やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 本書では,現代の歯科界で最も多くの関心を集めている「審美」に注目した.人間は本能的に,美しいものや,美しくあることに無関心でいられない.美は,磁石のような不思議な引力で人びとを虜にする.
 本書を読み進める読者諸氏は,歯科審美において適切な基準を達成するうえで,シンプルな“トリック”によって健康的な自然美を伴った歯列が再現されていくことに気付くであろう.各章では実際の症例を提示し,ステップバイステップの診療・技工手順をビジュアルに紹介しているが,それらの症例は異なる複数の観点から注意深く診査されており,機能的にも審美的にも高いレベルに到達している.また,その治療ステップごとの作業に対して高いレベルが維持できるように,いくつかの“決めごと”を想定している.それらの決めごとは,個々に異なる状態の口腔内に対して,診断時の可能性と限界を判断するためのガイドとして機能する.
 本書で紹介する補綴装置は,個性的な複数のセラミストによって作られている.それぞれに異なる環境で,また歯科医師と歯科技工士が互いに相対することのない環境で,彼らは“一期一会”の装置に対して最大限のパフォーマンスを発揮してくれた.それはすべての臨床に関わるものが共有する,補綴への愛と知識が根底にあったために成し遂げられたのであろう.彼らはまた,芸術家としての感性をも補綴装置に見事に表現している.本書にて提示した症例からは,人間の錯覚までも利用した,完全に“見破れない審美補綴”(=invisible)を達成しようとしていることが読みとれるであろう.
 2010年7月
 Sidney Kina(歯科医師)
 August Bruguera(歯科技工士)

訳者序
 現在のわが国の歯科臨床の水準を世界各国のそれと比較してみると,迷いなくトップレベルにあると言える.それも先進的とされる国ぐにに比肩するどころか,一頭地を抜いているのではないかとすら思う.これは,一つひとつの物事に対して真摯に取り組むという日本人が備え持つ気質によるのではないかと,訳者は海外の研究者や臨床医との交流などから常々感じている.
 しかし,そんな日本において「審美の概念」はどのように捉えられてきたであろうか?究極の美として語られている黄金比や,歯周外科による歯肉整形を前提とした完全なる左右の対称性,安易な発想で選択されたインプランテーション…….そして,テレビを見れば,不自然な補綴装置がそこに映し出されているのをわれわれは簡単に見つけることができる.訳者は,そのような“アメリカンステレオタイプ”の臨床の予後に興味を抱いていた.そのような中で,本書は日本の審美歯科界に鋭い一石を投じたものと言える.
 元来,審美とは歯冠補綴の具備条件の一つであった.補綴装置には,高いレベルで機能と審美性が共存し,そこに患者の個性を演出することが求められる.本書は上述したような“補綴治療の王道”を貫きながら,柔軟に新しいテクニックを導入し,診断からメインテナンスまでの各工程を美しい写真で説明している.すべての症例をステップごとにこと細かく紹介する姿勢は,原著者であるKina氏に流れる日本人の血がそうさせているのではないかとも感じさせる.彼の紹介するすべての症例は,典型的なアメリカンスタイルとは異なり,“元来そこにあるべきもの”を作り上げることに情熱を費やしている.それは本書のタイトル『invisible』に集約され,補綴装置を見えないもの,見破れないものとして本物の“歯”に昇華させている.
 本書が歯科医師,歯科技工士の多くの臨床家に愛され,そして多くの患者に「美」として還元されることを望む.
 2010年7月
 日本歯科大学生命歯学部歯科補綴学第2講座
 新谷明一
 Akikazu Shinya,D.D.S.,Ph.D.(Dent.Sc.)
 Senior Assistant Professor,Department of Crown and Bridge,
 School of Life Dentistry at Tokyo,The Nippon Dental University
 Research scientist,Department of Biomaterials Science,Institute of Dentistry,
 University of Turku and BioCity Turku Biomaterials Research Program
 Honorary Assistant Professor,Dental Materials Science Unit,Faculty of Dentistry,
 The University of Hong Kong

推薦文
 歯科用材料と接着技法の進歩によって,修復・補綴領域において最小限の侵襲で機能的・審美的な補綴処置を可能とする革新的な治療概念が確立した.最終的な補綴装置の状態を予測するには,患者,補綴臨床医としての歯科医師,そして歯科技工士からの働きかけが不可欠である.
 本書の核となるのは,その両者のコミュニケーションにおいて,新しいセラミックス補綴と治療概念を用いた口腔機能再建のための基本原則であり,それを規定することである.Sidney Kinaと共同執筆者であるAugust Brugueraは,多数の臨床例を魅力的な写真によって提示している.そこでは,診査の手法や接着技法と同様に,治療計画や前処理,材料の選択,支台歯形成,印象採得などの工程についても段階を追って説明している.また,最新の材料を用いた治療法も紹介されており,審美歯科分野において活躍する歯科医師と歯科技工士にとって,本書はきわめてに有用なものとなるであろう.
 Daniel Edelhoff
 C.D.T.,Dr.Med.Dent.Ph.D.
 Tenured Associate Professor Department of Prosthodontics Goethestr.Munich,Germany.

 良質な歯科医療を行うためには歯科医師と歯科技工士は多くの手順を経る必要があり,それには,よき師とめぐり合うことが不可欠である.よき師とは,ただ秀でた知識を有するだけではなく,強い意志を持ち,真理を探求し,そして気前よく種子を撒くように,その知識を他者と共有しようと考える人であろう.
 今日,KinaやBrugueraのような偉大な先駆者たちによる,審美的で,確かな知識に裏打ちされた補綴装置を見た読者諸氏は,「ひらめき」「驚異」「感嘆」といった感情を間違いなく抱くであろう.体系化された教書を超えた,歯科医師と歯科技工士にとって,そして歯科補綴学にとって非常に価値のあるこれらの概念は,簡潔で実践的な好例である.
 現在,歯科医師と歯科技工士は“共生”という手法から発展した良好な関係を保っている.本書,すなわちKinaとBrugueraとその共同研究者らの成果を通じて,補綴治療のパートナーたる良好な共存関係は新たなステージへと昇華したように思われる.
 Ricardo Mitrani
 Odontologist in Mexico City and International Lecturer.
 序
 訳者序
 推薦文
Chapter1 審美補綴の基本事項と診査基準
 appendix;Dental morphology──天然歯100例
Chapter2 光と色
Chapter3 歯科用セラミックス
 1.黎明期から強化型セラミックスまで
 2.接着性セラミックスの臨床応用
 3.IPS EmpressIIからIPS e.max Pressへ
Chapter4 審美補綴における支台歯形成
Chapter5 ラミネートベニア
 参考文献