やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
歯科医師からのエール
浦口昌秀(歯科医師)
 本書は,新人歯科衛生士に効率的に仕事を覚えてもらうことを目的として編集されました.臨床の現場では学生時代のように体系的に学習することは困難ですから,本書をガイドブックとして歯科衛生士としての基本的な能力を身につけてほしいと思います.また,忙しいなかで新人教育を担当される方々の指導要綱としても活用できるのではないかと考えています.
●歯科衛生士の活躍の広がり
 予防歯科の進歩と普及によって,歯科衛生士は以前にも増してやりがいのある仕事になろうとしています.これまでは歯科医療=歯科治療でしたから,歯科衛生士をはじめとするコデンタルスタッフの仕事は,歯科医師がその技術を最大限に発揮できるようにサポートすることが中心でした.しかし,これからの歯科は予防・治療一体型へ移行し,さらには全身の健康増進へと発展していこうとしています.
 もともと国民の関心は治療よりも予防にあるはずですし,「国民の支持を得た職業は繁栄し,そうではないものは衰微する」わけですから,国民の健康と歯科界の発展の両面から歯科衛生士の活躍が期待されています.実際に院内でのメインテナンス率は増加していますし,多数の要介護者の方々が施設や在宅で歯科衛生士の口腔ケアを待っています.これらは,歯科衛生士でなければできない価値の高い仕事なのです.
 また,インプラントなどの高度先進医療や母親学級・企業検診などの啓蒙活動,予防歯科の可能性の追求など,広がりゆく歯科医療の現場でも優秀な歯科衛生士が必要とされています.歯科衛生士がこのような期待に応えて成長していくためには,それぞれの時期に応じた目標を立てて進んでいくことが大切だと思われます.
●1〜3年目:基礎づくり
 まず,歯科衛生士になって1〜3年目は基礎づくりの時期に相当します.社会人としての心構えや,器具・材料の名称,取り扱いなど基本的な院内業務がきちんとできるようにならなければなりません.受付業務や事務処理,技工物製作など直接自分とは関係なさそうな周辺業務にも興味をもってほしいと思います.医院全体の流れがわかることによって,自分の仕事への理解が深まるからです.
 3年もすれば,通常の患者さんのメインテナンスは支障なくできるようになるでしょうし,医院によっては後輩を指導することもあるでしょう.そのことによって違った視点からものを見ることができるようになり,人間としての幅が広がることになります.
●4年目以降:中堅スタッフとして
 4年目以降になると,いろいろな面で頼りにされる存在になります.たとえば予防の分野では,バイオフィルム感染症(齲蝕と歯周病)の知識に自分の臨床経験を重ね合わせることによって,患者さんごとに広い視野で適切なメインテナンスができるようになります.また,仮に予想どおりにいかなかった場合でも工夫を加えながら問題を解決し,メインテナンスモデルの改良に役立てることができるようになったりします.これは「科学者としての眼」ができてきたことを意味します.
 このころになると手先の巧緻性が格段に向上してきますので,メインテナンスに限らず臨床のさまざまな場面でスムーズに仕事をすることができるようになります.また,医院の特徴や歯科衛生士の個性によって,外科手術,院外活動,データ分析,教育や人事管理など,得意な分野や専門性を見つけて深められるようになります.
 これらの歯科衛生士のなかから,将来歯科界を牽引していく人材が育っていくのだろうと思いますが,指導的立場にある歯科衛生士には,人間的魅力を兼ね備えた立派な社会人であることが期待されます.その期待に応えていけるかどうかが,実力派歯科衛生士の課題の1つであるといえるでしょう.
●仕事を長く続けよう
 さて,十分な知識や技術が身につき,仕事のやりがいや手ごたえが高まってくる20代後半からは,結婚や出産,育児,夫の転勤,親の介護など,身辺な環境変化が起きてきます.この年齢以降の歯科衛生士には,ライフサイクルとの調和を図ることが大きな課題です.昨今では女性の社会進出を促すためにさまざまな制度が整備されていますから,院長や社会保険労務士に,社会保障制度の活用について相談してみるとよいのではないでしょうか.
 日本社会には女性の若さに価値を置き,経験や実績を過小評価する傾向があります.また,女性の側にも年齢を重ねることをマイナスに感じる風潮があります.実際の統計では,社会経験や実績によって女性の幸福度が向上していくという結果が出ているわけですし,よい生き方をすることが幸福につながる社会のほうが健全なのですから,自信をもって人生経験を積み重ねてほしいと思います.
 歯科衛生士が仕事を続けていくことは,このような社会の誤謬を取り除くためにも価値のあることです.事情によっては,一時的にリタイアせざるをえない場合もあるでしょうけれども,基本的な実力を身につけていればカムバックは難しくありません.そのようなときに,本書を知識の再確認のために活用してほしいと思います.
 本書が歯科衛生士人生の折々で役に立てば,それにまさる喜びはありません.

