やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 小口正彦
 がん研究会有明病院放射線治療部
 ここ数年間において,各種のがん治療法のなかでも放射線療法に強い関心が寄せられている.山下 孝・伊東久夫両先生が「医学のあゆみ」2008年227巻9号に“がん放射線治療UPDATE”を編集されて以降の8年間に,いかに飛躍的な進歩が遂げられているかご理解いただけるであろう.当時の将来展望は着実に臨床実績として成果を上げている.放射線療法の手段や方法に関する技術的進歩だけでなく,放射線治療はどのように効くのかという放射線分子生物学の進歩からの恩恵も大きい.
 本特集では放射線腫瘍医の精鋭が,放射線腫瘍学のさまざまな進歩を解説している.現時点で達成できている放射線治療の成果を確認していただき,今後の5年間でどのような夢が実現するであろうと期待していただきたい.エキスパート施設での成果が国内にあまねく普及できるように,読者諸氏の御理解とご支援を切望するものである.
 順序が逆になるが,現状の成果をご理解いただくために,“疾患別治療成績”の章から紹介する.2008年に展望されていた各疾患の放射線治療が着実に実施され,期待された治療成績が実現している.強度変調放射線治療(IMRT)が一般に普及してきたことにより脳腫瘍,頭頸部癌,食道癌,子宮癌では副作用が低減され,治療成績が向上した.さらに,薬物併用により頭頸部癌,食道癌,直腸癌では臓器機能温存が可能になってきている.体幹部定位照射の普及は早期肺癌だけでなく肝腫瘍の治療にも活路を開いてきた.画像誘導小線源治療により高線量率組織内照射が可能となり,局所進行子宮頸癌でも治癒率が高まり,前立腺癌では短期間に実施可能であるうえに生化学的制御率も高く報告されている.低線量でも治癒可能な悪性リンパ腫では20年後の遅発性放射線毒性を少なくするための努力が払われている.
 “最前線の研究治療”の章の各項目では多彩な努力の積み重ねが解説されている.最初に放射線治療による腫瘍特異的免疫反応が治療効果にも寄与していることや,その誘導メカニズムと免疫放射線療法の可能性について解説されている.放射線治療手段として,(1)画像診断技術と融合により癌病巣の動きをリアルタイムに把握する四次元放射線治療が開発され,(2)物理的特徴を空間的に最大に生かす強度変調陽子線治療が開発され,(3)スキャンニング照射法・回転ガントリーを用いた重粒子線治療が開発された.さらに,(4)癌細胞を超選択的に治療できるホウ素中性子捕捉療法(BNCT)が開発中である.
 わが国は,世界で唯一,高精度で自由度の高い最先端治療が多施設共同研究できるようになってきている.
 はじめに(小口正彦)
最前線の研究治療
 1.放射線治療により誘導される抗腫瘍免疫と“免疫放射線療法”(吉本由哉・鈴木義行)
  ・動物モデルにおける放射線治療により誘導される抗腫瘍免疫
  ・臨床における放射線治療により誘導される抗腫瘍免疫
  ・放射線治療と免疫治療の併用と,最近の臨床試験
 2.ホウ素中性子捕捉療法―原子炉から加速器へ(井垣 浩)
  ・ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)に用いる中性子
  ・BNCTの歴史とホウ素化合物
  ・原子炉BNCTの治療成績
  ・原子炉による治療の問題点
  ・加速器BNCTシステムの開発の現状
  ・BNCTの将来展望
 3.強度変調陽子線治療(清水伸一・白土博樹)
  ・スキャニング法による陽子線治療
  ・強度変調放射線治療(IMRT)
  ・SFO法とMFO法
  ・強度変調陽子線治療(IMPT)
  ・ロバストネスと画像誘導,体内臓器の動きへの対応
  ・物理的および臨床的quality assurance(QA)と医療資源
 4.重粒子線治療(白井克幸・大野達也)
  ・重粒子線治療の概要
  ・重粒子線治療の実際
  ・重粒子線治療の今後の展望
 5.分子標的薬と放射線治療(中村聡明)
  ・化学放射線治療(CRT)
  ・分子標的薬
放射線治療技術の進歩
 6.各種IMRTテクニックと新しい放射線治療機器(唐澤克之・木藤哲史)
  ・強度変調放射線治療(IMRT)とは?
  ・各種IMRT技術
  ・新しいIMRT可能な放射線治療装置とその特長
 7.動くがん病巣に対する放射線治療―呼吸性移動によるものを中心に(飯塚裕介)
  ・呼吸性移動の理解
  ・おもな呼吸移動対策法
  ・今後の展開
 8.画像誘導小線源治療(IGBT)―個別化治療への進化(沼尻晴子・櫻井英幸)
  ・従来法とその限界
  ・IGBTとは?
