やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 2012年のノーベル医学・生理学賞は京都大学の山中伸弥教授が授賞することとなった.iPS細胞が開発されてから6年という異例の早さでの受賞であり,iPS細胞に対する期待の現れとも言え,多くの人々が再生医療を身近に感じた瞬間だったのではないだろうか.しかし,iPS細胞を臨床応用するまでにはいまだ多くの壁ともいうべき問題が残されており,今後も5〜10年単位でのロングスパンの研究が必要とされている.
 一方,歯科においては,骨移植による再生治療はあったものの,1982年にNymanらがミリポアフィルターを用いたGTR法により,ヒトで初めて新付着を獲得して以降,真の意味での再生治療が盛んに行われるようになった.その後,EMDや増殖因子などの新たなマテリアルが開発されるとともに,各国で多くの再生治療成功例が報告されている.現在では,歯周組織再生治療は確立された予知性の高い治療法と言えるであろう.
 ただし,この治療法が成功するためには,適切な検査・診断のもとに確実な歯周基本治療が行われた後,適応症の選択を行い,術式に対する確かなスキルが備わっている場合である.これは,どの治療法でも同じことがいえるが,再生治療では骨欠損形態の把握の困難さ,テクニックセンシティブな治療法であることなどから,特に高度な知識と技術が要求される.
 そこで,本別冊では歯周組織再生治療を成功させるために必要とされる知識と技術を,一からわかりやすく編集した.最初のChapter Iでは,再生治療に必要とされる内容を座談会でまとめた.Chapter IIは歯周組織再生治療概論として,その変遷から,治療の流れ,そしてどのように適応症を考えていくかを解説し,Chapter IIIでは,再生治療に用いるマテリアルについて文献的考察を中心にまとめていただいた.Chapter IVは再生治療に用いる基本テクニックについて,Chapter Vは,その実際として著名な臨床医の方々に,成功させるための勘所を症例とともに解説していただいた.そして,最後のChapter VIでは,今後の再生治療として注目を浴びているFGF-2,細胞シートの応用についての紹介で結んでいる.本別冊が先生方の臨床に少しでも役立ち,患者さんの歯が1本でも多く保存されることを切に願っている.
 最後に,本別冊の企画意図をご理解いただき,ご執筆を快諾してくださった先生方に感謝申し上げます.
 2012年10月
 和泉雄一,二階堂雅彦,松井徳雄
Chapter I 【座談会】歯周組織再生治療を成功させるためには(和泉雄一・二階堂雅彦・松井徳雄)
Chapter II 歯周組織再生治療概論
 1.再生治療の変遷(和泉雄一・荒川真一)
 2.歯周組織再生治療の流れ(松井徳雄)
 3.歯周組織再生治療の適応症(二階堂雅彦)
 Column 骨縁下欠損の病因=オクルージョン?(二階堂雅彦)
 Topic 歯科用CTを用いた欠損状態の把握(谷口崇拓)
Chapter III 歯周組織再生治療に用いるマテリアル
 1.骨移植材(伊藤公一)
 2.GTRメンブレン(秋月達也・井川貴博・和泉雄一)
 3.エナメルマトリックスタンパク質(EMD)(藤田貴久・齋藤 淳)
 4.未承認材料(二階堂雅彦)
Chapter IV 歯周組織再生治療を成功させるための基本テクニック
 1.基本テクニックと器具(大川敏生)
 2.症例から学ぶ 術式の実際(大川敏生)
Chapter V 歯周組織再生治療の実際
 1.欠損形態に応じた再生治療
  (1)垂直性骨欠損への対応
   適応症選択の重要性(清水宏康)
   垂直性骨欠損の形態に応じたマテリアル選択(土岡弘明)
   EMDを使用した再生治療の手術手技(木村英隆)
  (2)根分岐部病変への対応
   自家骨移植を応用したGTRテクニック(児玉利朗)
   形態からみた再生条件(安藤 修)
 2.審美領域への再生治療(水上哲也)
 3.歯周組織再生治療の長期症例(弘岡秀明)
 4.再生治療への応用
  (1)歯科用レーザー(吉野敏明)
  (2)自家増殖因子の応用(佐々木憲明)
 検証 失敗症例から学ぶ成功の鍵(二階堂雅彦・里見美佐)
Chapter VI 今後の歯周組織再生治療
 1.サイトカイン療法(村上伸也)
 2.細胞治療(岩田隆紀)