 2004年4月
デンタルハイジーン別冊 これだけは身につけたい診療室のベーシックワーク

はじめに
執筆者一覧

1章 はじめの一歩――社会人の基本・1週間
 (1)スタッフとして・社会人として 蔭原桂子
 (2)診療室を知る 三好由紀子・本多美奈・渡邊あゆみ
 (3)チェアユニットを知る 中村香代子・佐取裕子・近藤久美子・佐藤亜也子
 (4)受付の仕事を知る 久野 彩・森田恵理子
 (5)朝の準備 石丸梨紗・天野亜由・鈴木優子
 (6)患者さんごとの片づけ 島川明子・溝下理絵・鈴木恵美
 (7)終了時の片づけ 松井由美子・志賀由季子

2章 チェアサイドアシスタント――動く・覚える・2週間
 (1)器材の準備―先輩と練習してみよう― 品田和美
 (2)器材の準備―自分のノートを作る― 品田和美
 (3)器材受け渡しの原則 品田和美
 (4)ライティングの原則 品田和美
 (5)バキューム操作の原則(1) 品田和美
 (6)バキューム操作の原則(2) 品田和美
 (7)チェアユニットの操作 品田和美

3章 患者さんデビュー――対応する・1カ月
 (1)患者さんへの挨拶と紹介 小川麻衣子
 (2)チェアへの誘導と診療準備 加納治江
 (3)治療中の患者さんへの声かけと観察 関塚なつみ・濱田真依・久島亜沙子
 (4)治療中にアシスタントが気をつけること 東方有日子・高橋沙織・
 中根沙織・田茂直美
 (5)患者さんに質問されたら 細谷裕代
 (6)チェアサイドでの患者さんへの配慮 品田和美
 (7)患者さんの基礎情報を知る 治 ゆかり・須藤麻美・嘉手苅りか・工藤真帆・三原真富香
 
4章 診療室のマネジメント――知る・覚える・3カ月
 (1)器具・器材管理の基本 高橋真紀・小森朋栄・高橋英登
 (2)器具・器材の配置と整理 高橋真紀・小森朋栄・遠山佳之
 (3)消毒・滅菌 吉田真規子・小森朋栄・高橋英登
 (4)感染症対策 吉田真規子・小森朋栄・遠山佳之
 (5)医療廃棄物の処理 安岡朗子・小森朋栄・高橋英登
 
5章 診療補助(1)――知る・慣れる・6カ月
 (1)問診票(予診票) 小関美智子
 (2)規格性のあるX線写真の必要性 鷹岡竜一・南 真弓
 (3)X線写真の位置づけ 鷹岡竜一・南 真弓
 (4)X線写真の現像 鷹岡竜一・南 真弓
 (5)印象材の練和 佐野洋子
 (6)合着材の練和 土肥孝子
 (7)口腔内写真の撮影 堀田直子・林 園子
 (8)テンポラリークラウン 畔川澄枝
 (9)外科手術時のアシスタント 宮脇雅代
 
6章 診療補助(2)――練習・上達・1年
 (1)プラークインデックス 伊藤朋美・遊佐典子
 (2)プロービング 松本美奈子・遊佐典子
 (3)齲蝕と歯周病の唾液検査 小掠裕美・遊佐典子
 (4)全身状態の把握 局 優佳・遊佐典子・楠原 文
 (5)術者磨き 南條梨紗・遊佐典子
 (6)PMTCの知識 中島智子・遊佐典子
 (7)PMTCの実際 澁谷千枝子・遊佐典子
 
7章 自己評価をしよう
 (1)技術的能力を自己評価してみよう 高津茂樹
 (2)態度的能力を自己評価してみよう 高津茂樹
 (3)キャリアづくりを考えておこう 高津茂樹
 付章 新分野にも目を向けてみよう
 (1)企業検診 林 直美
 (2)訪問歯科診療 田所久永
 (3)予防ルームの運営 蔭原桂子
 (4)静脈内鎮静法による集中治療 西田佳史
 (5)インプラント治療 長塚小都乃
 (6)公衆衛生活動 大沢真里子
 (7)Dental Drug Delivery System 武内博朗・浦口昌秀

必読の関連図書
編集後記