やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 前作の「乳房超音波実践マニュアル」が世に出てから,13 年以上が経過しました.その間,乳房超音波診断はめざましい進歩を遂げたはずなのですが,世の中を見渡すと,そうでもないような気もいたします.つまり,乳房超音波の普及とともに,従事者に占める初学者の割合が大きくなり,その結果,全体の診断レベルのアベレージはむしろ下がってきているのではないかと考えられます.ただ,それは仕方がないことでもあり,いずれ時間が解決してくれるはずなのですが,もう少し深く考えていくと2 つの問題点がみえてまいりました.
 まずひとつ目は,新しく乳房超音波を始められる方々の職場の大半が検診の場であるということです.以前は,乳房超音波に従事する者は限られた施設の限られた人間で,超音波の世界では少数派でした.ただ,いずれも乳腺疾患の多い施設であったため,そこから学ぶ機会も多かったわけです.しかし,検診の現場では症例をみる機会に恵まれず,極端な例では「乳癌をみたことのない人間が乳癌検診をしている」といった,受診者の方々が想像もできない状況さえ生じております.
 もうひとつは,装置の進歩とともにオプション機能も増え,それを使いこなせていない場合が多いということがあげられます.血流やエラストグラフィといったオプション機能は,十分に熟知した者が適応となる症例を選んだうえで使わなければ,役に立たないわけですが,やみくもに使いその情報に振り回された結果,かえって診断能を低下させてしまっているという例も散見されます.
 若い方々にとって,講習会の参加やガイドラインを覚えることはもちろん大切です.しかし,学んだことのうち何が重要で何が重要でないかの重み付けができていないと,その知識は実践では役に立たないものになってしまいます.自動車教習所の教則本をすべて覚えていても上手く運転できるとはかぎりませんよね.ですから本書は「市街地ドライビングテクニック本」のようなものを目指しました.
 さて,本書のように分担執筆された書籍は,ときとして執筆者ごとに記載している内容が微妙に異なることがあります.本書はそうならないよう,著者間の打ち合わせを綿密にして,各項ごとの整合性が十分にとれるよう配慮しました.
 本書が乳房超音波検査の実践で役に立つ1 冊となることを願っております.
 2019 年4 月
 佐久間 浩
 白井秀明
第1章 乳腺疾患の基礎知識
 わが国の乳癌(矢形 寛)
 乳腺病理診断の基礎(堀井理絵)
 乳腺疾患への取り組み方―誤診を防ぐ診断の進め方―(秋山 太)
第2章 乳房超音波検査の基礎
 診断装置(尾羽根範員)
 検査法(松元香緒里)
 用語と所見の取り方(白井秀明)
第3章 乳房超音波検査の臨床
 正常乳房(佐久間 浩)
 乳腺疾患の形態分類(佐久間 浩)
 限局型腫瘤(佐久間 浩)
 中間型腫瘤(三塚幸夫)
 浸潤型腫瘤(壬生明美)
 非腫瘤性病変(白井秀明)
 超音波による乳癌検診(橋本秀行)
 超音波検診の要精査基準を考える(佐久間 浩)
 ドプラ法(尾羽根範員)
 エラストグラフィ(三塚幸夫)
 所属リンパ節転移の検索(佐久間 浩)
第4章 知っておきたい他の検査法
 乳房腫瘤に対する超音波ガイド下インターベンション(位藤俊一)
 マンモグラフィの基礎(藤井雅代)
 乳房疾患診療におけるマンモグラフィの役割(古澤秀実)