はじめに
菅野純夫
東京大学大学院新領域創成科学研究科メディカルゲノム専攻ゲノム制御医科学分野
2010年は,遅れていた日本でも次世代シークエンサーがようやく身近に感じられるようになった1年ではなかったかと思う.理研のオミックスセンターのように10台以上の次世代シークエンサーをもつ拠点が出現し,多くの大学でも1〜2台の次世代シークエンサーを導入して運転をはじめたところである.新学術領域“ゲノム支援”が成立し,シークエンス支援や情報解析支援もスタートした.サンプルを用意すれば次世代シークエンサーを利用できる環境が整いつつある.
しかし,世界は日本を待ってくれるわけではなく,その歩みをさらに加速している.2010年12月現在,日本に4台しか入っていない最新型の次世代シークエンサーを100台以上並べたセンターが中国に出現している.30〜50台の次世代シークエンサーをもつセンターもアメリカで3〜4カ所,ヨーロッパに1カ所存在している.アメリカの大学ではコアファシリティに10台,自分のラボに1〜2台,次世代シークエンサーをもつ体制がそれほど珍しくなくなっている.
このような状況を受け,2011年は日本以外の国から次世代シークエンサーを利用した成果が論文の形で大量に発表される年になるのではないかと危惧している.本特集はそのような論文に接して次世代シークエンサーの威力を感じた方々が,まず読んで,次世代シークエンサーが医学生物学研究に与えるインパクトの全容を概観できるようにと企画させていただいた.執筆陣は,日本で数少ない次世代シークエンサーを実際に動かして研究を進めている研究者の皆様である.このためか,文字どおり日進月歩のこの分野で,up-to-dateの総説集になったと考えている.深く感謝したい.
組換えDNAやPCR,ノックアウトマウスやmiRNAなど技術革新が大きな影響を研究に与え,そのあり方を変容させてきた.次世代シークエンサーもそれに勝るとも劣らない大きな技術革新であり,その影響は今後も続き,とくに医学研究で大きいと考えられる.
本特集が,その変容に対する理解の一助になれば幸いである.
菅野純夫
東京大学大学院新領域創成科学研究科メディカルゲノム専攻ゲノム制御医科学分野
2010年は,遅れていた日本でも次世代シークエンサーがようやく身近に感じられるようになった1年ではなかったかと思う.理研のオミックスセンターのように10台以上の次世代シークエンサーをもつ拠点が出現し,多くの大学でも1〜2台の次世代シークエンサーを導入して運転をはじめたところである.新学術領域“ゲノム支援”が成立し,シークエンス支援や情報解析支援もスタートした.サンプルを用意すれば次世代シークエンサーを利用できる環境が整いつつある.
しかし,世界は日本を待ってくれるわけではなく,その歩みをさらに加速している.2010年12月現在,日本に4台しか入っていない最新型の次世代シークエンサーを100台以上並べたセンターが中国に出現している.30〜50台の次世代シークエンサーをもつセンターもアメリカで3〜4カ所,ヨーロッパに1カ所存在している.アメリカの大学ではコアファシリティに10台,自分のラボに1〜2台,次世代シークエンサーをもつ体制がそれほど珍しくなくなっている.
このような状況を受け,2011年は日本以外の国から次世代シークエンサーを利用した成果が論文の形で大量に発表される年になるのではないかと危惧している.本特集はそのような論文に接して次世代シークエンサーの威力を感じた方々が,まず読んで,次世代シークエンサーが医学生物学研究に与えるインパクトの全容を概観できるようにと企画させていただいた.執筆陣は,日本で数少ない次世代シークエンサーを実際に動かして研究を進めている研究者の皆様である.このためか,文字どおり日進月歩のこの分野で,up-to-dateの総説集になったと考えている.深く感謝したい.
