やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社



 「ボンディングレストレーション」という本書のタイトルは,われわれ編集委員の造語です.本書の内容を端的に,かつ正確に表そうとして何度も何度も呻吟したあげく,結局は,企画時に仮決定しておいたこのタイトルに落ち着きました.この言葉には,本書でわれわれが表現したかった「歯冠修復治療の概念が変わった」ということ,しかも,「その変化を支えているのが接着,とりわけデンティンボンディングによる」という2つの意味を込めています.
 歯冠修復治療の概念が変わった――とはどういうことかと言いますと,かつては,歯冠修復治療においては歯を削ることが必須と考えられてきました.しかし,それは治療上必須なものでも何でもなく,使用する材料に制限された便宜的に必須といえるものでした.しかし歯冠修復治療は今に至り,削ることから「人工的な歯質」を盛り足すことをも,手技的には包含するようになりました.しかしこれは,歯冠修復治療の目的を,何ら逸脱することではないのです.
 デンティンボンディング――エナメル質とは異なり接着条件に劣る象牙質への接着を意味しますが,この象牙質に対する接着に関しても,ようやく,安全で確実な接着理論が確立しつつあります.そして,切削された象牙質創面は,デンティンボンディングにより形成された人工的なエナメル・デンティンジャンクションにより,半永久的に保護されることが可能となりました.これに加えて,カリオロジーの概念の普及とそれに基づく診査・診断および齲蝕治療の普及は,歯冠修復治療の対象の大部分である齲蝕に対する歯質削除という処置を激減させ,また,歯質削除が行われたとしても,齲蝕の再発を予防することに大いに貢献をしています.
 これまでの歯冠修復治療においても不可能とはわかってはいても,歯質の削除に伴うあらゆるリスクを回避することは望まれていたわけですから,このデンティンボンディングとカリオロジーの登場と普及により,歯冠修復治療は,それ以前とは一線を画したと言っても過言ではないでしょう.すなわちリスクとなる人為的な処置の必然性はカリオロジーにより減少し,万一,歯質の切削を行ってしまい人為的に創面を形成した場合も,確実なシステムによるデンティンボンディングとカリオロジーにより,そこで急激に増加するはずの齲蝕再発のリスクをコントロールすることが可能となったのです.
 しかしながら,診療に関する社会的な枠組みや習慣などにより,このように激変した歯冠修復治療をなかなかみずからの臨床に取り入れることは難しいことです.実際,われわれも,数年前までは従前の歯冠修復治療の体系をしっかりと行ってきていました.しかし,一端デンティンボンディングとカリオロジーを基本とした歯冠修復治療体系に移行すると,それまでの臨床が非常に不安になってきます.できれば,行った治療が破綻する前に早期にやり直したくなってきます.
 本別冊では,そのような,われわれを含む市井の一臨床家,地域のホームドクターであるからこそ実行に移すことができた歯冠修復治療の体系を整理してみました.もちろん,ボンディングに関する基本的な部分はわれわれが整理できることではありませんので,識者の援助をいただきましたし,多くの先人の研究や臨床も参考にさせていただきました.
 一読いただければ,おそらく,読者諸兄の明日からの臨床を激変させるものと信じております.
 2002年2月
 京都市北区/北山茂野歯科医院 茂野啓示 Shigeno Keiji
 福島県いわき市/小濱歯科医院 小濱忠一 Obama Tadakazu
 東京都千代田区/土屋歯科クリニック 土屋賢司 Tsuchiya Kenji
 序

Part 1 ボンディングのメカニズム
 Part 1 Bonding mechanism

 歯質のボンディングメカニズム
  Bonding mechanism of dental adhesives to tooth substances
  伊藤和雄 Itoh Kazuo
 コンポジットレジンのボンディングメカニズム
  Bonding mechanism of resin composite to tooth substances
  伊藤和雄 Itoh Kazuo
 セラミックスならびにメタルのボンディングメカニズム
  Bonding mechanism of ceramics and metals
  新谷明喜 Shinya Akiyoshi
  五味治徳 Gomi Harunori

Part 2 治療方針決定のための鑑別診断
 Part 2 Differential diagnosis for determination of treatment plan

 「修復をしない要観察齲蝕」とするかコンポジットレジン修復とするか
   Differential diagnosis whether the case to be monitored without restoration or to be restored with composite material
   西川義昌 Nishikawa Yoshiaki
  コンポジットレジンによる修復とするかインレー・アンレーによる修復とするか
  Differential diagnosis whether the case to be restored with composite resin material or to be restored with inlay and onlay restorations
    茂野啓示 Shigeno Keiji
  ラミネートベニア修復とするかクラウン修復とするか
   Discrimination whether to restore with laminate veneers or with crowns
   土屋賢司 Tsuchiya Kenji

Part 3 ボンディングレストレーションを活かすための歯質削除
 Part 3 The tooth substance reduction to take advantage of bonding restoration

 コンポジットレジン修復のための歯質削除の指針
  Guideline of the tooth substance reduction for composite resin restoration
  西川義昌 Nishikawa Yoshiaki
 ラミネートベニア修復のための歯質削除の指針
  Guideline of the tooth substance reduction for laminate veneers restoration
  土屋賢司 Tsuchiya Kenji
 クラウンのための歯質削除の指針
  Guideline of the tooth substance reduction for crown restoration
  茂野啓示 Shigeno Keiji
 接着性コンポジットレジン支台築造のための築造形態と歯質削除の指針
  Guideline of the tooth substance reduction and morphology for adhesive composite resin core construction
  茂野啓示 Shigeno Keiji

Part 4 Case Presentation-生体を保護するボンディングレストレーション
 Part 4 Case Presentation-Bonding restoration to conserve the living body

 接着性コンポジットレジン修復
  Adhesive resin composite restoration
  西川義昌 Nishikawa Yoshiaki
 ラミネートベニア修復
  Porcelain laminate veneer restoration
  土屋賢司 Tsuchiya Kenji
 クラウン修復
  Crown restoration
  小濱忠一 Obama Tadakazu
さまざまな方法を複合的に用いた修復
  Restorations done by composing multiple means
  茂野啓示 Shigeno Keiiji