やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序にかえて

 欠損歯列の症例はほとんどが歯周疾患を伴っている.そこで欠損歯列に対しては,どのような補綴を行うかということよりも,まず歯周疾患への処置を行うことから始めるようにしたいと頭ではわかっていながら,なかなか思ったとうりには進められないのが正直なところである.
 近年の歯周病学の進歩には目覚ましいものがあって,従来はみえなかったものが次第に明らかになりつつあり,歯周治療においても着実に成果をあげてきているようである.一方,欠損歯列の補綴処置においても,処置方針立案のための力学的基盤は,かなりの程度まで煮詰まってきたように思われる.“咬合支持指数“,“Vertcal Stop”,“受圧・加圧“,“すれちがい咬合”,などの表現・概念にそのことがうかがえる.
 しかしながら,歯周疾患の問題と欠損歯列の問題の双方の要素のかねあいをどう考え,具体的な診断にむすびつけてどう治療を進めていくかについては,必ずしも明瞭に整理されている現状にはない.そこでいま,歯周疾患を伴う欠損歯列の補綴をテーマとして取り上げ,診断や治療を進めるにあたっての考え方と処置の実際を検討してみることは,意義のあることだと考える.
 本別冊においては,大きく3つの章に分け,まず,患者との関係づくり,モチベーションからメインテナンスにいたるこのテーマの全体の流れに即して問題を浮きぼりにするため,ケースをもとにしたディスカッションに多くの誌面をさいた.次に,歯周疾患を伴う欠損歯列の補綴設計に関する考え方を解説していただく章を設け,最後の章は,臨床対応の実際を症例をあげながら提示していただく,という構成をとった.
 本テーマの抱える問題の広がりと深さは,歯科臨床の根本の課題といってよく,とても本書1冊ですべてを取り上げられたわけでもなく,十分堀下げられたわけでもない.現在の歯科臨床の状況自体が,本テーマへのアプローチには未消化な状態にあるように思われ,そのことを如実に反映してか,企画の段階や各先生へのご協力要請に際して,何度か厚い壁にぶつかったりもしてきた.したがって本書における不十分な部分は,編集委員の責任であると考えているが,本別冊によって,「歯周疾患を伴う欠損歯列の補綴」の問題の一端に足がかりをつけ,近い将来このテーマが整理され,臨床指針が打ち出されるための問題提起となればと願っている.
 最後に,編集委員の力不足にもかかわらず,この困難なテーマに挑戦してご協力,ご執筆いただいた先生方に深く感謝の意を表すとともに,企画段階で種々のご助言をいただいた船橋市の鈴木文雄先生に,この場を借りてお礼を申しあげたい.
 1986年11月 編集委員 黒田昌彦
I.診断と治療をどう進めるか
 ケース・ディスカッション
 歯周疾患を伴う欠損歯列の補綴 診断と治療をどう進めるか……池田雅彦,押見 一,熊谷 崇,筒井 昌秀,黒田昌彦〈司会〉
  PartI.アプローチに際しての基本的な考えと姿勢
  PartII.診断時での二,三の話題―プラーク・コントロールの評価,歯肉のタイプをどう読むか
  PartIII.炎症と咬合性外傷をどう診断し,治療に組み込んでいくか
  PartIV.診断と治療のプロセス―全顎にわたるケースを話題として
  PartV.歯周疾患を伴う欠損補綴の設計
  PartVI.術後のトラブルから考える
  PartVII.メインテナンスの重要性とそのあり方
II.歯周疾患を伴う欠損歯列の考え方と補綴設計
 欠損歯列の読み方と補綴設計……宮地建夫
 歯周疾患を伴う欠損歯列の咬合……丸茂義二
 少数歯支台の歯周補綴……岡本 浩,宮本美彦,八島弘明,花村裕之
 一次固定が進められる要素―Lindhe,Nymanの考え方に即して―……丸茂義二,岡本 浩
 予防歯周病的立場からのパーシャル・デンチャーの設計……後藤忠正,幸阪保雄
III.臨床対応の実際
 欠損歯列のプラーク・コントロール……品田和美
 歯周疾患を伴う欠損歯列におけるテンポラリー・レストレーション―咬合の安定を第一目標にした例を中心に―……椎貝達夫
 私のプロヴィジョナル・レストレーションの活用―上顎全体に処置を行った例―……西川義昌,西村安夫
 深い歯周ポケットに対する歯周処置と補綴処置―特に前歯部において―……畠山善行
 根分岐部病変のある歯を支台歯としてブリッジで処置した2症例……上野秀夫
 咬合性外傷による歯周疾患を伴った欠損補綴―少数歯残存症例,少数歯欠損症例への対応から―……大坪青史
 歯周病罹患歯の補綴処置……高山利夫
 可撤性補綴物,固定性補綴物でそれぞれ対応した2症例を話題にして……小林和一
 少数歯残存をそれぞれパーシャル・デンチャー,フィクスド・ブリッジで処置した症例……山崎長郎,西村安夫
 骨縁下ポケットに Hydroxyapatiteを使用した症例について……徳永憲一
 重度の歯周炎患者11年間の診療記録……中野 充

 後記