組換えDNAやPCR,ノックアウトマウスやmiRNAなど技術革新が大きな影響を研究に与え,そのあり方を変容させてきた.次世代シークエンサーもそれに勝るとも劣らない大きな技術革新であり,その影響は今後も続き,とくに医学研究で大きいと考えられる.
本特集が,その変容に対する理解の一助になれば幸いである.
はじめに(菅野純夫)
変わる疾患研究
1.個人ゲノム解析に基づく疾患研究の爆発的発展(辻 省次)
・個人ゲノム解析とは
・網羅的なゲノム配列解析に基づいた疾患研究のパラダイム−common disease-common variants仮説からcommon disease-multiple rare variants仮説へのパラダイムシフト
・ゲノムインフォマティクスの重要性
・次世代シークエンサーを用いた疾患関連遺伝子の探索
・個人ゲノム解析の成果を診療に導入する
・将来への展望
2.【改訂】全エクソンシーケンスによる希少疾患の原因遺伝子同定(細道一善・井ノ上逸朗)
・全エクソンシーケンスの意義
・永久歯萌出不全罹患者の全エクソンシーケンス
・Co-segregation studyによる原因候補変異の同定
・別冊化に際して
3.変貌する感染症研究−感染症対策に欠かせない網羅配列解読法(黒田 誠)
・細菌ゲノム解読(病原性・薬剤耐性因子の同定)
・新興・再興感染症,未知病原体の発見
・ウイルスの多種性(quasispecies)解析
・バイオテロ対策
・感染症が疑われる難治性疾患の病因解明
癌ゲノム研究の爆発
4.加速するがんゲノム解読研究と国際共同がんゲノムプロジェクト(柴田龍弘)
・がんはゲノムの病気であり,その克服にはがんゲノムの理解が重要である
・新しいゲノム解析技術によって大きく変わるがんゲノム研究
・がんゲノム解読研究の爆発
・ネットワーク型のがんゲノム研究
・国際がんゲノムコンソーシアム(ICGC)とは
・国際がんゲノム共同研究のめざすところ
5.癌とエピゲノム解析(油谷浩幸)
・DNAメチル化解析法
・DNAメチル化状態の変動
・DNAメチル化異常と癌
・非コードRNAとエピゲノム制御
・ヒストン修飾異常と癌
6.癌のデジタルトランスクリプトーム解析−並列型シークエンサーを用いた多面的なトランスクリプトーム研究(石川俊平)
・発現定量
・スプライスバリアントの定量
・cDNA配列からの変異解析
・RNA-editing
・キメラ遺伝子の同定
・リピート領域へのマッピング
・Strand-specific transcriptの解析
・病原微生物探索
7.癌ゲノム解析と個別化医療(間野博行)
・癌ゲノム解析が医療にもたらすもの
・直接的な発癌原因の探索
・癌細胞の表現形に関連した遺伝子変異
・遺伝的リスク
動き出すゲノムコホート研究
8.個人ゲノム時代のゲノムコホート(川口喬久・松田文彦)
・前向き研究と後向き研究
・オミックス研究時代のコホートスタディの特徴
・多型の定義とハンドリング
・形質の収集とハンドリング
・解析モデル
・ながはま0次予防コホート事業
9.1000ゲノムプロジェクトの目標と展開(水口洋平・豊田 敦)
・1000ゲノムプロジェクトの戦略
・予備研究における成果
・プロジェクトの展開
10.ファーマコゲノミクスの将来と現状(莚田泰誠・鎌谷直之)
・ファーマコゲノミクスの現状
・ファーマコゲノミクスの有用性を示す例
・ファーマコゲノミクスの将来
最新技術とその応用
11.次世代シークエンサーを用いたRNA,クロマチン解析(鈴木 穣)
・RNA Seq:mRNA断片化配列のデジタル計測による発現パターン解析
・RNA Seqを基盤とした転写産物解析
