やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文

 0cclusion is dentistry歯学は咬合にあり.この言葉のとおり,あらゆる歯科治療の最終ゴールはオクルージョンにある.しかし,対象となる患者の年齢層の違いによって,咬合治療へのアプローチは異なってくる.
 乳歯列を含む小児歯科,ダイナミックな成長過程にある小中学生をおもな対象とした矯正学,外傷や腫瘍の手術のあとの口腔外科学の咬合治療など,それぞれに同じオクルージョンというテーマであっても,方法論や考え方に相違が生じるのである.
 歯科技工に関連するオクルージョンは,歯科補綴学と密接に関係している.だから補綴学的なオクルージョンのとらえ方を歯科技工士もよく心得ておく必要がある.補綴学的咬合論の特徴は「失なわれたオクルージョンを再建する」すなわち「つくり上げてゆく」というところにある.歯科材料に手を加えて,すなわち技工を施してオクルージョンをリコンストラクションしてゆくわけである.
 このオクルージョンを補綴学的にリコンストラクションするにあたっては対象となる患者の口腔内の所定の場所に正しく補綴物が装着されて,その患者の顎機能を十分に長期間満足させなければならない.
 そのためには,口腔内の状態を再現する正確な模型が必要であり,その患者の下顎の位置や動き,また筋肉の状態などが可及的に技工机の上に再現されなければならない.そして,それらに調和した補綴物としての形態,特に咬合面形態を歯科技工士は製作しなければならない.
 しかしながら,間接法の精度上の問題,生体のもつ粘弾性,咬合器の下顎運動,再現能力などから,口腔内ではときとして模型上と異なる場合も少なくない.
 本別冊では,これからオクルージョンを学ぼうとする将来有望な若い歯科技工士を対象として,間接法の現状における限界を認識したうえで,チェアサイドの情報をどのように活用したら,口腔内にて調整の少ない補綴物を製作することができるのか,その実践上の手引書といった内容として編集された.
 「オクルージョンを制する者は世界を制す」こういうと大袈裟にきこえるが,そんな気持ちでオクルージョンを学んでいただきたい.歯科医学は有能な歯科技工士を待っている.
 1988年12月 九州大学歯学部補綴第2講座 末次恒夫 ラボラトリーオブナソフィジックス 斉木好太郎
総説論
 オクルージョンの変遷 末次恒夫・古谷野 潔
座談会
 模型上と口腔内とでの誤差をいかに少なくしてゆくか 中村公雄・重村 宏・山根通裕・斉木好太郎・末次恒夫
  Part I.間接法の限界とクラウン・フリッジ技工
  part II.咬合器をどのように使いこなすか
臨床編
ベーシックコース
 切縁咬合位を機能的に設定したセラモメタルクラウンの製作 小池君同
 上顎犬歯(フリッジ・単冠)を含んだ多数歯修復の症例 斉木好太郎ほか
 ディスクルーシヨンを考える 吉田亨
 対合歯との咬合様式が適切に選択された補綴物の製作 赤坂政彦
 顎運動に調和した臼歯部クラウン・フリッジの製作 中沢 崇
アドバンスコース
 下顎前突における上顎前歯部のセラモメタルクラウンの製作 名原行徳ほか
 犬歯が低位唇側転位でガイダンスが無理なケース 玉本光弘ほか
 犬歯欠損ブリッジの症例 斉木好太郎ほか
 臼歯部がクロスバイトの場合の対応 佐藤博昭
 対合歯の挺出に伴い残存歯列に調和する咬合様式を付与したブリツジの製作 岩渕一文
 臼歯部対合歯の欠損により失われた咬合平面の回復をはかる 青木大治
 臼歯部対合歯がコンプリートデンチャーあるいはパーシャルデンチャーのケース 川澄勝久ほか
 臼歯部対合歯がインプラントのケース 井川宗太郎ほか
関連器材編 末次恒夫・古谷野 潔
 1.咬合審査材・器材
 2.咬合器
 3.咬合平面測定器具
 4.模型固着材料・器具
 5.咬合面形成インスツルメント
 6.顎運動測定装置
 7.スプリット・キャスト・フォーマー
 8.ワックス形成とバーナー
 9.ダウエルピン
 10.咬合面材料
付録  末次恒夫
 デンタルアナトミー
 上下歯列弓
 作業側←→平衡側