やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 今井圓裕
 中山寺いまいクリニック
 慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)の定義が2002年に提唱されてから10年がたち,その内容に関する再評価がKDIGO(Kidney Disease:Improving Global Outcomes)でなされ,新しいCKDの評価と治療に関するガイドラインが出版されたことに合わせて,わが国のCKD診療の指針として,『CKD診療ガイド2012』が発行された.
 CKDの重症度分類は従来,糸球体濾過量(GFR)のみで評価されてきたが,新しく原因(cause),腎機能(GFR),蛋白尿(アルブミン尿)に基づいたCGA分類による評価へと変更された.GFRステージ3(GFR30〜59mL/min/1.73u)は,45mL/min/1.73uでG3aとG3bの2つに分けられた.重症度分類はその程度に応じて色分けされており,リスクがもっとも低い状態が緑,つづいて黄,オレンジ,赤の順にリスクが高くなる(p.723参照).
 GFRは日本人の血清クレアチニンの推算式(eGFRcreat)で推算することを推奨するが,るい痩または下肢切断者などの筋肉量が極端に少ない患者については,シスタチンCの推算式(eGFRcys)の使用でより正確なGFRを得ることができる.また,重症度分類はアルブミン尿定量で分類されるが,糖尿病患者以外は保険適用の範囲を考慮し,蛋白尿で評価することとした.
 CKDに合併した高血圧の管理についても大幅に変更された.従来は130/80mmHg未満(尿蛋白1g/day以上では125/75mmHg未満)であったCKD患者の血圧管理目標値は,診察室血圧130/80mmHg以下に変更された.これはONTARGETをはじめとする解析から,CKD患者で危惧される心血管疾患(CVD)リスクが収縮期血圧130mmHgでもっとも低かったことなどの新しいエビデンスに基づくものである.KDIGOの検討でも過剰降圧による心血管死亡の増加が指摘されたほか,わが国においても腎機能悪化につながる高齢者の過剰降圧例が報告されたため,その対応策として,「過剰降圧〔収縮期血圧(SBP)110mmH未満〕を避けるように」の記載が追加された.
 降圧薬の選択については,従来第一選択薬であったACE阻害薬またはARBなどのレニン-アンジオテンシン系(RAS)阻害薬が,尿蛋白正常(0.15g/day未満)の糖尿病非合併CKD患者における優位性が示されていないため,「降圧薬の種類は問わない」ことになった.ただし,糖尿病合併例および蛋白尿0.15g/day以上(アルブミン尿30mg/day以上)の患者では引き続きRAS阻害薬が第一選択薬となる.
 今回の改訂はKDIGOのガイドライン内容との一致をめざしたが,関連学会との協議を経て,わが国の保険診療やエビデンスを鑑みた独自のステートメントとして記載した部分も多い.また,造影剤腎症の予防,腎排泄性の薬剤の減量法なども詳しく記載した.より具体的な数値目標が示され,実臨床にも使用しやすいように改定された本ガイドが活用され,適切なCKD対策がより前進することを,『CKD診療ガイド2012』改訂委員長として期待する.
 はじめに(今井圓裕)
CKDの基本と背景
 1.CKDの定義と重症度分類(今井圓裕)
  ・CKDガイドラインの歴史 ・CKDの重症度分類
  ・CKDの診断基準 ・わが国での対応
 2.CKDの疫学―日本人のCKDの特徴(井関邦敏)
  ・CKDの頻度 ・CKD対策
  ・CKDの危険因子 ・専門家による経過観察,治療
 3.心腎連関(袮津昌広・伊藤貞嘉)
  ・心腎連関
  ・アルブミン尿とCVD
  ・腎の機能と腎障害の機序
  ・心腎連関の指標としてのアルブミン尿
  ・臓器障害とStrain vessels
  ・降圧治療
  ・尿蛋白・尿アルブミンに対する治療
 4.生活習慣とメタボリックシンドローム(藤元昭一)
  ・メタボリックシンドロームとCKD
  ・肥満とCKD
  ・肥満関連腎症
  ・メタボリックシンドロームとCKDの共通基盤病因
  ・メタボリックシンドロームに合併するCKDの治療
  ・生活習慣としての運動,喫煙,飲酒とCKD
評価
 5.腎機能の評価法:成人(堀尾 勝)
  ・GFR推算式 ・Ccr,イヌリンクリアランスの実測
  ・推算GFR(eGFR)の利用方法 ・加齢と腎機能
  ・薬剤投与時のeGFR評価
 6.腎機能の評価法:小児(上村 治)
  ・小児の血清クレアチニン基準値 ・小児の血清β2ミクログロブリン基準値
  ・暫定的な小児のeGFR(推算GFR) ・CKDステージの評価
  ・小児の血清シスタチンC基準値 ・今後の展望
 7.尿所見の評価法(今田恒夫)
  ・蛋白尿および蛋白尿・血尿の評価法 ・起立性,熱性蛋白尿
  ・血尿単独の評価法 ・尿試験紙法における偽陽性,偽陰性
  ・アルブミン尿の測定 ・尿沈渣
  ・蓄尿評価
アプローチから紹介・フォローアップ