・DNA-蛋白質相互作用,クロマチン状態の解析
・シークエンスデータの可視化と要素情報の統合
12.進化したメチローム解析技術(三浦史仁・伊藤隆司)
・次世代シークエンサーを用いるメチローム解析
・タグカウントに基づくメチル化状態の検出
・ゲノム網羅的ゲノムバイサルファイトシークエンシング(WGBS)
・標的領域を絞り込んだゲノム規模のバイサルファイトシークエンシング
・微量サンプルからのゲノム網羅的バイサルファイトシークエンシング
13.【改訂】第三世代シークエンサー−市場で広まるか? (森下真一)
・第二世代シークエンサーの問題点
・第三世代シークエンサーの差別化
変化を支える情報処理
14.複数種類のシークエンサーを用いた配列解析戦略−メリットと限界を見据えた次世代型シークエンサーの活用方法,使い分け方法,組合せ方法(新井 理)
・各シークエンサーの特性
・SNP探索への適用
・微生物ゲノム配列決定とfinishing
・真核生物ゲノムの配列決定への応用
15.ゲノム情報を含む医学情報処理の将来(中岡博史・井ノ上逸朗)
・データ集約型サイエンス/ヘルスケア
・疾患表現型の詳細な記述による分離と統合
・生体システムの異常としての疾患
・遺伝子発現ネットワークを用いたGWASの精緻化
個人ゲノムでもたらされる倫理の変化
16.個人遺伝情報は特殊か?−ヒトゲノム全解析時代における遺伝情報の意味するもの(位田隆一)
・個人遺伝情報は特殊であるとの考え方
・遺伝子例外主義に対する批判
・2つの立場の反映
・遺伝情報は特殊か?
・遺伝情報の取扱い−遺伝情報の特殊性を超えて
・むすびに−わが国の対応に向けて
17.バイオバンクの変化がもたらすもの(増井 徹)
・バイオバンクの時代
・バイオバンクの分類
・医療と研究の変化
・今後の展開としての企業化
・難病研究資源バンク
サイドメモ目次
エクソンキャプチャー法
川崎病
CpGアイランド
非コードRNA
ファーマコゲノミクスとvalidゲノムバイオマーカー
パーソナルゲノム解読
ゲノムアセンブル
変わる疾患研究
1.個人ゲノム解析に基づく疾患研究の爆発的発展(辻 省次)
・個人ゲノム解析とは
・網羅的なゲノム配列解析に基づいた疾患研究のパラダイム−common disease-common variants仮説からcommon disease-multiple rare variants仮説へのパラダイムシフト
・ゲノムインフォマティクスの重要性
・次世代シークエンサーを用いた疾患関連遺伝子の探索
・個人ゲノム解析の成果を診療に導入する
・将来への展望
2.【改訂】全エクソンシーケンスによる希少疾患の原因遺伝子同定(細道一善・井ノ上逸朗)
・全エクソンシーケンスの意義
・永久歯萌出不全罹患者の全エクソンシーケンス
・Co-segregation studyによる原因候補変異の同定
・別冊化に際して
3.変貌する感染症研究−感染症対策に欠かせない網羅配列解読法(黒田 誠)
・細菌ゲノム解読(病原性・薬剤耐性因子の同定)
・新興・再興感染症,未知病原体の発見
・ウイルスの多種性(quasispecies)解析
・バイオテロ対策
・感染症が疑われる難治性疾患の病因解明
癌ゲノム研究の爆発
4.加速するがんゲノム解読研究と国際共同がんゲノムプロジェクト(柴田龍弘)
・がんはゲノムの病気であり,その克服にはがんゲノムの理解が重要である
・新しいゲノム解析技術によって大きく変わるがんゲノム研究
・がんゲノム解読研究の爆発
・ネットワーク型のがんゲノム研究
・国際がんゲノムコンソーシアム(ICGC)とは
・国際がんゲノム共同研究のめざすところ
5.癌とエピゲノム解析(油谷浩幸)
・DNAメチル化解析法
