序文
　CAD/CAMテクノロジーは1970年代後半から歯科医療に用いられるようになり，黎明期，発育期を得て，現在，安定期に入りつつある．その発展ぶりは2年に一度開催されるケルンでのIDSにおいて垣間見ることができる．IDSにおいて以前は，インプラント治療に関わる器材が中心であったが，最近ではCAD/CAMテクノロジーに関わる機械や材料が大勢を占め，しかも年々大型機種からコンパクトで精度の高い機種，そして対応可能な多種多彩な材料の展示が行われるようになってきた．また，いわゆるクローズドシステムからオープンシステムへの転換が図られ，まさにインターネットを介してデータでの情報交換が可能なCAD/CAMテクノロジー本来の特性が活かせるように発展してきた．さらには，医療や歯科医療におけるデジタル化によって，数多くの環境システムとのデータの互換性や相互通信も可能となり，安定期とはいえ，一方ではまだまだ発展途上のものもある．
　さて，CAD/CAMテクノロジーが歯科医療に導入されて最も重要な特性は，患者に安全，信頼できる補綴装置を安定的に供給できることである．すなわち，CAD/CAMテクノロジーは自動車産業をはじめ工業界から歯科医療に導入されたもので，生産ラインにおけるトレーサビリティが確実に行えること，均質安全な素材をそのまま切削加工することによって常に安定した補綴装置が提供できること，さらにコンピュータ制御によってシンプルで短時間に製作が可能なことなどがメリットである．これまで歯科医師や歯科技工士の卓越した技能によって精度の高い補綴装置が製作されてきたが，いわゆる「匠の技」的な要素があり，人の技能によって仕上がり精度が異なることがあった．CAD/CAMテクノロジーでは常に一定レベルの品質が保証でき，日本の保険診療にはマッチしたものであると考えられてきたが，平成26年4月の保険診療の改定時に図らずも「CAD/CAM冠」として導入された．しかし，補綴装置は機械化によってすべてが完成されるものではなく，現状では模型の製作やコンピュータ操作，加工された装置の適合性や色調再現などはアナログ的作業が必要である．まさに，高品質高精度な補綴装置を仕上げるためには機械と人とのコラボレーションが必要であることは言うまでもない．
　CAD/CAMテクノロジーが歯科診療に定着し，さらに普及するためにはCAD/CAMテクノロジーに関わる基礎的な知識とともに必須のテクニック（技術）が不可欠である．もっともこれまでの補綴治療の基本的な要件は遵守しなければならないが，CAD/CAMテクノロジーを有効に活用するためには適用材料の特性を踏まえた支台歯形成や接着操作，研磨方法などはことのほか重要である．今回，日本デジタル歯科学会ではCAD/CAMテクノロジーを効率的に利用してさらにグレードの高い補綴臨床を啓蒙するために，日本でもトップレベルの先生方に執筆を依頼して，「最新　CAD/CAM歯冠修復治療」を発刊するに至った．
　今後の歯科医療において必須のアイテムとなるCAD/CAMテクノロジーについて本書を活用していただき，臨床的観点から十分ご理解を得てステップアップした臨床を目指していただきたい．
　平成26年11月
　編集委員
　日本デジタル歯科学会　会長　大阪歯科大学歯科審美学室
　末瀬一彦
　日本デジタル歯科学会　前会長　昭和大学歯学部歯科理工学部門
　宮�ｱ　隆