 8.成人・高齢者CKDへのアプローチ(横山 仁)
  ・成人・高齢者CKD診断で注意すべき点
  ・成人CKDの原因診断
  ・高齢者CKDで注意すべき点
  ・成人・高齢者CKDの画像診断
  ・成人・高齢者CKDにおける心血管疾患(CVD)スクリーニングの重要性
 9.小児CKDへのアプローチ―学校検尿および各種画像診断(松山 健)
  ・学校検尿 ・画像診断の原則
  ・画像診断の種類 ・画像診断の注意点
  ・画像診断により判明する疾患(病態)
 10.CKD患者を専門医に紹介するタイミング―腎臓専門医との連携(山縣邦弘)
  ・速やかに腎臓専門医へ紹介すべき場合 ・CKD診療の連携体制
  ・CKDの経過観察中に腎臓専門医への紹介を考慮する場合
 11.CKDのフォローアップ:成人(新田孝作)
  ・CKDのフォローアップが必要な理由 ・CKDの原疾患によるフォローアップ
 12.CKDのフォローアップ:小児(上村 治)
  ・小児CKDのフォローアップが重要な理由 ・小児CKDフォローアップの実際
生活指導・食事指導
 13.生活指導・食事指導:成人(守山敏樹)
  ・体重kg当りの“体重”についての考え方 ・禁煙
  ・食事指導 ・飲酒
  ・運動,休養,体重管理 ・ワクチン接種
 14.生活指導・食事指導:小児(濱崎祐子)
  ・小児CKDの特徴 ・小児CKDの食事指導
  ・小児CKDの生活指導 ・栄養の評価
管理法各論
 15.血圧管理:成人(田村功一・湧井広道)
  ・CKDにおける降圧目標は診察室血圧mmHg以下に設定
  ・年齢に応じた降圧療法を推奨(とくに高齢CKDでの過剰降圧の回避を推奨)
  ・ 血圧日内変動,季節性血圧変動を考慮した降圧治療を推奨(家庭血圧での降圧目標はmmHg以下)
  ・eGFR維持と尿蛋白減少の長期的な両立をはかる降圧療法を推奨
  ・病態に応じて第一選択薬を含めた降圧薬の選択を行うことを推奨
 16.血圧管理:小児(濱崎祐子)
  ・小児CKDに伴う高血圧の特徴 ・血圧の測定法
  ・循環血液量の評価 ・高血圧判定基準と薬物治療開始基準
  ・血圧の管理基準 ・高血圧症の治療方針
 17.CKDを合併した糖尿病患者に対する管理(古家大祐・北田宗弘)
  ・生活習慣の修正
  ・血糖コントロール―CKDステージ3G以降に対する血糖管理
  ・低血糖を発症させない血糖管理をめざす
  ・CKDステージに応じた糖尿病治療薬の使い分け
  ・糖尿病における血圧コントロール目標
  ・チーム医療による集約的治療
 18.CKDにおける脂質管理(和田骼u)
  ・CKDと脂質異常症 ・CKDの脂質管理に対する治療
  ・CKDとnon-HDL-C ・脂質低下療法に伴うCKD進展抑制効果
  ・CKDの発症・進展危険因子としての重要性 ・CKDにおけるCVD:脂質管理のエビデンス
  ・CKDにおける脂質異常症の管理
 19.CKD患者の貧血管理(秋葉 隆)
  ・CKDにおける腎性貧血 ・貧血治療の目標値
  ・CKDにおける腎性貧血以外の貧血 ・ESA使用の実際
  ・貧血の治療の目的 ・治療における腎臓専門医とかかりつけ医の役割分担
  ・CKDでの貧血治療における鉄欠乏の評価と治療
 20.CKDに伴う骨・ミネラル代謝異常―その病態と治療(森 良孝・深川雅史)
  ・CKDに伴う骨・ミネラル代謝異常(CKD-MBD)
  ・CKD-MBDの診断
  ・治療およびフォローアップ
 21.CKDにおける尿酸管理の重要性(守山敏樹)
  ・尿酸の体内動態 ・高尿酸血症の治療
  ・尿酸の化学的特性 ・CKDにおける尿酸管理方針
  ・高尿酸血症の定義 ・尿路結石合併例での尿酸管理
  ・高尿酸血症と腎障害の疫学 ・高尿酸血症治療薬のあらたな展開
 22.CKDにおける高K血症・代謝性アシドーシスの管理(花田昌也・柴垣有吾)
  ・高K血症の病態 ・CKD患者における代謝性アシドーシスの病態
  ・CKDにおける高K血症の予後への影響 ・CKDにおける代謝性アシドーシスと予後
  ・CKDにおける高K血症への対応 ・CKDにおける代謝性アシドーシスへの対応
 23.尿毒症性物質の管理(田村功一・金岡知彦)
  ・球形吸着炭による治療の意義
検査・薬剤投与のポイント
 24.CKD患者における造影剤腎症の予防(岡田浩一)
  ・造影剤腎症の定義 ・造影剤腎症の予防
  ・造影剤腎症の発症メカニズム ・造影剤腎症の治療
  ・造影剤腎症のリスク
 25.CKD患者への薬剤投与のポイント(安田宜成・松尾清一)
  ・総論 ・各論

 サイドメモ目次
  ガイドラインの改定方針の決定の過程
  KDOQI
  CKD進展速度の指標
  GFR推算式
  小児の推算GFR
  蛋白尿と血尿における尿試験紙の反応性
  成人における血尿の意義
  顕微鏡的血尿の評価法の問題点
  腎臓病学校検診
  成長障害
  セレン欠乏症
  CKDに対する降圧療法中の注意事項
  小児CKDにおける心機能
  インクレチン関連薬
  腎性貧血
  高Ca血症による腎障害
  ビグアナイドと造影剤
  Cockroft-Gault式の注意点