やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 超音波診断装置は,より高周波プローブ,高解像度化が進み,これまでハイエンド装置にしか与えられなかった高画質が汎用機でも得られるようになり,乳房や甲状腺以外に耳鼻科領域,皮膚科領域,形成外科領域,整形外科領域など表在領域にも幅広く利用されるようになりました.
 整形外科領域の超音波検査は,多くの筋肉,腱,靱帯と関節が複雑に絡み合い,専門性が高いため,整形外科医が行っている施設が多くあります.一方,整形外科領域は解剖の理解と超音波像の判定の難しさから,コメディカルからは敬遠されやすい領域でした.しかし,整形外科領域の超音波検査の有用性が広く理解されるようになり,診療においてもX線検査と同様に超音波検査が依頼される頻度が高まってきており,臨床検査技師を中心としたコメディカルにおいても検査を行う機会が増えてきています.
 超音波エキスパートシリーズでは,2007年9月に「整形外科領域の超音波検査」が出版されていますが,10年以上が経過したため,超音波検査が利用されるようになった足関節や神経障害,関節リウマチ,スポーツ障害を多く盛り込み,「運動器領域の超音波検査」として発刊することといたしました.本書の最大の特徴は,コメディカルにも分かりやすく,即戦力のための入門書となるように,検査に必要な解剖,検査方法と超音波画像,知っておくべき疾患を主構成とし,特に解剖図と超音波像はできるだけ対比してよりプローブ走査が分かりやすいものとなっている点であります.執筆は,いずれも第一線で活躍されている整形外科医,臨床検査技師,診療放射線技師の先生方にお願いしました.先生方はいずれも運動器領域の超音波検査について,コメディカルへの指導にもご理解があり,大変お忙しいにもかかわらず今回発刊の趣旨に賛同いただきました.
 本書の構成は,肩関節,手指の腱および末梢神経,足関節,肘関節と膝関節のスポーツ傷害,関節リウマチ,エコーガイド下治療として,近年の運動器領域の超音波検査を網羅した入門書となっています.
 本書が運動器領域の超音波検査を行うコメディカルならびに超音波検査を始められる整形外科医に利用していただければ幸いです. 2019年4月
 梨 昇
1 総論(石崎一穂)
  1.運動器超音波検査(運動器エコー)が役立つこと
   1)運動器エコーが活躍する場面
   2)運動器エコーの有用性
  2.運動器エコーに必要な基礎知識
   1)運動器エコーを学ぶにあたって
   2)プローブの選択
   3)プローブの持ち方
   4)プローブ走査
   5)検査法
   6)画質調整
   7)各組織のエコー像
   8)アーチファクト
2 肩関節(前田佳彦)
  1.肩関節の検査の流れ
  2.検査に必要な肩関節の解剖
  3.肩関節の検査法と超音波画像
   1)前方走査
   2)外上方走査
   3)内上方走査
  4.知っておくべき疾患の解説
   1)上腕二頭筋長頭腱炎
   2)上腕二頭筋長頭腱断裂
   3)上腕二頭筋長頭腱亜脱臼
   4)石灰沈着性腱板炎
   5)腱板炎
   6)SLAP損傷
   7)腱板断裂
   8)五十肩
3 手指の腱および末梢神経(中島祐子・石崎一穂)
  1.上肢の腱および神経の解剖
  2.上肢検査の基本手技
   1)検査の姿勢
   2)検査装置および使用プローブ
   3)視野深度およびフォーカス
  3.上肢腱および神経の検査手技
   1)手掌屈筋腱の観察方法および正常像
   2)手関節背側伸筋腱
   3)正中神経の観察
   4)尺骨神経の観察
  4.知っておくべき疾患の解説と症例
   1)狭窄性腱鞘炎
   2)手指腱断裂
   3)絞扼性神経障害
   4)腫瘤
4 足関節(笹原 潤)
  1.検査に必要な足関節の解剖
  2.検査方法
   1)足関節外果・内果
   2)前距腓靱帯
   3)踵腓靱帯
   4)距骨下関節
   5)前下脛腓靱帯
   6)二分靱帯(踵骨前方突起)
   7)アキレス腱
   8)足底腱膜
  3.知っておくべき疾患の解説と症例
   1)足関節果部骨折
   2)前距腓靱帯損傷
   3)踵腓靱帯損傷
   4)距骨下関節損傷
   5)前下脛腓靱帯損傷
   6)踵骨前方突起骨折(二分靱帯損傷)
   7)アキレス腱断裂
   8)アキレス腱部痛
   9)足底腱膜炎
5 スポーツ傷害
 1)上肢(肘関節を中心に)(木田圭重)
  1.検査に必要な肘関節の解剖
  2.アプローチ方法と検査手技
  3.知っておくべき疾患の解説
   1)内側側副靱帯損傷
   2)内側上顆下端障害
   3)尺骨鉤状結節部障害
   4)上腕骨小頭離断性骨軟骨炎
   5)肘部管症候群
   6)外側上顆炎
   7)内側上顆炎
   8)滑膜ひだ障害
   9)後内側インピンジメント障害
   10)肘頭骨端線離開
   11)腱断裂
  4.症例
   1)内側側副靱帯損傷
   2)内側上顆下端障害
   3)上腕骨小頭離断性骨軟骨炎(小学生)
   4)上腕骨小頭離断性骨軟骨炎(中学生)
   5)上腕骨小頭骨化過程のvariant(小学生)
 2)膝関節(琴浦義浩)
  1.膝関節および周囲組織の解剖
  2.検査方法と正常超音波画像
   1)前方走査
   2)内側走査
   3)外側走査
   4)後方走査
  3.注意すべき疾患,ポイント
   1)小児膝関節のエコー
   2)大腿骨遠位部の評価
   3)非プローブ側の活用法
  4.症例
   1)Sinding Larsen-Johansson病
   2)Osgood-Schlatter病
   3)半月板損傷,半月板嚢腫
   4)膝関節タナ障害
   5)膝関節軟骨障害
   6)前十字靱帯(ACL)損傷
   7)後十字靱帯(PCL)損傷
   8)腸脛靱帯炎
6 リウマチ(坂本文彦)
  1.関節リウマチ疾患とは
  2.撮像の注意点とピットフォール
   1)アニソトロピー(anisotropy)
   2)多重反射,ミラーイメージ
  3.超音波診断とグレーディング
   1)所見の定義
   2)スコアリング
  4.関節エコーにおける標準的走査法
   1)手指関節
   2)手関節
   3)肘関節
   4)肩関節
   5)膝関節
   6)足関節/足趾関節
  5.RAの治療経過
   1)臨床評価と画像評価の一致例
   2)臨床評価と画像評価の乖離例
7 エコーガイド下治療(山本宣幸)
  1.どんなエコーガイド下治療があるのか?
   1)穿刺
   2)注射
   3)神経ブロック
   4)手術中に併用
   5)筋膜リリース
  2.適応
  3.基本手技
   1)2つの方法
   2)針刺しのコツ
   3)患者の位置
   4)針先の向きに注意
   5)消毒
  4.症例
   1)テニス肘
   2)肩石灰性腱炎
   3)手術中の使用
   4)正中神経ブロック
   5)筋膜リリース