やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

 歯周治療の目的は歯周病に罹患した歯周組織を健康な状態に戻し,これを長期間維持することにある.メインテナンス治療は,この後半の部分を担当するものであり,患者が生きている限り続くきわめて重要な部分と考えられる.
 メインテナンス治療の重要性は,昔から強調されており,Glickman著のClinical Periodontology(第2版,1958年)にもすでにメインテナンスの章が設けられていたし,GoldmanとCohenのPeriodontal Therapyにも述べられている.わが国では,その後出版された教科書のすべてにメインテナンスの章が設けられていたが,歯周治療の一般レベルはまだ低く,歯周治療に大きな影響を与えたI型診療の制度がスタートしたときも,口腔清掃指導へのO'Learyのプラークコントロールレコードの導入や,歯周外科と補綴治療との関係などに論争が集中し,メインテナンス治療にまで及ぶことはほとんどなかった.1996年に発表された『歯周病の診断と治療のガイドライン』においては,メインテナンス治療の取り扱いが重要な課題となり,歯周治療の基本的な流れ図に「治癒」と「症状安定」および「メインテナンス」が明確に位置づけられた.
 このようにメインテナンスの重要性が強く打ち出されているにもかかわらず,ガイドラインが導入された当初は,新しい診療体系を理解して治療を進めるのに精一杯で,実際にメインテナンス治療を行っている症例はまだ少なく,メインテナンスに関する論議もきわめて少ないのが現状であった.しかしガイドライン導入後4年を迎え,新ガイドラインに基づいて治療を行いメインテナンス治療の段階を迎えている患者が多くなってきており,これらの患者および今後さらに増加すると予想される歯周病患者に,適切なメインテナンス治療を行っていくことはきわめて重要である.しかしながらわが国においてはメインテナンス治療に関する研究や論文はきわめて少なく,メインテナンス治療を実際にどのように行うべきかは十分検討されていない.
 そこで本書は,臨床家として歯周治療の分野で活躍されている先生方に,実際に歯周病のメインテナンス治療について検討していただき,リコールシステムの構築,メインテナンス治療の内容と治療計画,メインテナンスの治療時の基本的治療,歯周外科治療,補綴治療およびトラブルの発現と対策などメインテナンスを成功させるうえで重要な事項について,臨床例を含めて述べていただいた.「歯周病のメインテナンス治療」は今後の歯科医療においてますます重要となると考えられ,本書が読者の皆様のお役に立てば執筆者一同幸いである.
 2000年4月 編集委員 北海道大学歯学部教授・歯科保存学第二講座 加藤 X 大阪府大阪市開業 畠山善行 福岡県福岡市開業 船越栄次
 はじめに
 執筆者一覧

■総論編
◯歯周病のメインテナンス治療の重要性 加藤 X
◯メインテナンス時の再発に関連するリスクファクター―その検査法と対処法― 小林哲夫 吉江弘正
◯リコールシステムの構築と問題点
 患者自身によるメインテナンス―プラークコントロールを基盤とした対応― 佐藤文彦
 多くの患者に効率よくメインテナンスを行うために 勝谷芳文
 当院におけるメインテナンス治療の取り組み 西原廸彦
 口腔と全身の健康のためのメインテナンスケア 有賀重則 有賀淑隆 有賀庸泰 金子真須美 馬場美岐
 メインテナンス期における判断基準への一考察 北川原 健
◯メインテナンス治療の内容と治療計画
 中等度〜重度の歯周病症例―川崎歯科歯周病研究所におけるケース― 川崎 仁
 中等度〜重度の歯周病症例―山下歯科におけるケース― 山下皓三
 中等度〜重度の歯周病症例―東歯科医院におけるケース― 東 克章
 広範囲に固定した症例 池田雅彦 菅原哲夫
 残存歯の少ない症例―デンチャーで治療した症例― 菅野寿一
 ブラキシズムのある症例 池田雅彦 菅原哲夫
 インプラント併用の症例 河津 寛 大須賀幸子 須藤 純
 化学療法を応用した症例 沼部幸博 鴨井久一
 全身疾患のある患者の症例 藤川謙次
 障害をもった高齢者の症例 植田耕一郎

■各論編
◯メインテナンス治療の実際
 メインテナンス時の診査・診断 川浪雅光
 SPTにおけるPMTC 内山 茂
 メインテナンス時の口腔清掃(再)指導およびプロフェッショナル・プラークコントロール 佐々木 勉
 メインテナンス時の咬合のチェックと治療 本間 博
◯メインテナンス時の歯周外科治療と補綴治療
 術者と患者相互の協力によって成立するメインテナンス 船越栄次 吉田 茂 牧 幸治 野々下信幸 宮本玲子 山下素史
 よりよいメインテナンスを行うために 畠山善行
◯メインテナンス期間中のトラブルの発現と対策法
 急性症状 横田 誠 日高理智
 根面齲蝕 菅谷 勉 加藤
 歯周病の進行による抜歯 綱川健一
 歯根破折 菅谷 勉 野口裕史 加藤
◯患者の全身状態の変化に対応したメインテナンス治療 角田正健
◯長期観察症例
 生活習慣病としてのかかわりのなかから 三上直一郎
 ハイリスクな上顎大臼歯の根分岐部病変をもった患者のメインテナンス 谷口威夫
◯座談会 歯周病のメインテナンス治療をどう考えるか―その現状と将来展望―加藤 畠山善行 船越栄次 山内雅司

 編集後記