・武内寛子)
 (4)殺菌薬:知っておきたい副作用と禁忌(沼部幸博)
 (5)臨床応用のポイント(沼部幸博)
 (6)殺菌薬を口腔環境の整備に活かす(川辺良一)
 ◆もっておきたい知識◆
  歯科口腔外科における殺菌薬の使用(川辺良一)
4章 知っておきたいフッ化物
 (1)フッ化物がカリエス予防に効くしくみ(福田雅臣)
 (2)フッ化物をいろいろな面から見てみよう(福田雅臣)
 (3)フッ化物の種類と効能(福田雅臣)
 (4)臨床応用するうえで知っておいてもらいたいこと(福田雅臣)
 (5)プロフェッショナルケアとしてのフッ化物応用(伊藤 中・福田準子・竹永志穂・白井美知子)
 (6)ホームケアとしてのフッ化物応用(伊藤 中・福田準子・竹永志穂・白井美知子)

 ・付 海外の製品情報(品田佳世子)
 ・編集後記