やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 相原 一
 東京大学大学院医学系研究科外科学専攻眼科学
 眼科治療には,薬物療法としては内服から点眼,眼内外注射,また手術療法としてはレーザー手術からほとんど局所麻酔で可能な眼内手術と,非常に多様な治療手段がある.それには疾患の多様性によることはもちろん,眼球および眼窩組織の解剖や構造の特殊性によっていることはいうまでもない.
 検査機器の進歩により,病態解明が進んでより詳細な評価が可能となった現在は,薬物や手術治療の進歩がめざましい.薬物治療においては抗体医薬が導入され,手術治療においては治療機器の進歩により,より低侵襲な手術治療が可能となり,日帰りでも可能な手術が増えてきているのが現状である.とくにさまざまなアプローチが可能な眼表面疾患では,涙液の層別医療,角膜の層別化再生医療,構造変化を伴う医療など,10年前には想像できない治療法が可能となった.緑内障ではあらたに主経路の房水流出を促進するROCK阻害薬や,配合薬の導入が進んでいる.また生体材料の進歩に伴うインプラント手術,低侵襲手術に向けたデバイスの参入も盛んである.網膜硝子体疾患ではOCTと抗VEGF抗体薬の導入に伴い,治療法も大きく進歩した.炎症疾患でもステロイド投与以外のアプローチが可能となった.
 今回の特集では,検査の進歩もさることながら,そのお陰で進歩してきた治療法に焦点を当て,専門の先生方から最新の情報を提供していただいた.超高齢社会において,quality of life(QOL)を保つために重要な視機能維持や回復に向けた眼科医学のあゆみをご理解いただければ幸甚である.
 はじめに(相原 一)
ドライアイ
 1.ドライアイの治療(横井則彦)
  ・ドライアイの考え方―日・米の違い
  ・新しいドライアイ点眼液とtear film oriented therapy(TFOT)
  ・TFOTのためのtear film oriented diagnosis(TFOD)
  ・アジアにおけるTFODとTFOTの考え方の拡大
  ・ドライアイの眼表面を修飾するほかのメカニズムと点眼治療
  ・点眼以外の治療
角膜・結膜の疾患
 2.角膜再生医療の最前線(山上 聡)
  ・角膜上皮の再生医療
  ・角膜実質層の再生
  ・角膜内皮層の再生
 3.角膜移植の進歩(臼井智彦)
  ・術式の進歩―全層角膜移植術から選択的層状角膜移植へ
  ・内皮障害に対する選択的層状角膜移植―角膜内皮移植
  ・実質混濁に対する選択的層状角膜移植―表層角膜移植
  ・上皮に対する層状角膜移植
  ・人工角膜の進歩
  ・今後の展望
 4.円錐角膜治療の進歩(宮井尊史)
  ・円錐角膜の診断
  ・円錐角膜の治療
  ・角膜クロスリンキングの適応
  ・角膜クロスリンキングの合併症と限界
  ・円錐角膜の治療戦略の変化
 5.アレルギー性結膜炎―治療の原則(福島敦樹)
  ・アレルギー性結膜炎とは ・どのように治療するか,その原則は?
  ・治療を考える前に ・治療の選択肢1:抗アレルギー点眼薬
  ・どのような症状が引き起こされるか ・治療の選択肢2:ステロイド点眼薬
  ・どのようにして診断するのか
 6.角結膜感染症の治療(井上幸次)
  ・抗微生物薬の基本的知識
  ・結膜感染症の治療
  ・角膜感染症の治療―「感染性角膜炎診療ガイドライン」の要約と解説
  ・最近の話題
涙器・水晶体・強膜・ぶどう膜の疾患
 7.流涙症診断,涙道診療の最前線(白石 敦)
  ・流涙症をきたす疾患
  ・流涙症診察の手順
  ・涙道疾患の診断と治療
 8.最新の白内障手術(柴 琢也)
  ・水晶体摘出―超音波発振方法の進歩 ・フェムトセカンドレーザー白内障手術
  ・眼内レンズ(IOL)の進歩
 9.ぶどう膜炎の治療の進歩(蕪城俊克・田中理恵)
  ・ぶどう膜炎の病型分類と原因疾患 ・局所治療の進歩
  ・眼内液を用いたPCR検査の進歩 ・免疫抑制剤,TNF阻害薬による全身治療の進歩
 10.強膜炎治療の進歩(田中理恵・蕪城俊克)
  ・強膜炎の病型分類・原因・治療 ・非感染性強膜炎の局所治療
  ・非感染性強膜炎の基本戦略 ・非感染性強膜炎の全身治療
 11.眼周囲腫瘍性疾患の治療(辻 英貴)
  ・結膜腫瘍に対する治療 ・眼窩腫瘍に対する治療
  ・眼瞼腫瘍に対する治療
緑内障
 12.緑内障薬物治療の進歩―過去,現在,そして未来へ(坂田 礼)
  ・過去〜現在の緑内障点眼薬
  ・未来の緑内障点眼薬(候補)と,期待されるドラッグデリバリーシステム
