やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに

 この別冊のタイトルは『歯肉縁下のプラークコントロール』となっています.「おや?」と思われた方は勘が鋭い! 従来,ここには「ルートプレーニング」という言葉が使われてきました.しかし現在では,「歯周病に罹患し健康な状態を失った根面をとりまく環境をどう整えていくのか」という基本的な概念が変化してきているのです.
 いままでに,ルートプレーニングに関するさまざまな文献があるにもかかわらず,本別冊を作ろうと思ったきっかけは,この「変化」について歯科衛生士の方々に知っておいていただいたほうがよいと考えたからです.大学で研究活動をしながら臨床を行っている新田,一般開業医で歯科衛生士として働いている品田,大学病院で歯科衛生士として教育的立場にもある島田,一般臨床医である北川原の4人で構想を練りました.
 本別冊を読んでいただけば,「歯肉縁下のプラークコントロール」が現在どのように考えられているのか,かなり明確になることと思います.しかしながら,歯周病治療のゴールをどこに置くのかは,実は術者によって考え方に差があります.ゴールに対する考え方に差があるのですから,それに至る過程に違いがあるのは当然のことで,この別冊のなかでも考え方の違いをある程度明確にしようと試みてはいますが,それを無理矢理1つにまとめようとしてはいません.ですから,お読みになった方はちょっと戸惑うかもしれません.
 しかし,臨床にはそういう多様性がつきものです.まず,患者さんの歯周組織をよく見てみましょう.
 そして,何をするのかをよく考えてみて,何かをしてみて,またその反応をよく観察し,そしてまた何かをするという手順のなかで,2000年デンタルハイジーン別冊『これでマスタープロービング』とともに本別冊がお役に立てば,編者としてこんなにうれしいことはありません.
 2002年11月 北川原 健・新田 浩・品田和美・島田昌子
はじめに

1章 歯周病罹患歯の歯肉縁下処置をどう考えるか
 座談会/北川原 健・新田 浩・品田和美・島田昌子
  根面処置の概念の変化/臨床での変遷―歯科衛生士の立場から/オーバーインスツルメンテーション/治療のゴールをどこに設定するのか/歯石は取るべきか?/超音波スケーラーの応用/縁上のプラークコントロールが大事

2章 歯肉縁下プラークコントロールの概念の変化
 (1)目的から考える歯肉縁下プラークコントロールの概念の変遷・新田 浩
  はじめに/スケーリング・ルートプレーニング時代(〜1980年ごろ)/歯根表面デブライドメント時代(1980〜2000年ごろ)/歯肉縁下デブライドメント時代(2000年〜)
 (2)生物学的に受け入れられる歯肉縁下環境・新田 浩
  オーバーインスツルメンテーションとミニマルインターベンション/「根面」と「歯肉縁下環境」の概念の違い/「生物学的に受け入れられる」とは

3章 歯周病治療の基礎知識
 (1)プラークの生成とバイオフィルム・古瀬大治・小田 茂・新田 浩
  プラーク=バイオフィルム?/歯肉縁上プラークの形成/プラークの成長速度・成長パターン
 (2)付着の様式・古瀬大治・小田 茂
  接合上皮付着/結合組織性付着/新付着/再付着/長い上皮性付着
 (3)歯石の原因論・古瀬大治・小田 茂
  歯肉縁上歯石と歯肉縁下歯石/歯石の成分/歯石の形成/石灰化のしくみ/歯石と歯面の付着様式
 (4)歯周病罹患歯の歯面・根面を見る・古瀬大治・小田 茂
  マクロで見る歯面・根面/ミクロで見る歯面・根面

4章 歯肉縁下へのアプローチを始める前に
 (1)歯肉縁下への処置前に頭に入れておかなければならないこと・北川原 健
  プロービングデプスだけでは不十分!/イメージを作る
 (2)術後の評価と次の処置・北川原 健
  歯の動揺を考慮する大切さ/評価と次の処置/症例/症例
 (3)超音波スケーラーの特徴・島田昌子
  超音波スケーラー応用の変遷/超音波スケーラーのしくみ/基本的な機能/特殊な機能
 (4)超音波スケーラーの動かし方・島田昌子
  チップの確認とハンドピースの把持/ストロークの方法/感染予防および使用後のメインテナンス
 (5)キュレットによる歯根表面のデブライドメント・新田 浩・工藤 求
  ここでキュレットが登場する/キュレットの種類/キュレットによる削除量と側方圧の関係/キュレットの切削面積について
 (6)グレーシーキュレットの特徴と使用法・新田 浩・工藤 求
  グレーシーキュレットの形態的特徴/スケーラーの当て方/スケーラーの動かし方/カッティングエッジと根面との接触点の軌跡/根面の形態の把握

5章 歯肉縁下処置の実際
 (1)歯肉縁下処置の実際―その1-・品田和美
  歯肉縁下環境の整備/診査結果の理解とトリートメントプランニング/器具の選択とチェックポイント/デブライドメントの実際/根分岐部への対応/術後の評価と再トライ/SPTでの根面清掃
 (2)デブライドメントの実際―その2-・島田昌子
  私の考える歯肉縁下プラークコントロール―よりよい予後のために/診査結果の理解とトリートメントプランニング―歯科衛生士の立場から/器具の選択とチェックポイント/デブライドメントの実際/根分岐部への対応/術後の評価と再トライ/SPTでの歯肉縁下プラークコントロール

6章 症例から考えたこと
 (1)どんなときに悪化するのか・北川原 健
  力の問題がある場合/喫煙習慣がある場合/全身状態やストレスに問題のある場合
 (2)歯周外科に踏み切るとき・永田省藏・斉藤昌子
  症例/初診時の診査と歯周基本治療/歯周外科の結果とそれにかかわる環境
 (3)手術時の根面清掃・佐々木 勉
  SPTが大切/歯周病の悪化と根面清掃
 (4)歯肉縁上から攻める・小西昭彦
  プラークコントロールが大切/歯肉の治癒過程/歯肉縁下への盲目的アプローチは不要

7章 Q&A
 北川原 健・金子聰美・清水由紀・世継久佳・今井久美子・田畑智子・齊藤友希
 概念の変化への戸惑い/根面処置の程度について/麻酔・知覚過敏・術後の腫脹