・DNAメチル化状態の変動
・DNAメチル化異常と癌
・非コードRNAとエピゲノム制御
・ヒストン修飾異常と癌
6.癌のデジタルトランスクリプトーム解析−並列型シークエンサーを用いた多面的なトランスクリプトーム研究(石川俊平)
・発現定量
・スプライスバリアントの定量
・cDNA配列からの変異解析
・RNA-editing
・キメラ遺伝子の同定
・リピート領域へのマッピング
・Strand-specific transcriptの解析
・病原微生物探索
7.癌ゲノム解析と個別化医療(間野博行)
・癌ゲノム解析が医療にもたらすもの
・直接的な発癌原因の探索
・癌細胞の表現形に関連した遺伝子変異
・遺伝的リスク
動き出すゲノムコホート研究
8.個人ゲノム時代のゲノムコホート(川口喬久・松田文彦)
・前向き研究と後向き研究
・オミックス研究時代のコホートスタディの特徴
・多型の定義とハンドリング
・形質の収集とハンドリング
・解析モデル
・ながはま0次予防コホート事業
9.1000ゲノムプロジェクトの目標と展開(水口洋平・豊田 敦)
・1000ゲノムプロジェクトの戦略
・予備研究における成果
・プロジェクトの展開
10.ファーマコゲノミクスの将来と現状(莚田泰誠・鎌谷直之)
・ファーマコゲノミクスの現状
・ファーマコゲノミクスの有用性を示す例
・ファーマコゲノミクスの将来
最新技術とその応用
11.次世代シークエンサーを用いたRNA,クロマチン解析(鈴木 穣)
・RNA Seq:mRNA断片化配列のデジタル計測による発現パターン解析
・RNA Seqを基盤とした転写産物解析
・DNA-蛋白質相互作用,クロマチン状態の解析
・シークエンスデータの可視化と要素情報の統合
12.進化したメチローム解析技術(三浦史仁・伊藤隆司)
・次世代シークエンサーを用いるメチローム解析
・タグカウントに基づくメチル化状態の検出
・ゲノム網羅的ゲノムバイサルファイトシークエンシング(WGBS)
・標的領域を絞り込んだゲノム規模のバイサルファイトシークエンシング
・微量サンプルからのゲノム網羅的バイサルファイトシークエンシング
13.【改訂】第三世代シークエンサー−市場で広まるか? (森下真一)
・第二世代シークエンサーの問題点
・第三世代シークエンサーの差別化
変化を支える情報処理
14.複数種類のシークエンサーを用いた配列解析戦略−メリットと限界を見据えた次世代型シークエンサーの活用方法,使い分け方法,組合せ方法(新井 理)
・各シークエンサーの特性
・SNP探索への適用
・微生物ゲノム配列決定とfinishing
・真核生物ゲノムの配列決定への応用
15.ゲノム情報を含む医学情報処理の将来(中岡博史・井ノ上逸朗)
・データ集約型サイエンス/ヘルスケア
・疾患表現型の詳細な記述による分離と統合
・生体システムの異常としての疾患
・遺伝子発現ネットワークを用いたGWASの精緻化
個人ゲノムでもたらされる倫理の変化
16.個人遺伝情報は特殊か?−ヒトゲノム全解析時代における遺伝情報の意味するもの(位田隆一)
・個人遺伝情報は特殊であるとの考え方
・遺伝子例外主義に対する批判
・2つの立場の反映
・遺伝情報は特殊か?
・遺伝情報の取扱い−遺伝情報の特殊性を超えて
・むすびに−わが国の対応に向けて
17.バイオバンクの変化がもたらすもの(増井 徹)
・バイオバンクの時代
・バイオバンクの分類
・医療と研究の変化
・今後の展開としての企業化
・難病研究資源バンク
サイドメモ目次
エクソンキャプチャー法
川崎病
CpGアイランド
非コードRNA
ファーマコゲノミクスとvalidゲノムバイオマーカー
パーソナルゲノム解読
ゲノムアセンブル