やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 Branemarkによって提唱されたオッセオインテグレーションの概念とともにインプラント治療が年々普及し,当初の無歯顎から部分無歯顎,そして単独歯へとその治療対象を広げてきた.最近では患者のニーズに応えて,インプラント補綴治療は,さらに即時負荷や抜歯後即時埋入などの術式へと発展してきている.一方,患者のニーズという点では,審美性を考慮した歯科治療を望む声も最近とみに高まり,材料の新規開発や性能向上とともに審美補綴治療が急速に発展してきている.
 これらの領域は,いずれも補綴領域の治療ではあるものの,従来の補綴学の枠には収まりきれない概念を含んでいる.すなわち,生体材料,接着科学,生体反応,歯周病学,外科手術手技,再生医学などの領域とも重なり,学際的で領域が広い.また,これらの領域の発展はパラダイムシフトを不可避なものとし,治療に対する考え方を,従来の補綴治療とは根本から変えなければならない場合も多い.
 歯科医師にとってこれらの領域を勉強するのは容易ではない.実際,これらの領域を記述した書籍をひもとくにしても,厚い本を何冊も読破しなくてはならない.また雑誌では,up-to-dateな臨床的トピックを概観できるものの,多様な記事を掲載するという誌面の都合上,幅広い基本的事項が網羅的に解説される機会はあまりない.したがって,学生や研修医などの初学者が,インプラント補綴や審美補綴領域の書籍や雑誌上の論文で勉強する際には,そのなかで当然のように使われている用語,分類,概念に対する知識が不十分なために,内容の理解に難渋するようである.このようなことは何も初学者に限ったことではなく,ベテラン歯科医師であっても,これまでに勉強する機会のなかった新規の領域については,初学者と同様のとまどいがあるようである.
 そこで本書は,初学者がインプラント補綴や審美補綴領域を理解する際に手助けとなることを目指し,この領域の新しい,あるいは学際的な概念,術式,分類などをファンダメンタルなトピックと併せて取り上げ,臨床に役立つという視点に立って,用語解説という形でまとめることとした.その際,図表を多用し, わかりやすく簡潔に解説することを旨とした.
 本書を書物として通読するのも一法であるが,インプラントや審美補綴を勉強する際に,本書を机上に常備して辞書のように活用するのも一法である.本書をこの新しい領域の勉強と理解に役立てていただき,ひいては,患者の口腔関連QOLの向上に寄与できれば幸いである.
 2008年5月
 九州大学大学院 歯学研究院
 口腔機能修復学講座 咀嚼機能再建学分野
 古谷野 潔
 徳島大学大学院 ヘルスバイオサイエンス研究部
 顎口腔再建医学講座 口腔顎顔面補綴学分野
 市川 哲雄
第1章 インプラント補綴
 1.基礎知識とコンセプト
  (1)インプラントの成功基準
  (2)インプラントの治療計画
  (3)生体適合性/Biocompatibility
  (4)負荷の分類,免荷期間
  (5)インプラントの生物学的幅径
  (6)治療成績
 2.診断と診断用機器
  (1)三次元画像検査用機器
  (2)画像診断―コンピュータガイドシステム
  (3)骨質,骨量の分類
 3.インプラントの種類と選択
  (1)インプラントの表面性状による分類
  (2)インプラントの形状による分類
  (3)上部構造の分類
  (4)インプラントセレクション
  (5)アバットメントセレクション
  (6)矯正用インプラント
 4.治療の原則
  (1)インプラントの埋入ポジション
  (2)前歯のポジショニング
  (3)天然歯あるいはインプラントどうしの連結
  (4)即時荷重を可能とする条件
  (5)インプラントに付与するガイドと咬合接触
  (6)オーバーデンチャーの設計
 5.治療の実際
  (1)骨造成の方法と適応症
  (2)コンピュータガイディング
  (3)初期固定の確認
  (4)インプラントの印象法
  (5)インプラント治療時の咬合採得
  (6)インプラント周囲軟組織のマネージメント
第2章 審美補綴
 1.審美修復の診察と検査
  (1)歯肉
  (2)歯間乳頭の回復予測
  (3)顔貌
  (4)口唇との関係
  (5)歯の形態
  (6)歯冠色の測定
  (7)診断用ワックスアップ
 2.審美修復の器材
  (1)CAD/CAMの種類と特徴
  (2)CAD/CAM使用時の注意点
  (3)メタルフリーのマテリアルセレクション
  (4)接着の基礎知識
  (5)セメンテーション,トライアルセメント
 3.審美修復の実際
  (1)支台築造
  (2)修復材料とプレパレーション
  (3)ホワイトニング
  (4)充[材料
  (5)プロビジョナルレストレーション
  (6)カントゥアと歯肉
  (7)ラミネートベニア
  (8)オベイトポンティックとハーフポンティック
  (9)審美補綴のためのサージェリー
  (10)オパール効果・イリュージョン効果
第3章 ベーシック補綴
 1.オクルージョン
  (1)顎関節症の分類
  (2)筋の触診
  (3)ブラキシズムの種類
  (4)咬合の診察と検査
 2.デンチャー
  (1)欠損の分類
  (2)義歯の難易度
  (3)義歯の要件
  (4)軟質裏装材
 3.全身とQOL
  (1)全身疾患との関係
  (2)精神医学的分類
  (3)機能検査
  (4)唾液検査
  (5)QOL: Quality of Life
 さくいん
 執筆者一覧