 13.緑内障手術治療の進歩―流出路再建術(笠原正行・庄司信行)
  ・流出路再建術の進歩
  ・Trabectome手術
  ・Microhook ab interno Trabeculotomy(μLOT)
  ・Kahook Dual Blade
  ・360-degree suture trabeculotomy ab interno(S-LOT ab interno)
  ・iStent
 14.緑内障手術治療の進歩―濾過手術(井上俊洋)
  ・濾過手術の定義と眼圧下降機序
  ・線維柱帯切除術の登場まで
  ・線維柱帯切除術の眼圧下降効果改善の試み
  ・線維柱帯切除術の安全性改善の試み
  ・新しい濾過手術
 15.緑内障手術治療の進歩―チューブシャント手術(プレートのあるもの)(稲谷 大)
  ・トラベクレクトミーの限界 ・アーメド緑内障バルブの構造
  ・プレートのあるチューブシャント手術の眼圧下降の仕組み
  ・プレートのあるチューブシャント手術の手技
  ・術後管理 ・術後成績
  ・バルベルト緑内障インプラントの構造
 16.閉塞隅角緑内障の管理と治療のアップデート(酒井 寛)
  ・原発閉塞隅角の管理と治療 ・慢性原発閉塞隅角眼の管理と治療
  ・急性原発閉塞隅角症に対する管理と治療 ・続発閉塞隅角眼の管理と治療
網膜・硝子体の疾患
 17.糖尿病網膜症治療―抗VEGF療法と次世代網膜光凝固術(白矢智靖・加藤 聡)
  ・糖尿病網膜症(DME)に対する抗VEGF療法
  ・糖尿病網膜症に対する網膜光凝固術
 18.加齢黄斑変性治療の進歩―抗VEGF薬時代の到来(野村陽子・小畑 亮)
  ・加齢黄斑変性とは ・抗血管内皮増殖因子(VEGF)薬
  ・加齢黄斑変性の予防的治療 ・新しい治療
  ・光線力学療法(PDT)
 19.網膜静脈閉塞症治療の進歩―抗VEGF療法の登場により何が変わったか(善本三和子)
  ・網膜静脈閉塞症(RVO)とは
  ・網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)の発症機序
  ・BRVOの臨床所見と症状
  ・BRVOの治療
  ・BRVO治療における今後の抗VEGF療法の課題
 20.黄斑円孔と黄斑上膜の治療(門之園一明)
  ・黄斑円孔の治療 ・黄斑上膜の治療
 21.網膜剥離,最近の動向(出田隆一)
  ・網膜剥離の定義と分類 ・裂孔原性網膜剥離の治療方針と技術の進歩
  ・裂孔原性網膜剥離の病態 ・硝子体手術の技術革新
  ・裂孔原性網膜剥離の疫学 ・短期入院から日帰り手術へ
視神経・その他の疾患
 22.視神経炎,視神経症の治療―視神経疾患の新しい治療に必要な要素(毛塚剛司)
  ・視神経炎の初期治療
  ・視神経炎の寛解期における再発予防(維持療法)
  ・視神経炎患者の治療予後
  ・虚血性視神経症(ION)の治療
  ・うっ血乳頭の治療
  ・Leber遺伝性視神経症の治療
 23.斜視治療の進歩―ボツリヌス治療と筋移動術(林 孝雄)
  ・斜視の種類 ・斜視の非観血的治療
  ・斜視治療の種類 ・斜視の手術
 24.眼瞼下垂の術式の進歩(白川理香・野田実香)
  ・眼瞼下垂の評価
  ・眼瞼下垂の術式―近年の進歩

 サイドメモ
  Forme fruste keratoconus(不全型円錐角膜)
  結膜抗原誘発試験
  結膜充血解析法
  抗菌薬感受性判定
  Postantibiotic effec(t PAE)
  TS-1による眼障害
  涙道内視鏡を用いた涙管チューブ挿入術
  抗体価率
  モノクローナル抗体製剤
  生物学的製剤
  エタネルセプト
  IgG4 関連眼疾患(IgG4-ROD)
  (点眼)アドヒアランス
  PAP(prostaglandin associated periorbitopathy)
  プレートの4つの大きな穴
  レーザー虹彩切開術後の水泡性角膜症の頻度
  角膜内皮細胞密度の正常値
  Diabetic Retinopathy Clinical Research Network(DRCR.net)
  ETDRS糖尿病網膜症重症度スコア分類
  抗VEGF薬の硝子体内投与と動脈閉塞性疾患のリスク
  網膜静脈閉塞症(RVO)に対する硝子体手術
  トリアムシノロンテノン嚢下注射
  網膜剥離は増加している?
  抗アクアポリン4(AQP4)抗体陽性視神経炎に対する抗体測定
  抗MOG抗体陽性視神経炎の疫学
  Cyclophorometer