やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 『超音波エキスパート』シリーズ第1巻として『頸動脈・下肢動静脈超音波検査の進め方と評価法』が出版され2年半の時を経て,この度シリーズ第6巻として「下肢静脈疾患」に限った形で出版されることとなりました.記述の中心は,深部静脈血栓症と静脈瘤にまつわる内容です.
 深部静脈血栓症は,その合併症である肺血栓塞栓症の対策と合わせて,循環器領域の疾患とした対応でなく,今や感染症対策と並んで医療機関全体として取り組まなければならない問題となっています.小生は,さまざまな学会や講習会で深部静脈血栓症の超音波検査での評価について実演を交えて講演をする機会が多いのですが,参加者が臨床検査技師や循環器医だけでなく,消化器や泌尿器,婦人科,整形外科,脳血管内科,脳神経外科,血液内科,麻酔科など実に多くの診療科の医師が参加されている状況をみて,この分野への関心の高さを実感します.
 また,下肢静脈瘤は,日常の臨床現場でしばしば経験する疾患なのですが,適切な診断・治療がなされず経過している例も少なくありません.超音波検査はこの静脈瘤に対して単に診断だけでなく,静脈瘤治療に対して行う静脈マーキングにおいてもきわめて有用な手段となります.
 超音波が医療分野で使われて半世紀が経ちました.いくつもの新しい技術が開発され,今まで見えなかったモノが見えるようになってきました.近年では装置がフルデジタル化され,さらに開発のスピードもアップしました.実際に検査していても,最近の超音波診断装置の進歩には目をみはるものがあります.下腿のヒラメ静脈内の血栓や太さ2 mm程度の交通枝が容易に明瞭に描出できるようになりました.しかし,いくら装置が進歩しても,やはり使いこなしてこそ価値のある装置です.検査者の知識,技量が求められるのが超音波検査の奥の深さであり興味の絶えないところです.しかしながら“検査者によって結果が異なる”面も持ち合わせています.
 本書は,下肢静脈超音波検査の技術書という形態をとりながら,深部静脈血栓症や静脈瘤についての解剖や身体所見,鑑別診断,病理,発症機序,治療,予防など,より広い視野で静脈疾患を捉えてもらおうと企画しました.執筆は,さまざまな領域の第一線でご活躍の先生方にお願いしました.これから検査を始める方にはアプローチの基本や解剖から読んでいただくとよいでしょう.また,検査を始めてさまざまな疑問をもつようになった方にとっては日頃の疑問が解けるような記述が多いはずです.また,検査の背景となる静脈疾患の全体像がさまざまな切り口で解説されています.本書が“超音波エキスパート”になるための『超音波エキスパート』となれば幸いです.
 2006年11月
 編集代表 佐藤 洋
I 下肢静脈疾患の臨床
 1 最近の血管診療に関する話題(松尾 汎)
  1 血管診療技師の誕生
  2 日本超音波医学会認定検査士:血管エコー部門の新設に向けて
 2 深部静脈血栓症の病態と治療(松尾 汎)
  1 はじめに
  2 頻度
  3 静脈の基礎:解剖と生理
  4 病態の理解
  5 DVT・PEの病因
  6 DVT・PEの診断法
  7 DVTの治療
  8 おわりに
 3 病理からみた深部静脈血栓症(呂 彩子・景山則正)
  1 はじめに
  2 静脈血栓の特徴
  3 下肢深部静脈の解剖学的特徴
  4 病態からみた深部静脈血栓症の3型
  5 深部静脈血栓の経時的変化
  6 肺血栓塞栓症と深部静脈血栓症
  7 肺血栓塞栓症の塞栓源としての下腿型DVT
  8 下腿静脈血栓とヒラメ静脈還流路
  9 まとめ
 4 身体所見・症状からみた下肢静脈疾患(孟 真・金子織江・中村道明)
  1 静脈疾患の基本の病態
  2 静脈疾患で現れる身体所見・症状
  3 静脈疾患の身体的所見・症状からの分類
  4 病因の違いによる身体所見の違い
  5 まとめ
 5 下肢静脈疾患をめぐる予防・診療ガイドラインのポイント―とくに「肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)予防ガイドライン」を中心に―(中村真潮)
  1 はじめに
  2 予防ガイドラインの対象疾患とリスクの種類
  3 予防ガイドラインで用いられる静脈血栓塞栓症の予防法
  4 わが国独自の予防ガイドラインの必要性
  5 わが国における静脈血栓塞栓症の予防ガイドラインの策定
  6 静脈血栓塞栓症予防ガイドラインの実施方法
  7 わが国の静脈血栓塞栓症予防ガイドラインの現状
  8 静脈血栓塞栓症予防における超音波検査の役割
  9 静脈血栓塞栓症の診断の進め方
  10 おわりに
II 超音波で診る
 1 超音波検査に役立つ下肢静脈の解剖学的知識(小谷敦志)
  1 はじめに
  2 静脈の構造と特徴
  3 体位による下肢静脈圧と血液量の変化
  4 下肢から心臓への静脈還流
  5 下肢静脈の分類
  6 下肢静脈の検査部位と描出像
  7 深部静脈
  8 表在静脈
  9 穿通枝(交通枝)
  10 おわりに
 2 超音波装置のセットアップ(小谷敦志)
  1 はじめに
  2 超音波装置の選択
  3 目的臓器に応じた装置設定
  4 下肢静脈エコーのためのセットアップ
  5 おわりに
 3 深部静脈血栓症診断のための標準的超音波検査法(佐藤 洋)
  1 はじめに
  2 DVT超音波検査の基礎知識
  3 DVT超音波検査の方法と注意点
  4 検査結果の評価と判断
  5 検査の実施にあたって心がけること
  6 おわりに
 4 下肢静脈瘤の超音波検査法(山本哲也・松村 誠)
  1 はじめに
  2 静脈瘤について知っておくべきこと
  3 検査に必要な解剖
  4 検査の準備
  5 超音波診断装置と条件設定
  6 検査体位
  7 各部位における静脈の描出方法
  8 理学所見の診かた
  9 実際の計測,観察・評価方法
  10 静脈瘤の治療法と血管エコーによる術前評価
  11 逆流範囲に基づく分類と読影法のコツ
  12 二次性静脈瘤との鑑別
  13 特殊な静脈瘤
  14 報告書の作成
 5 超音波検査による深部静脈血栓症の鑑別診断(佐藤 洋)
  1 はじめに
  2 深部静脈血栓症診断のダイアグラム
  3 臨床症状と脈管疾患
  4 浮腫がみられる疾患との鑑別
  5 下肢痛の出現形式
  6 皮膚所見からみる血管疾患
  7 腫瘤がみられる疾患との鑑別
  8 おわりに
III 種々の画像診断の特徴を知る
 1 種々の画像診断の特徴を知る(大田英揮・高瀬 圭・星 俊子)
  1 はじめに
  2 静脈造影
  3 CT
  4 MRI
  5 核医学
  6 おわりに
付 施設のレポートサンプル(山本哲也)