やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

Preface
 歯科保存学のなかでも,保存修復学は器材の発展とともに進歩してきた歯科医学の一分野といえる.コンポジットレジンは,同じ成形修復材のカテゴリーであるアマルガムやグラスアイオノマーセメントとともに臨床使用されてきた.その歴史は1960 年代にさかのぼるものであるが,本邦における今日の歯科臨床においては,成形修復という治療技術のほとんどがコンポジットレジンを用いて行われているといっても過言ではないであろう.そこには,可及的に水銀使用を避けたいという社会的,あるいはコンポジットレジンを用いた歯質接着の先進国としての技術的な背景がある.すなわち,材料を臨床応用する歯科医師,その材料を評価する研究者,そして材料を創り出す製造者という三者が協同することで,今日のコンポジットレジン修復として発展してきた.
 コンポジットレジン修復に関しては,ユーザーフレンドリーでありながらも確実な接着性,耐久性ならびに高機能化を有することが望まれ,現在市販されている修復システムの多くがその要件を満たすべく,技術の粋が傾注されている.こうして開発された材料を使用する歯科医師は,その基礎技術を理解することが求められることは当然である.なぜならば,使用する製品の基礎的事項の理解が製品特性を臨床で発揮することにつながるからである.さらに,特性を理解することによって臨床使用における勘所を押さえることが可能となり,製品の有するパフォーマンスを口腔内で発揮させることができるからである.このような観点から,材料の基礎,新製品の理解,器材の使用における勘所,そして臨床におけるテクニックの実際を総合して知ることは,歯科臨床においては弛まず行わなければならないことである.
 本書は,これらの観点からコンポジットレジン修復における最新の情報とともにテクニックの仔細にわたる内容を伝えるために編まれたものである.コンポジットレジン修復の臨床をリードしている名だたる著者を迎え,臨床で本当に知りたい知識あるいはテクニックの実際について,余すところなく読者に伝えることを主眼として,豊富な症例と情報を発信するものである.日々の臨床で感じている些細な疑問をはじめとして,いわゆる保存修復治療の基礎的事項を含め,臨床的観点から懇切に記載されている.このような観点から,本書はコンポジットレジン修復の症例集であるとともに,本修復を行うにあたってのバイブルであり,さらにはレシピ集ともいえるものである.
 本書が,多くの臨床に携わる歯科医師のために,そしてその治療を受ける患者のための益なるものとなることを願い,ここに擱筆する.
 2015 年4 月
 宮崎真至
Chapter I 歯質接着のベーシックトレンド−失敗しない接着システムの臨床応用のために
 (宮崎真至・辻本暁正・坪田圭司)
Chapter II できていますか? 基本ステップ
 1 齲蝕病巣の除去と窩洞形成の留意点(宮崎真至・黒川裕康)
 2 歯肉排除の利点をもたらす器材(宮崎真至・黒川裕康)
 3 ラバーダム法の重要性(宮崎真至・黒川裕康)
 4 前歯部におけるマトリックスシステムの応用(宮崎真至・黒川裕康)
 5 隔壁法とその実際(宮崎真至・辻本暁正)
 6 シリコーンガイドの製作と使い方(宮崎真至・辻本暁正)
 7 接着操作の各ステップにおける役割(宮崎真至・辻本暁正)
 8 フロアブルとペーストタイプの使い分けのポイント(宮崎真至・高見澤俊樹)
 9 レイヤリングテクニックをマスターするために(宮崎真至・高見澤俊樹)
 10 咬合面形態付与のポイント(宮崎真至・高見澤俊樹)
 11 形態修正と研磨の留意点(宮崎真至・高見澤俊樹)
Chapter III 症例別コンポジットレジン修復の実際−何を診て,どのように行うか
 攻略の鍵
 Case 1 歯頚部欠損窩洞(V級窩洞)(宮崎真至・黒川裕康)
 Case 2 III級窩洞(宮崎真至・高見澤俊樹)
 Case 3 IV級窩洞(青島徹児)
 Case 4 破折歯(青島徹児)
 Case 5 臼歯の狭小窩洞〜中間窩洞(I級窩洞)(秋本尚武)
 Case 6 臼歯部のII級窩洞 1−隣接面の解剖学的形態が保存されている(不顕性齲蝕)−(秋本尚武)
 Case 7 臼歯部のII級窩洞 2−接触点が崩壊している(メタルインレーの再修復など)−(秋本尚武)
 Case 8 離開歯への修復(田代浩史)
 Case 9 ダイレクトラミネートベニア修復(田代浩史)
Chapter IV これで解決! 日常臨床の疑問にエキスパートが答えるコンポジットレジン修復Q&A
 接着・被着面についての疑問
  Q 1 ラバーダム防湿が必要な症例は?(田代浩史)
  Q 2 齲蝕反応象牙質への接着の留意事項は?(田代浩史)
  Q 3 セレクティブエッチングが必要な症例は?(宮崎真至・辻本暁正)
  Q 4 シングルステップセルフエッチシステムの臨床使用の勘所は?(宮崎真至・黒川裕康)
 臨床操作における疑問
  Q 5 遊離エナメル質はどこまで残すか?(青島徹児)
  Q 6 コンポジットレジンの使い分けは必要?(青島徹児)
  Q 7 明度のコントロールとは?(青島徹児)
  Q 8 ステイン(ティント)の使用法は?(青島徹児)
  Q 9 前歯の解剖学的形態のポイントは?(田代浩史)
  Q 10 臼歯の解剖学的形態のポイントは?(田代浩史)
  Q 11 光強度は高ければいいの?(宮崎真至・辻本暁正)
  Q 12 エマージェンスプロファイルの付与は?(田代浩史)
 症例ごとの疑問
  Q 13 術後疼痛の予防法は?(田代浩史)
  Q 14 確実な楔状欠損の修復法を教えてください(宮崎真至・坪田圭司)
  Q 15 グラスアイオノマーセメントの臨床的利点は?(秋本尚武)
  Q 16 コンポジットレジン修復の寿命は?(秋本尚武)
  Q 17 コンポジットレジン修復の再修復と補修修復の基準は?(秋本尚武)
  Q 18 補修修復の接着操作における留意事項は?(秋本尚武)
  Q 19 再修復にあたっての考慮事項は?(秋本尚武)