やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 歯科臨床においてレーザーの活用が拡がってきており,わが国においてすでに20,000台以上もの歯科治療用レーザー装置が臨床の場で使用されている.ということは,歯科医師の約20%がレーザーを使っているということになる.一方,10数年前に歯科技工分野に紹介され用いられているレーザー溶接法についての理解は,それほど進んでいるとは感じられない.
 この原因の一つは,歯科領域へのレーザー溶接の導入が,歯科治療にあたる歯科医師側からなされたものではなく,歯科補綴物の作製を担当する歯科技工の現場から始まったからではないだろうか.すなわち,レーザー溶接の出現は,これまでの歯科補綴物の作製行程における金属成形加工法に大きな変革をもたらし,歯科技工の現場では,一度その有用性を知れば,“なくてはならない”技術となっているが,一方では,その有用性についての情報が,補綴臨床の場(歯科医師側)に十分に伝わっていないという現状がありそうである.
 本別冊では,補綴臨床の場において,レーザー溶接技術を主体として,その他,CAD/CAMやエレクトロフォーミングなどの新技法の有用性について理解を深めていただくことに主眼をおいた.ますます高齢化の進むわが国において,補綴のニーズはいっそう高まると考えられるが,義歯,インプラント,多数歯修復などでは,より高い精度が求められ,また,加齢・口腔内の変化に追随して,修理や改変の頻度も高くなることと推察される.従来,再製作しかできなかった変化への追随がリフォームで対応できれば,患者さんの信頼度も深まることと思われる.
 そこで,補綴物の発注者である歯科医師には,現在どのようなところにレーザー溶接などの新技法が使われており,どのようなことができるかを紹介し,臨床の自由度を知っていただきたいと考えた.また,技工サイドには,新技法に関する正しい知識をもっていただき,臨床サイドからの要求に適切に応える技術を身につけ,より望ましいかたちを提案できるための技術の確立の一助となる情報を織り込んだつもりである.
 歯科医師・歯科技工士双方に,新技法の成果をご理解いただき,品質の高い技工を行うことによって,より品質の高い補綴物を患者さんに供給することができることを知っていただくことで,本別冊が,より自由な補綴設計のご参考になれば幸いである.
 2006年初夏
 都賀谷紀宏

第1章 補綴設計への新技法の導入意義―なぜレーザー溶接か―
 (1)新技術を臨床に活かす/座談会(都賀谷紀宏・南里嶽仁・花谷重守・松井義和)
 (2)レーザー溶接の現状と展開(都賀谷紀宏)
 (3)ヨーロッパ技工界におけるレーザー溶接(大畠一成)
 (4)小規模ラボにおけるレーザー溶接機導入の意味(松井義和)
 (5)大規模ラボにおけるレーザー溶接(梶原俊一)
 (6)補綴設計をより自由に(花谷重守)
第2章 義歯の修理
 (1)鋳造バーの変形の補修(鈴木鉄男)
 (2)鋳造クラスプの破折修理(好井七海)
 (3)鋳巣が原因で,装着1ヵ月後に金属床が破折した症例のリカバリー(松井義和)
 (4)長期経過症例の義歯のリペアー(花谷重守)
 (5)ブレーシングアームの修復(松井義和)
 (6)コーヌス外冠の亀裂や破折の修理(松井義和)
 (7)コーヌス外冠の破折修理(長谷川勝一)
 (8)コーヌス義歯の連結部の修理(鈴木鉄男)
 (9)金属床とコーヌス外冠との溶接(篠崎照泰)
 (10)コーヌス義歯の亀裂修理と増歯(穴井一也)
 (11)コーヌス外冠の咬合調整時の穴の修復(松井義和)
 (12)コーヌスの維持力の回復(篠崎照泰)
 ●コラム・院内歯科技工士雇用のススメ(都賀谷紀宏)
第3章 義歯のリフォーム
 (1)金属床の改床への提案(藪内良太)
 (2)金属床義歯のリフォームサンプル(中島宏之)
 (3)維持力強化のためのワイヤークラスプの増設(松井義和)
