やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社



 日常臨床において,印象採得は補綴修復治療を手がけるうえで避けることのできないステップであります.それだけに卒後すぐからこの操作はわれわれの治療の流れに溶け込んでおり,印象作業を行ったことが一度もない歯科医師はおそらく皆無でありましょう.
 レーザー,マイクロスコープ,また審美修復材料といった最新の情報があふれる現在,いまさらながら印象採得にスポットを当てた話題は古く感じられるかもしれません.しかしながら,補綴に関するコンセプト,材料,手技などが日々変わるなかでは,当然,印象採得のコンセプト,材料,手技も変わるはずであり,それに合わせていかなければなりません.また,補綴治療を成功に導くためには歯科医師と歯科技工士の密なるコミュニケーションが大切であることは言うまでもなく,その臨床とラボを結ぶ最も大きな情報伝達手段が印象採得である以上,可能なかぎりの正確さが求められます.
 「印象採得の成否はその操作を行う前に決まっている」と言われます.1 歯の印象採得に要する時間はたかだか5分ほどですが,歯周組織への生物学的なアプローチ,適切な咬合関係の確立,審美的なアプローチといった,正確な印象採得を行うために術前に要する時間は,それよりはるかに長くかかります.一見,われわれが正確に採得できたと思える印象面でも,日々マイクロスコープを使いながら仕事をしている歯科技工士の眼から見たら,それがはたしてわれわれが思っているとおりの結果になっているのか,もう一度考え直してみる時期にきているのかもしれません.
 本別冊では,一人の臨床家の眼から日常臨床の中に溶け込んだ印象採得の成否をしっかり見つめ直すことを根底に置きながら,手技,材料はもちろんのこと,圧排糸の選択,個歯トレー,模型材,電気メス,レーザーといったその周辺にかかわる材料の重要性について,また1歯から多数歯の修復,欠損修復,インプラント補綴にいたるまでの印象採得法,さらにはラミネートベニアなど審美修復を行ううえでの印象採得の違いについて,それぞれのエキスパートの先生方にそのエッセンスをご執筆いただきました.それぞれのカテゴリーのなかでそれぞれの先生方の日常臨床における工夫,取り組み方が垣間見えるすばらしい本になったかと確信しております.
 ご一読いただき,読者諸兄の明日からの臨床に少しでも役立てていただければ幸いと考えております.
 2002年5月
 編集委員 土屋賢司(東京都開業/土屋歯科クリニック)
 松崎正樹(新潟県開業/松崎歯科医院)
 序 土屋賢司・松崎正樹

第1章 基礎編
 寒天・アルジネート印象材の種類と特徴・使い方 西山 實・齊藤仁弘
 シリコーン系印象材の種類と特徴・使い方 五十嵐孝義
 印象採得の前準備 瀬戸延泰
 圧排糸の選択基準 河井 聡
 歯肉圧排の適応と方法 須貝昭弘
 個歯トレーの利用法 山田浩之
 模型材の特徴・選択・使い方 岩渕一文・羽兼雅広
 電気メスとレーザーの適応と使い方 楡井喜一
第2章 症例対応編
 ■支台築造のための印象採得 高瀬英世・福島俊士
 ■歯冠修復の印象採得
  単冠修復を行う場合の印象採得―歯肉への侵襲を最小限に抑える印象採得法― 北原信也
  単冠修復を行う場合の印象採得―修復物の精度を向上させるための印象採得法― 難波郁雄
  多数歯の印象採得 松崎正樹
  ラミネートベニアで修復を行う場合の印象採得 植松厚夫
  審美性を考慮した歯冠修復を行う場合の印象採得 南昌宏
 ■ブリッジの印象採得
  欠損部歯槽堤の印象採得 千葉豊和
  審美性を考慮したブリッジを作製するための印象採得 大村祐進
  動揺歯の印象採得 佐藤 徹
  歯周補綴における印象採得 日高豊彦
 ■インプラント支台のブリッジの印象採得
  ブローネマルクインプラントの印象採得 日高豊彦
  ITIインプラントの印象採得 細山 愃・佐藤孝弘
  3iインプラントの印象採得 萩原芳幸
  インプラント支台と天然歯の混在した症例における印象採得 榎本紘昭
 ■歯科技工士からみた印象採得の評価 上林 健

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 編集後記