やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 オールセラミックスの多色築盛.この企画の発端は,私の友人でもあるスイス在住のCem Piskin氏のジルコニア用陶材の多色築盛のコースを医歯薬出版の古谷氏が見学をして感じたことからであった.「最近のオールセラミックスクラウンに多い合理的過ぎる表面ステインの臨床に対して,築盛技法を見直す一石を投じたい」.編集部の立場,また患者の立場で日本の臨床を考えた言葉であったと思うが,私も同様の考えを持って臨床に臨んでいただけに,よく理解でき,共感できる言葉であった.
 メタルセラミックスが主流であった時代,我々歯科技工士は患者に対するモラルの面で,最低でも三層築盛を行ってきた.また,日本の歯科技工士の底上げを図るために,山本 眞氏(M.YAMAMOTO CERAMIST' S)を始めとする先人たちが,技術を含めた多くの面で世の歯科技工士を牽引してきたはずである.それなのに,現在はなぜオールセラミックスクラウンの補綴装置が表面ステインで許されているのだろうか? 単純な製法の補綴装置が患者のためになるのであろうか? 私の中にはそのような思いが燻っていた.
 「オールセラミックスクラウン」と聞こえは良い名前ではあるが,患者のことを考えて製作するのであれば,審美の面で多少なりとも陶材築盛を行いたいと考える.ジルコニアフレームやプレスセラミックスフレームに築盛をしただけでも歯の表情は変わるし,それによって患者の口元も変わる.補綴装置の良否はただ材質に由来するものではなく,いかにほどよく手を加えるかが基準となることはオールセラミックスでもメタルセラミックスでも変わりはない.そういった背景と考え方があり,本書を執筆・発刊するに至った.
 しかし,最大の問題は本書から学んだ技術を活かせる場,率直に言えば多色築盛の技工料金を支払うような依頼が歯科医師からあるのかという点である.当然ながら,技工依頼がなければ多色築盛の技術を活かす場はなく,ここに関しては歯科医師によく理解してほしい部分である.
 中切歯の単冠補綴は単にメタルセラミックスからオールセラミックスに技法を変更したからといって解決するものではない.オールセラミックスクラウンは隣在歯から色やキャラクターを拾ってくるわけではなく,メタルセラミックスクラウンよりも透明感を有しているというだけである.それゆえに難しいこともあり,歯の色調再現は簡単ではない.できることならば,「料金は異なるが多くの陶材で歯の色を再現する方法もある」ということを歯科医師は患者に説明してほしいし,歯科技工士もそういった内容を理解してもらうために歯科医師と話し合う努力もしなければならないだろう.
 そういった意味でも,本書は若い歯科技工士の知識のためだけの本で終わってほしくないと私は考えている.技術の努力だけでなく,コミュニケーションの努力も伴うことで臨床に役立つ本となれれば,我々としてもこの執筆が報われる思いがし,幸いである.
 2017 年7 月吉日
 小田中康裕
 oral design 彩雲
Opening Graph
Part 1 これから多色築盛を始める人へ
 1.臨床における多色築盛の意義と利点(小田中康裕)
 2.オールセラミックス修復の基礎知識(小田中康裕)
 3.蛍光性と透過性に見る天然歯の考察(内海賢二)
Part 2 同一症例に見る各社陶材の築盛システム
 1.課題症例についての概要(小田中康裕)
 2.Initial Zr-FS(三好大介)
 3.Creation ZI-CT(山田雅人)
 4.VINTAGE ZR(藤崎啓太)
 5.VM9(瓜生田達也)
 6.IPS e.max Ceram(鈴木 淳)
 7.CERABIEN ZR(古家 豊)
Part 3 多色築盛によるキャラクターの表現
 1.形成を最小限に留めたラミネートベニア製作(相羽直樹)
 2.歯質の色調を活用した下顎両側側切歯の製作(久保哲郎)
 3.近遠心で異なる色調の再現(峯ア稔久)
 4.象牙質色調の重要性(滝澤 崇)
 5.ジルコニアの下地処理から始まる多色築盛(森田 誠)
 6.白帯の表現と独立感を出すブリッジワーク(瓜生田達也)
 7.変色支台歯への対応例(瓜坂達也)
 8.インプラント支台と天然歯支台の同時色調再現(枝川智之)
 9.細分化して読み取る天然歯の特徴(都築優治)
 10.残存組織との調和を目指した歯肉付きブリッジ(遠藤淳吾)
 11.ジルコニアフルブリッジにおける歯肉部の築盛(Luke HASEGAWA)