やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 歯周病や歯髄疾患による病変が多(複)根歯の根間中隔に波及した状態を「根分岐部病変」といいます(日本歯周病学会編 歯周病学用語集より).日常臨床で根分岐部病変に遭遇する機会は多いもののその病態は多様で,補綴処置も含め,診断,対処法についてはいまだ整理されていません.根分岐部病変は治療直後は一時的に治療効果があっても,長期の経過をたどるうちに予後が悪いことが多いということも耳にします.そして,結局多くはブラックボックス入り,もしくはお手上げ状態となってきたかもしれません.
 臨床的に根分岐部病変はX線透過像がある部分のことをさしますが,過去に病変があった名残りも現在進行中のものもすべてが一括りになってしまうこと,発症原因の特定が困難で多岐にわたることも問題をより不明確にしている要因でしょう.そして,気づいたときにはすでに重篤化していることが多い病変です.
 根分岐部にX線透過像があるからそれをなくす目的で,対処法の多くは「どの根を抜くか」に向かいがちでした.しかし,特に上顎においては,「抜根したら新たな根分岐部病変が現れた」など,問題がより複雑になってしまうことも経験してきました.さらに,昨今はインプラントの普及やその成功率の高さなどから,“根分岐部病変は骨のあるうちに抜歯してインプラントに!”という安易な発想が生まれてきたことも事実です.
 本書では日常臨床における根分岐部病変の対応法の構築を視野に入れ,エビデンスや症例をもとに,診断,処置方針の選択,術後の経過からの考察,患者指導などを供覧します.また,大臼歯部において頻発する本病変を「可能なかぎり歯を保存する」ということをコンセプトにまとめています.一般開業医が日常臨床で苦慮している「根分岐部病変への対応,考え方,必要な知識」をまとめることで,現在考えられている臨床手法を網羅する一冊を目指しました.本書が多くの歯科臨床家の,日常臨床における根分岐部病変に対する指針の一つになれば幸甚です.
 2015年11月
 鷹岡竜一・牧野 明
 Concept 根分岐部病変 再考(鷹岡竜一)
 Graphics 根分岐部病変のさまざまな様相〜デンタルX線と歯科用CT,それぞれからみる根分岐部病変〜(河井 聡)
I編 コンセプトと基礎知識―Concept&Knowledge
 Chapter 01 根分岐部に関わる解剖学的特徴(松永 智・小高研人・阿部伸一)
 Chapter 02 根分岐部病変の分類と処置法(沼部幸博)
 Chapter 03 根分岐部病変の治療についてのEBM・文献的考察(関野 愉)
II編 臨床的アプローチ―Clinical Approach
 Chapter 04 根分岐部病変の診断時に注意を要すること
  1.誤った対応をしないための鑑別診断(鷹岡竜一)
  2.力(咬合性外傷,ほか)と根分岐部病変(熊谷真一)
 Chapter 05 根分岐部病変へのアプローチの実際(牧野 明)
 Chapter 06 根分岐部病変の再生療法の実際(谷口崇拓)
 Chapter 07 根分岐部病変治療後のケアを見据えた補綴設計(鷹岡竜一)
 Chapter 08 根分岐部のインスツルメンテーションと患者指導(山岸貴美恵)
III編 ケースプレゼンテーション―Case Presentation
 Chapter 09 長期経過症例からみた根分岐部病変
  1.2000年「歯界展望」提示症例のその後を中心に(谷口威夫)
  2.根分岐部にみられるエイジングの姿(丸森英史)
 Chapter 10 Q&A 私の疑問・根分岐部病変
 Question《病態編》
  1.メインテナンス中,徐々に悪化していった上顎根分岐部病変(斉藤秋人)
  2.メインテナンス中,局所的に急激に進行した上顎根分岐部病変(壬生秀明)
  3.左右側で予後に違いがみられた下顎根分岐部病変(菊川郁雄)
 Question《治療編》
  4.分割抜根した上顎大臼歯の連結固定(日高大次郎)
  5.分割抜根した上顎大臼歯の歯冠形態(野地一成)
 answer 術者のQuestionをどう考えるか(鷹岡竜一・牧野 明)

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