やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 コバルトコーヌスとは,「コバルトクロム合金を,内冠および外冠フレーム材として適応した,コーヌスクローネ」の通称である.
 日本の歯科臨床現場で使用されるコーヌスクローネという言葉は,旧・西ドイツ領にあったキール大学のDr.K.H.Korber教授により開発された補綴装置の考え方およびその形態である.正式名称は「Konus-Kronen Teleskope」であり,1968年に同標記の第一版が著されている.その後,版を重ね,1983年に発表された第5版が1986年に河野正司先生,五十嵐順正先生によって日本語翻訳され,医歯薬出版株式会社から出版されたことで,日本でもその名が広く知られることとなった.コーヌスクローネ補綴の詳細については本書の本編にて詳しく解説されるが,わかりやすく定義すると,「円錐状に成形された内・外冠の嵌合による金属弾性変形から得られる維持力を応用した義歯形態」ということになる.
 次に,コバルトクロム合金は,Co(コバルト),Cr(クロム),Mo(モリブデン)を主体に構成されている合金であり,歯科での臨床応用の歴史はきわめて古い.いわゆる金属床用のマテリアルとしては周知の通り現在でも最も多用されており,ワイヤークラスプや屈曲用バー類,さらには矯正用ワイヤーとして,現在でも臨床応用されている.歯科領域外の医療分野においても人工関節などに使用されており,一種の“バイオメタル(Bio-Metal)”としての役割を果たしていると言えよう.その一方で,金属アレルギー等の因子の一つであるという指摘もあり,未だ解明されていない部分があるのも事実であろう.これら生体に対する作用に関しても,本書ではできうる限りの解明を試みている.
 コバルトコーヌスとは,上記の二項目を単純に組み合わせたものではあるが,本書の執筆に従事する歯科医師,歯科衛生士,歯科技工士メンバーにおいては,実はそこから派生して,補綴装置に対するさまざまな考え方の変化があった.筆者らは二年近い研究の末に,コバルトコーヌスを臨床で応用し始め,ついには7年以上の歳月を経過するに至った.その間,失敗や成功,そしてそこから得られた成果を実体験し,コバルトコーヌス補綴において「できること・できないこと」「したほうが良いこと・しないほうが良いこと」「これからすべきこと」が明確になってきたことを実感している.本書では,現段階でわかっているそれらをできうる限りの「科学的根拠」と,また「仮説」を示しながらまとめ,次なるステージへの礎にしたいと考えた.
 「基礎編」では,コーヌスクローネそのものの考え方や設計等に必要な知識,また,コバルトクロム合金そのものの理解や生体に対する作用等についてまとめた.そして,一つの症例を通して,実際の細かい治療の進め方を解説している.これにより,読者の方々の臨床への応用がおこないやすくなれば幸いである.「臨床編」では,コバルトコーヌス応用の実際の臨床作業,特にクリニカルサイドで求められる個々の知識や術式をまとめ,臨床上での成果を高めるヒントとしたい.「技工編」では,コバルトコーヌスを製作するためのさまざまな技工術式について,その考え方および実際の術式を示したいと考えている.
 コバルトコーヌスの補綴臨床は,筆者らが臨床応用を始めてからまだごく浅い年月しか経っていないことは重々承知している.そこから得られた少ない情報を元に本書を筆することには若干の抵抗もあったが,逆に,本法を臨床応用することに大きな意義を感じ,さらにそれを伝えることの重要性がそうした不安を上回ったというのが本音でもある.既存の補綴臨床の考え方を大きく変える可能性を秘めている本法に関して,読者の皆様のお叱りもいただきながら,さらなる展開・発展に寄与していきたいと考えている.
 最後に,筆者らは,コバルトコーヌスの生みの親ともいえるDr.K.H.Korber先生に最大限の賛辞を送るとともに,本書を含む全三編を捧げる想いである.
 CK.Party 一同
序章 コバルトコーヌスとこれからの全顎補綴臨床 超高齢社会におけるコバルトコーヌスの役割
第1章 コバルトコーヌスの原理・原則
第2章 コバルトコーヌス設計の基本的な考え方
第3章 コバルトコーヌスによる支台歯の固定効果
第4章 外冠部上部構造体の外装材に対する考え方
第5章 コバルトクロム合金の歯科理工学的性質
第6章 コバルトクロム合金の生体親和性〈前編〉―医科領域から考える臨床的意義
第7章 コバルトコーヌス臨床の実際
第8章 コバルトコーヌスのメインテナンス
附章 コバルトコーヌス臨床の疑問に答える13のQ&A