やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 北川一夫
 東京女子医科大学医学部神経内科
 脳卒中診療は,2015 年超急性期血行再建療法の発表が相次いでなされ,あらたな時代に突入した.脳卒中救急の診療体制を各地域で充実させることが喫緊の課題となっているが,時代とともに脳卒中の動向は変化し,診断機器の向上,薬物療法の進歩,病態解明のための研究の進歩にはめざましいものがある.とくに非弁膜症性心房細動への新規経口抗凝固薬の応用により,重症脳塞栓患者や抗血栓療法に伴う頭蓋内出血合併症が激減することが期待されている.しかし,急性期治療が進歩すると,人口の高齢化と相まって今後わが国の脳卒中患者はますます増加していくことが予想され,内科的リスク因子の管理の重要性はさらに高まっていくであろう.また,原因不明の脳塞栓症に対して,embolic strokeof undetermined source(ESUS)という新しい概念が提唱され,細胞治療,再生医療も本格的な治験に入っていくことが期待されている.1980 年代ごろから地道な研究の進歩が進んできた脳虚血基礎病態に関する研究でも,最近は神経細胞だけを保護することから,神経血管ユニットを保護することが強調されるようになった.臨床現場で急性期血行再建療法が確立され,脳MRI画像診断を駆使できるようになり,ようやく脳保護という観点からのアプローチが臨床面に応用できるようになるものと期待される.さらに,脳卒中に罹患した患者が長期生存するようになると,認知症予防という観点からのアプローチも必要となる.近年,Alzheimer型認知症への血管危険因子の関与の重要性が強調されるようになり,根本的な治療手段のないAlzheimer病では,糖尿病をはじめとした血管危険因子の管理がその予防により重要と考えられている.脳卒中患者を長期間に管理していくうえでは,脳卒中再発だけではなく虚血性心疾患,認知症を未然に防ぐという視点が必要と考えられる.
 はじめに(北川一夫)
予防・疫学
 1.脳卒中の最近の動向,危険因子の変遷(羽山実奈・他)
  脳卒中死亡率の推移
  脳卒中発症率の推移
  脳卒中発症の危険因子の変遷
脳血管障害の基礎病態
 2.脳保護戦略の新展開(中村晋之・他)
  神経保護からNVU保護へ
  活性酸素種とNADPH oxidase
  炎症と修復
  幹細胞移植のもたらす脳保護作用
  ω-3 系脂肪酸
  血栓溶解と血液凝固
 3.脳梗塞に対する再生治療(山下徹・阿部康二)
  脳の可塑性による再生
  内在性神経幹細胞の存在
  骨髄間葉系幹細胞による移植治療の現状
  iPS細胞移植の治療効果
  iN細胞とダイレクトリプログラミング
 4.慢性脳低灌流―その分子機構と認知症への関与(冨本秀和)
  慢性脳低灌流モデル
  慢性脳低灌流と脳内微小環境の変化
  慢性脳低灌流と認知症
脳卒中診断の進歩
 5.MRIによる脳血管障害の診断(八木田佳樹)
  脳血管障害の急性期診療
  動脈壁病変の診断
  脳小血管病の評価
  その他の撮像法
 6.脳梗塞診療における神経超音波検査の進歩(坂口学)
  超音波造影剤を用いたプラーク診断
  3 D超音波検査
  経頭蓋超音波血栓溶解療法の進歩
  まとめ
 7.最新のPET/SPECTを用いた血行力学的脳虚血の画像診断の進歩(中川原譲二)
  血行力学的脳虚血とmisery perfusion
  Acute misery perfusion
  Long-standing misery perfusion
脳卒中臨床の最新の話題
 8.急性期血栓溶解療法―認可から20 年の動向(青木淳哉・木村和美)
  NINDs tPA trialからECASSIII
  ECASSIII後の変化
  IST-3 trial
  発症からの経過時間と転帰の関係
  Mobile Stroke Uni(t MSU)
  発症時間不明の脳梗塞例に対するtPA療法
  テネクテプラーゼ
  デスモテプラーゼ
  軽症例に対するtPA療法
  tPA量の検討―0.9 or 0.6 mg/kg
  tPAと他剤の併用療法
  経頭蓋超音波との併用
 9.急性期脳梗塞に対する血管内治療(山上宏)
  脳主幹動脈閉塞による脳梗塞
  血管内治療の手技とデバイス
  血管内治療と内科治療との比較試験
  血管内治療の有効性を示した要因
  急性期脳梗塞に対する再灌流療法の今後
 10.脳梗塞再発予防の抗血栓療法―急性期から慢性期まで(伊藤義彰)
  アテローム血栓症の発症機序―プラークの破綻と再内皮化
  アテローム血栓症急性期の抗血小板療法
  非心原性脳梗塞の慢性期再発予防
  ラクナ梗塞の再発予防
  心原性塞栓症の急性期再発予防
  非弁膜症性心房細動による心原性脳塞栓症の再発予防からみた抗凝固薬の比較
 11.急性脳血管症候群(ACVS):脳卒中予防の最前線(内山真一郎)
  TIAは発症後早期ほど危険である
  急性脳虚血病態の新概念
  国際共同観察研究から得られた最新情報
  どのようなTIA患者にどのような初期対応をすべきか
 12.ESUS(塞栓源不明の脳梗塞)(北川一夫)
  ESUSの塞栓源
  ESUSの診断
  ESUSに対する抗血栓療法,現在進行中の臨床試験
 13.脳卒中急性期・慢性期の高血圧管理(本間一成・豊田一則)
  急性期管理
  慢性期管理
 14.脳卒中診療における脂質管理(細見直永・松本昌泰)
  脳卒中発症予防における脂質管理
  脳卒中再発予防における脂質管理
  スタチンの脳卒中発症抑制機序
  非スタチン療法による脳卒中発症・再発抑制
  脳出血における脂質管理
 15.脳卒中診療における糖尿病管理(名取達コ・寺山靖夫)
  脳卒中と糖尿病の関連
  大血管症のスクリーニング・検査
  糖尿病と脳卒中の一次予防
  糖尿病と脳卒中の二次予防
 16.血管性認知症とAlzheimer病の血管性危険因子(長田乾・他)
  血管性認知症(VaD)とAlzheimer病(AD)
  認知症の危険因子
  血管性危険因子の厳格管理の効果
 17.遺伝性脳小血管病(CADASIL,CARASIL)(向井麻央・水野敏樹)
  CADASIL
  CARASIL
 18.脳梗塞患者に対する細胞治療の現状(七戸秀夫・寳金清博)
  脳梗塞患者に対する細胞治療の黎明期
  脳梗塞患者に対する細胞治療の現状―とくに開発ガイドライン
  脳梗塞患者に対する細胞治療の将来
 19.虚血性脳血管障害に対する血行再建の現状(吉田和道・宮本享)
  動脈硬化性内頸動脈閉塞性疾患
  もやもや病

サイドメモ
 脳卒中疫学の国際比較
 喫煙
 ペナンブラ
 アンジオテンシンとNADPHオキシダーゼ
 加齢性白質病変
 ASPECTS,DWI-ASPECTS
 Susceptibility vessel sign(SVS)
 NIHSS-timeスコア
 Alberta Stroke Program Early CT Score(ASPECTS)
 Thrombolysis In Cerebral Infarction(TICI)分類
 シロスタゾールの多面的作用
 分枝アテローム病(BAD)
 一過性脳虚血発作(TIA)の定義とコンセンサス
 Cryptogenic stroke(潜因性脳卒中)
 至適LDLコレステロール管理目標
 JAM trial