やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 良い補綴装置を製作するためには,ラボサイドとチェアサイドのコミュニケーションが重要なことは周知の事実であるが,一般的に現実はそのようになっていないというのが読者の本音であろう.しかし患者側の視点に立てば,ラボサイドとチェアサイドという区分などわかるはずもなく,本来一体であるべきものであると考えていることだろう.
 Lytleらによる論文『An interdisciplinary classification of restorative dentistry』(Int JPeriodontics Restorative Dent,7(3):8〜41,1987)にも引用されている,アメリカの哲学者・教育改革者・社会思想家であるJohn Dewey(1859〜1952)の「分類とは未来と未知に立ち向かうための武器である」という言葉がある.歯科医院を訪れる様々な主訴と症状を抱えた未知の患者に対して的確な治療を施すためには,その患者の現症をもたらした原因を分類することから始めなければならない.そしてその原因を解決する戦略と戦術を考え,治療を開始するのである.
 補綴装置は患者に装着した直後が最も美しく,機能的にも大きな問題を生じていることはないだろう(問題があれば装着できないはずである).しかしながら装着した瞬間のみならず,装着後早期に問題が起こることは可及的に避けなければならず,また,補綴装置が長期的に患者の口腔内で安定した状態で機能し,審美性を維持し,生体に害を及ぼさないようにしなければならない.
 そのためには,歯科医師は歯科技工士が補綴装置を製作しやすいように様々な技術を駆使して口腔内の環境を整え,その情報を歯科技工士に正確に伝達し,歯科技工士は適合精度が高く生体と調和の取れた補綴装置を,歯科医師を通じて患者に提供することが求められる.また,その過程において歯科衛生士も参画することによってメインテナンスのしやすい口腔環境を長期的に維持できることとなり,それがすなわち補綴装置のlongevityにつながる.
 本別冊は単なる症例集ではない.すべての論文の根底にあるのは,「原因」の追究である診断である.
 歯科医師の方は自らの患者に照らし合わせ,歯科技工士の方は補綴装置の製作を依頼した歯科医院からの患者情報に照らし合わせ,その症例に該当する「原因」を持った患者の治療及び補綴装置製作の一助としていただければ幸いである.
 2019年12月吉日
 藤本 博
 ふじもと歯科医院
Part1 総論
1.長期予後が見込める補綴装置を製作するにあたって配慮すべき諸条件
 (中島圭治,川内大輔)
2.メインテナンスしやすい補綴装置の形態
 (松山香代子)
Part2 各論
1.歯周病患者に対するクラウン・ブリッジ修復
 (大川敏生)
2.歯周病患者に対するインプラント治療
 (藤林晃一郎)
3.歯周病患者に対する義歯治療
 (坂元彦太郎)
4.外傷患者に対するインプラント治療
 (奥村昌泰)
5.う蝕患者に対するインプラント治療
 (國ア貴裕)
6.臼歯部に対する歯冠修復治療
 (江川光治)
7.根尖病変を生じた患者に対する補綴治療
 (木原崇博)
8.咬合に問題のある患者に対するクラウン・ブリッジ修復
 (粟谷英信)
9.咬合に問題のある患者に対するインプラント治療
 (徳田将典)
10.咬合に問題のある患者に対する義歯治療
 (中村雅之)
11.矯正学的考察を踏まえた全顎的補綴治療
 (城 敦哉)
12.医原性疾患を生じた患者に対する再補綴治療
 (佐伯 剛)
13.医原性疾患を生じた患者に対する全顎的補綴治療
 (橋 由)