  ・IGBTで広がる可能性―難治性腫瘍への挑戦
疾患別治療成績:ここまで治るようになった! 機能温存と生存率向上
 9.悪性神経膠腫に対する強度変調放射線治療(IMRT)(斎藤紘丈・青山英史)
  ・悪性神経膠腫の疫学
  ・悪性神経膠腫に対する摘出術後の化学放射線治療
  ・全脳照射から局所照射への変遷
  ・IMRTの仮想的治療計画および3DCRTとの比較
 10.HPV関連中咽頭癌―QOL向上をめざした治療へ(利安隆史)
  ・HPV関連中咽頭癌の臨床・病理学的特徴
  ・HPV発癌メカニズム
  ・頭頸部癌におけるHPV感染と疫学
  ・HPVの検出方法
  ・p53変異とEGFR発現
  ・化学療法,放射線治療への感受性
  ・腫瘍免疫
  ・経口腔的切除術(TOR)
  ・中咽頭癌に対する放射線治療
  ・副作用低減に向けて
 11.早期乳癌に対する加速乳房部分照射(APBI)―安全で利便性の高い照射の開発に向けて(鹿間直人・宮澤一成)
  ・加速乳房部分照射(APBI)の適応
  ・APBI法の種類と照射スケジュール
  ・APBIの利点と欠点
  ・外部照射法を用いたAPBIのプランニング
  ・APBIの今後の課題
 12.肺癌に対する体幹部定位照射(川畑秀雄・永田 靖)
  ・定位放射線照射(stereotactic radiotherapy:SRT)とは
  ・体幹部定位照射の適応疾患
  ・体幹部定位放射線照射の実際
  ・体幹部定位放射線照射の合併症
  ・体幹部定位放射線照射の臨床成績
 13.頸部食道癌に対するIMRT―IMRTの応用で何が変わるか?(古平 毅・伊藤 誠)
  ・頸部食道癌の手術成績と適応
  ・頸部食道癌の放射線治療の適応と問題点
  ・IMRTのメリット
  ・わが国における頸部食道癌の臨床試験
  ・当院における頸部食道癌の放射線治療の実際
 14.肝細胞癌に対する体幹部定位放射線治療(SBRT)―肝細胞癌に対する根治治療のひとつの選択肢として(武田篤也・他)
  ・肝細胞癌の疫学と,体幹部定位放射線治療(SBRT)の意義
  ・SBRTの適応
  ・早期肝細胞癌に対する治療成績
  ・進行肝細胞癌に対する治療成績
  ・治療後経過観察での注意事項
  ・有害事象
  ・課題と将来展
 15.直腸癌に対する術前化学放射線治療(室伏景子)
  ・周術期放射線治療の意義
  ・術前放射線治療単独と術前化学放射線治療
  ・照射スケジュール
  ・最適な手術時期
  ・再発のリスク因子による治療法
  ・導入化学療法
  ・放射線治療
 16.肛門管扁平上皮癌に対する根治的化学放射線療法(伊藤芳紀)
  ・肛門管扁平上皮癌に対する根治的化学放射線療法の臨床試験とエビデンス
  ・成績向上をめざした治療開発の状況
  ・所属リンパ節領域の輪郭の囲み
 17.子宮頸癌に対する放射線治療(若月 優)
  ・背景
  ・子宮頸癌に対する化学放射線治療成績
  ・三次元画像誘導腔内照射
  ・子宮頸癌に対する高精度外部照射および粒子線治療の可能性
 18.前立腺癌に対する小線源療法(吉岡靖生)
  ・低線量率小線源療法(low-dose-rate brachytherapy)
  ・高線量率組織内照射(high-dose-rate brachytherapy)
  ・小線源療法は外照射や手術を超えるか
 19.悪性リンパ腫のISRT(江島泰生・他)
  ・INRTとISRT
  ・限局期のHodgkinリンパ腫およびアグレッシブリンパ腫のISRT
  ・進行期Hodgkinリンパ腫のISRT
  ・進行期アグレッシブリンパ腫のISRT
  ・治療抵抗性または再発悪性リンパ腫に対する救済療法におけるISRT
  ・低悪性度リンパ腫のISRT
 20.Oligometastasesに対する放射線治療(神宮啓一・新部 譲)
  ・脳転移
  ・体幹部
  ・まとめ

サイドメモ
 免疫監視(immunosurveillance)と免疫編集(immunoeditting)
 アプスコパル効果
 Bragg peakとは
 四次元放射線治療における治療計画CT撮影
 頸部食道癌の病期分類
 放射線治療用語―3DCRT,IMRT,IGRT
 線種と放射線治療機器の“最先端”
 日本と欧米における放射線治療の違い
 前立腺癌のリスク分類
 1 回線量と生物学的効果線量(BED)