 (4)増歯用維持およびレストの追加(松井義和)
 (5)金属床義歯の床の延長(篠崎照泰)
 (6)欠損による鋳造床の設計変更への対応(山崎 竜)
 (7)撤去した陶材焼付ブリッジを再利用し,金属床と溶接(相馬一志)
 (8)チタン合金床義歯のリフォーム(相馬一志)
 (9)コーヌス義歯の改床(藪内良太)
 (10)磁性アタッチメントによる維持力回復がなされたコーヌス義歯のリフォーム(松井義和)
 (11)片側性のコーヌス義歯を両側性にリフォーム(長谷川勝一)
 (12)コーヌス義歯2症例のリフォーム(水野行博)
 (13)溶接強度テスト(松井義和)
第4章 義歯の製作
 (1)ワイヤーを用いたT字クラスプ(藪内良太)
 (2)鋳造バーやクラスプの異種金属への溶接(鈴木鉄男)
 (3)材質の特性を活かしたコンビネーションクラスプ(篠崎照泰)
 (4)狭いスペースにクラスプを設定(松井義和)
 (5)コーヌス義歯と純チタン床のレーザー溶接(中島宏之)
 (6)コーヌス外冠と金属床の溶接(好井七海)
 (7)ブレーシングアームと金属床の溶接(相馬一志)
 (8)コーヌス外冠と金属床の位置固定(松井義和)
 (9)レーザー照射による純チタン製金属歯の表面改質(花谷重守)
 (10)レーザー溶接による金属構造義歯床の製作(相馬一志)
第5章 クラウン・ブリッジ・矯正
 (1)鋳造冠に用いるレーザー溶接(秦野博司)
 (2)即時対応のできるレーザー溶接の利点を活かす(好井七海)
 (3)クラウンのトラブルなんでもリカバリー(市川正幸)
 (4)硬質レジン前装冠の適合修正(松井義和)
 (5)ロングスパンブリッジの鋳造変形の修正(田中敏之)
 (6)前鑞着の適合修正(松井義和)
 (7)ロングスパン陶材焼付ブリッジのトラブル解消(秦野博司)
 (8)多数歯の陶材焼付ブリッジの破折修復(好井七海)
 (9)低溶陶材用焼付合金と金合金の溶接(田中敏之)
 (10)レーザー溶接を用いた床拡大装置の製作(鈴木一郎)
 (11)矯正分野での応用(秦野博司)
第6章 アタッチメントとインプラントの技工
 (1)インプラント上部構造のレーザー溶接(秦野博司)
 (2)インプラント上部構造の適合改善(澁谷勝男)
 (3)ラウンドタイプのバーアタッチメント(澁谷勝男)
 (4)金属床とバーアタッチメントスリーブ部との溶接(篠崎照泰)
 (5)スタビライジングアームつきメール部と金属床の溶接(篠崎照泰)
 (6)チタン床とアタッチメントの溶接(山崎 竜)
 (7)リーゲルアタッチメント(関 聖生)
 (8)オブチュレーターとスウィングロック(岩崎潤一)
 (9)ICアタッチメントの維持力の回復(市川正幸)
第7章 CAD/CAMとエレクトロフォーミング
 (1)エレクトロフォーミング出現の背景(都賀谷紀宏)
 (2)エレクトロフォーミングクラウンと架橋部の溶接(篠崎照泰)
 (3)エレクトロフォーミングフレームとフリクションピンの溶接(澁谷勝男)
 (4)CAD/CAMシステムの現在(都賀谷紀宏)
 (5)CAD/CAMとレーザー溶接によるチタン技工(田中敏之)
 (6)CAD/CAMとレーザー溶接によるインプラント上部構造の製作(大久保力廣)
 (7)CAD/CAMで三分割にして製作したインプラント上部構造のレーザー溶接の症例(相馬一志)
第8章 院内でレーザー溶接機を使う場合
 (1)院内ラボでレーザー溶接機を使う(南里嶽仁)
 (2)院内ラボのみによる技工の場合(南里嶽仁・藤田泰祐)
 (3)外注した補綴物と当院でのレーザー溶接とのコラボレーション(南里嶽仁)
 (4)修理やリペアー(南里嶽仁・藤田泰祐)
第9章 レーザー溶接を理解するために
 (1)レーザー溶接について知っておいてほしいこと(都賀谷紀宏)
 (2)レーザー溶接の基礎(都賀谷紀宏)
 (3)レーザー溶接技工の問題点と普及の課題(都賀谷紀宏)
索引
著者略歴