やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

Introduction
 神奈川県川崎市幸区・日高歯科クリニック 日高豊彦
 大阪市北区・南歯科医院 南 昌宏 序

 本書は,歯冠修復治療の代表的な処置であるクラウン(単冠修復)と3ユニットブリッジ(1歯欠損,2支台歯)にフォーカスを絞り,患者の来院からメンテナンスまで治療の順序に従って解説することを目標とした.しかし,実は,淡々と治療の過程を解説することは,1つひとつのプロセスの意味を理解していただくために,それらに関する基本をきちんと整理をせずに行うことはできない.
 それほどに現在は,歯冠修復治療の「検査」「診断」「治療計画」etc.……の基本は,新しい概念等を積み重ね,少なくともこの10年ほどで大きく変化をした.
 歯冠修復治療は生体の自然治癒力を促す治療や再生を目標とした治療ではなく,人工物により生体の機能を回復する,または人工物を生体の中で長期に維持させる治療である.
 したがって,人工物と生体の調和が大きな課題となる.
 そのため,近年のさまざまな歯冠修復材料の開発や接着技術の進歩,古くからの咬合,歯と歯周組織に関する研究を収集したうえで,グローバルスタンダードな視点からも認知されていると思われる内容を整理,解説することに努めた.
 その中で,審美的要素に関しても多くの頁を割いているが,歯冠修復治療を完結し,長期的予後を獲得するためには,咬合と歯周組織の保全および審美の3点が重要な要件となる.特に前歯部の場合,患者にとっての第一の要望は「審美の回復」であることが多く,いかに歯周組織が回復でき,製作された修復物が生理的,機能的,強度的に十分であったとしても審美的に不良であるならば,患者にとってはきわめて不満足な結果としか映らないかもしれないし,臼歯部においてさえも「自然感」を求める傾向が強くなってきている.
 つまり,疾病対策としての歯科治療が確立されつつある現代において,機能の回復とその永続性を重要視するあまり,審美性を付加価値と考えるのは医療側の一方的な認識であり,患者にとっては審美性の回復こそが最大の要求であることが少なくないことを,われわれも頭に入れておく必要がある.
 本別冊の内容を, 20年前,10年前に学校を卒業した歯科医師や歯科技工士,歯科衛生士,それどころか今年卒業をした方々でさえ,一見すると,教わることのなかった内容が多いと感じるかもしれない.しかし,医学,歯科医学の進歩は非常に速く,その内容を患者の利益のために還元することが歯科医療従事者の責務であると考えれば,すでに,治療の基本として修得をすべき内容ばかりである.読者諸兄が,本別冊を,患者の利益に一層貢献するためのツールとして活用されんことを願うものである.
 2003年3月
 序
 編集委員プロフィール

NAVIGATION 歯冠修復治療の基本的なステップ 日高豊彦
PART1 検査・診断・治療計画・治療・メンテナンス 日高豊彦 南 昌宏
 STEP1 検査
 STEP2 診断・治療計画
 STEP3 初期治療
 STEP4 初期治療の評価
 STEP5 歯冠修復物の予備的な設計
 STEP6 支台歯形成とプロビジョナルレストレーション
 STEP7 軟組織処置
 STEP8 プロビジョナルレストレーションの評価
 STEP9 支台歯形成・印象採得・咬合採得
 STEP10 試適・評価・修正
 STEP11 仮着・評価・修正
 STEP12 装着・評価・修正
 STEP13 メンテナンス
PART2 多様化する歯冠修復治療とその処置
 CASE1 上顎前歯部のわずかな空隙を数個のポーセレンラミネートベニア的な修復物を組み合わせて回復した症例 南 昌宏
 CASE2 矯正治療とボンディッドポーセレンレストレーションによる最小限の歯冠修復治療症例 日高豊彦
 CASE3 生物学的に適切なサブジンジバルカントゥアの形態の回復をプロビジョナルレストレーションなどで計画的に行った症例 南 昌宏
 CASE4 歯冠修復物のエマージェンスプロファイル形態をプロビジョナルレストレーションなどで計画的に回復した症例 南 昌宏
 CASE5 高度な歯肉退縮を歯冠形態のモックアップなどで設計したうえでペリオドンタルマイクロサージェリーによる軟組織移植を行った症例 南 昌宏
PART3 「歯冠修復処置での歯列の保全を期待した歯周補綴治療」から「高い予知性の下に歯と歯周組織を保全して歯列の安定を獲得する歯冠修復治療」へ
 STANCE1 歯周補綴治療二十数年間の評価を糧に歯列の保全と安定を求める歯冠修復治療へのシフト 本多正明
 STANCE2 大規模な歯周補綴治療から歯周補綴治療とならないための歯冠修復治療へのシフト 山崎長郎