やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 超音波診断装置の改良・開発と信号処理技術の進歩に伴い,装置の小型・高性能化が進んでいます.最近登場したポータブル装置は多機能で可動性に富み,状況に応じて架台から装置の脱着が可能なため,ベッドサイド検査に新たな展開を引き起こしつつあります.
 装置の小型・高性能化は「何時でも」,「何処でも」,「繰り返し」検査ができるという心エコーの特徴に加えて,POC(Point of Care)とよばれる迅速検査への対応も可能にしたため,救急現場では必須の検査法となっています.しかし,一口にベッドサイド検査といっても実施する目的はさまざまで,救急外来や入院患者急変時などのように迅速な対応が必要な場合と,骨折や感染などで検査室への移動が困難な場合ではアプローチ法や実施内容が異なります.一般的には,緊急時の検査は医師が行うことが多いと思われますが,技量が不十分で目的とする情報が得られない場合には検査担当者である技師に支援要請があるため,状況に応じた対応ができるような訓練が必要となります.
 検査室内で行う心エコー検査は,見落としや計測漏れを防ぐため,各施設で操作マニュアルを作成し,決められた手順で行っているのが一般的です.しかし,緊急を要するベッドサイド検査では,依頼目的や患者の状態からチェックすべきポイントを決め,短時間で診断を下して,ただちにその所見を説明しなければならないため,初心者には不向きな検査といえます.また,このような状況下では,医師や看護師をはじめ多くの医療スタッフにみられながら検査を行うため,経験者でもかなりのプレッシャーを感じるようです.検査室同様,平常心で検査を行うためには,できるだけ多くの経験を積み,場馴れする以外に手段はないようです.
 ベッドサイド検査では時間をかけず,必要最小限の情報を得ることを目的としていますが,経験したことがない症例やまったく予期せぬ症例に遭遇すると,目的を達成できないまま検査を終了することもありえます.これは検査担当者の知識や技量にも起因していますが,エビデンスに基づいた系統的検査法が確立されていないのが大きな要因と思われます.
 本書はこのような背景をもとに,ベッドサイド検査を円滑に,かつ効率よく短時間で行うためにはどうしたらよいのかということを目的に企画しました.執筆者はいずれも第一線でご活躍されている先生方で,豊富な経験を基にベッドサイド検査のアプローチ法やチェックポイント,注意点などを分かりやすく解説していただきました.未経験の症例に遭遇した際のマニュアルとして,またベッドサイド心エコー検査のテキストとしても役立つ内容となっていますので,検査室内に常備し,必要に応じて確認の労を取って下さい.それがベッドサイド検査達人の第一歩となります.
 本書が心エコーベッドサイド検査の精度向上に少しでも役立つことができれば幸いです.
 2015 年9 月
 国際医療福祉大学成田保健医療学部 遠田栄一
 序(遠田栄一)
I ベッドサイド検査を行うにあたって
 1.ベッドサイド検査の意義とその役割(山田博胤)
  1.装置の小型化によってもたらされた心エコー検査の多様化
  2.ベッドサイド心エコー検査の心構え
  3.ベッドサイド心エコー検査の制約
   1)時間的な制約
   2)場所的な制約
   3)患者の状態,検査環境による制約
   4)装置の制約
  4.ベッドサイド心エコー検査の実際
   1)救急外来,入院患者の急変時
   2)脳梗塞(ストロークケアユニット)
   3)外来診察
   4)カテーテル検査室,ハイブリッド手術室,手術室
   5)検査室への移動が困難な例
   6)ドクターヘリ,ドクターカー
   7)教育回診
 2.ベッドサイド検査時の装置(岡庭裕貴)
  1.心エコー診断装置のラインナップとベッドサイドでの活用方法
   1)携帯型心エコー診断装置の役割
   2)多機能を有する小型ポータブル装置の役割
   3)高性能ハイエンド装置の役割
   4)緊急時のベッドサイド検査で求められる超音波装置
  2.ベッドサイドエコーの注意点
   1)超音波検査と医用コンセント
