やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

Preface 序
 高齢になると多くの方は歯を失い,現在歯数の減少とともに欠損補綴が必要になります.そして高齢者では約9割の人が何らかの欠損補綴装置を装着しているのが現状です.やがてすべての歯がなくなると,ほとんどの人が総義歯を装着することになります.

 このように歯が残ることは咀嚼機能の維持につながり,よいことといえますが,その残存歯の位置関係によっては,むしろ歯があることで,歯の加圧因子と顎堤粘膜の受圧因子のバランスをとることが難しくなり難症例となることもあります.たとえば,すれ違い咬合やシングルデンチャーなど,対応に苦慮することも多々あります.今後パーシャルデンチャーでの治療法についてもっと探求し,技術革新することが必要となります.さらに人生100年時代と言われ,日本人の平均寿命は伸びてきており,パーシャルデンチャーで過ごす期間が長くなることが想像されます.
 過去にはパーシャルデンチャーは総義歯への移行義歯とまで揶揄された時代もありました.しかし現代では,多くの高齢者が咬合や咀嚼機能を維持し,美味しく食事するために,そして歯を長持ちさせるためにもパーシャルデンチャーの役割が大きくなってきています.高齢者がこれからも快適で豊かな老後を過ごすためには,パーシャルデンチャーの質的向上が必要不可欠です.

 本書では,われわれ編集委員による対談で今日の無歯顎欠損と求められるパーシャルデンチャー像をディスカッション後,前半でパーシャルデンチャーの総論そして基本事項について谷田部優先生にまとめていただきました.そして後半ではパーシャルデンチャーの技工に関するノウハウを各テーマに精通した技工界のレジェンドといえる歯科技工士陣に執筆していただきました.
 基本は押さえつつ,今までの成書の練り直しにならないよう,新しいトピックを加えながら次世代への技術の継承を意識した内容構成にしたつもりです.
 歯科技工士の皆さんにはぜひ技工机の傍らに置いていただいて常に目に触れていただきたい一冊であることはもちろん,ぜひ歯科医師の方にも読んでいただきたいと考えています.

 今後パーシャルデンチャーの治療に携わるわれわれの役割は大きく,患者さんの健康やQOLに寄与できる可能性をたくさん秘めています.
 さあ,パーシャルデンチャーテクニックをブラッシュアップしていきましょう!

 2023年12月
 編集委員
  亀田行雄
  遊亀裕一
Part 1 今,そしてこれから求められる 人生100年時代のパーシャルデンチャー(対談)
 (遊亀裕一・亀田行雄)
 Column パーシャルデンチャーの新しい形;IARPD(亀田行雄)
Part 2 パーシャルデンチャー設計の基本事項
 1・パーシャルデンチャー設計のための基本要件(谷田部 優)
 2・支台装置の違いによる義歯の特徴(谷田部 優)
Part 3 パーシャルデンチャー製作の技工
 1・ワイヤークラスプ製作における留意点(戸田 篤)
 2・コバルトクロム金属床パーシャルデンチャーの設計・製作における留意点(金牧祐治)
 3・チタン金属床パーシャルデンチャーの製作における留意点(廣田修宏)
 4・違和感の少ない大連結子の設計(生田龍平)
 5・パーシャルデンチャーにおける人工歯の排列(中林 誠)
 6・パーシャルデンチャーの床形態設定における留意点(野澤康二)
 7・コーヌステレスコープデンチャーの製作(田島慶二)
 8・レジリエンツテレスコープデンチャーの製作(須藤哲也)
 9・審美を考えたアクリルレジンクラスプの活用(戸田 篤)
 10・デジタルパーシャルデンチャーの製作(今田裕也)
Graph チェアサイド・ラボサイドの情報共有のもと取り組んだ残存組織の長期的保全を考慮したパーシャルデンチャー症例
 (遊亀裕一)