  3.ベッドサイド検査での装置の設定
   1)モニタの調節
  4.描出不良時の対応
   1)ダイナミックレンジの調節
   2)ポストプロセスの調節
  5.普段の心掛け
II 依頼別からみたベッドサイド検査のポイント
 1.胸痛で依頼された時のポイント(中島英樹)
  1.急性心筋梗塞
   1)急性心筋梗塞の合併症
  2.急性大動脈解離
   1)偽腔開存型解離における大動脈解離の評価ポイント
   2)偽腔閉塞型における大動脈解離の評価ポイント
   3)大動脈解離の合併症
 2.呼吸困難で依頼された時のポイント(鈴木博英)
  1.呼吸困難
  2.呼吸困難患者に対する心エコー検査
  3.急性心不全の定義
  4.急性心不全の自覚症状
  5.急性心不全の心エコー検査
  6.肺高血圧症の定義
  7.急性肺血栓塞栓症
  8.(急性)肺血栓塞栓症の自覚症状
  9.(急性)肺血栓塞栓症の心エコー検査
   1)断層心エコー法,Mモード心エコー法
   2)ドプラ法
 3.発熱で依頼された時のポイント(水上尚子)
  1.発熱で依頼された場合の検査の進め方
  2.感染が原因の発熱が考えられる場合
   1)感染性心内膜炎の診断
   2)感染性心内膜炎の特徴的な心エコー所見
   3)人工弁の感染性心内膜炎
   4)人工弁感染の心エコー所見
   5)その他心エコー検査が有用な発熱を主訴とする感染症
  3.炎症が原因の発熱が考えられる場合
   1)急性心膜炎
   2)大動脈炎症候群
  4.発熱を主訴とするその他の疾患
 4.ショックで依頼された時のポイント(米田智也)
  1.ショック
  2.ショックの分類
  3.エコーを用いたショックの鑑別方法(RUSH Exam)
   1)RUSH Examによる分類
 4.ショックをきたす疾患
   1)心タンポナーデ
   2)収縮性心膜炎
   3)急性心筋炎
   4)肺血栓塞栓症
   5)心筋梗塞
   6)その他の心筋梗塞後合併症
   7)その他のショック
 5.心電図異常で依頼された時のポイント(橋本修治)
  1.検査時コンディション
  2.徐脈
  3.頻脈
  4.房室ブロック
  5.WPW症候群
  6.ぺースメーカー
  7.右脚ブロック
  8.左脚ブロック
 6.脳硬塞で依頼された時のポイント(橋秀一)
  1.心原性脳塞栓症と心エコー検査
  2.心腔内血栓
  3.疣腫
  4.心内腫瘍
  5.奇異性脳塞栓症
  6.僧帽弁輪石灰化
 7.下肢浮腫で依頼された時のポイント(山本哲也)
  1.腫脹と浮腫の違い
  2.浮腫の判定
   1)全身性浮腫と局所性浮腫
   2)圧痕性浮腫と非圧痕性浮腫
   3)fast edemaとslow edema
   4)皮膚の色調
   5)発赤・熱感の有無
  3.浮腫を生じる疾患と鑑別の流れ
  4.心不全による下肢浮腫の特徴と鑑別ポイント
  5.静脈性浮腫のみかた
   1)深部静脈血栓症評価
   2)静脈瘤の評価
   3)血栓性静脈炎
  6.リンパ浮腫
  7.その他の浮腫
   1)薬剤性浮腫
   2)廃用性浮腫
   3)脂肪性浮腫
  8.報告書の書き方
   1)報告書作成のポイント
   2)報告書作成時の注意点
III 治療の場での検査のポイント
 1.術中経食道心エコー検査の現状と役割(出雲昌樹)
  1.大動脈弁狭窄症に対するカテーテル治療
   1)バルーン前拡張
   2)人工弁デリバリー,位置決定
   3)人工弁留置後
  2.僧帽弁閉鎖不全症に対するカテーテル治療
   1)心房中隔穿刺
   2)クリップ位置決定
   3)クリップ把持
   4)クリップ留置後の評価
 2.末梢血管カテーテル治療における技師の役割(永井美枝子)
  1.外来における超音波検査
   1)スクリーニング検査
   2)末梢血管カテーテル治療のための超音波検査
  2.カテーテル室での超音波検査
   1)末梢血管カテーテル治療における技師の役割
   2)外来検査室とカテーテル室の違い
   3)末梢血管カテーテル治療における工夫