はじめに
Introduction
宮園浩平
Kohei MIYAZONO
東京大学大学院医学系研究科病因・病理学専攻分子病理学
TGF-β1 の cDNAがクローニングされたのは1985年のことである.以来,今日に至るまで,TGF-βは多くの注目を集めてきた.なぜ,TGF-βはこれほど注目されてきたのであろうか.その理由は以下のように考えられる.
(1) TGF-βの作用がきわめて多彩であること.TGF-βはその強力な増殖抑制作用から腫瘍抑制因子として注目されてきた.しかし,本別冊でもたびたび取り上げられているように,TGF-βはある局面では腫瘍の進展を促進し,また免疫能を制御し,血管の恒常性の維持にかかわっている.こうした多彩な作用の結果,TGF-βは,癌はもちろんのこと,多くの疾患の病因と密接に関係していることが大きな特徴である.
(2) TGF-βには,TGF-β1,2,3 をはじめ,構造の類似した因子が数多く存在し,TGF-βファミリーを構成していること.TGF-βファミリーにはアクチビンや BMPなどが含まれ,これらがそれぞれ興味深い作用をもっている.本別冊ではアクチビンや BMPについて述べることはスペースの関係で不可能であることから,TGF-βを中心に最近の知見を中心に紹介することとしたことをご了承いただきたい.
(3) TGF-βはきわめてユニークな経路を使ってシグナルを伝えること.TGF-βシグナル経路の中心となるのは Smadを介した経路である.Smadシグナルを正や負に調節するさまざまな分子や,Smadとともに転写を調節する多彩な因子が TGF-βシグナルの多様性や強度を規定している点が興味深い.また,最近では non-Smad経路の重要性が注目されており,本別冊でもこうした点についてさまざまな角度から述べた.
本別冊では,こうした TGF-βに関するあらたな知見について,基礎的なシグナル伝達研究から疾患との関連,さらには診断・治療への応用に至るまで取り上げた.TGF-βのもつ興味深い作用について読者の方々に理解いただき,楽しんでいただければ幸いである.
Introduction
宮園浩平
Kohei MIYAZONO
東京大学大学院医学系研究科病因・病理学専攻分子病理学
TGF-β1 の cDNAがクローニングされたのは1985年のことである.以来,今日に至るまで,TGF-βは多くの注目を集めてきた.なぜ,TGF-βはこれほど注目されてきたのであろうか.その理由は以下のように考えられる.
(1) TGF-βの作用がきわめて多彩であること.TGF-βはその強力な増殖抑制作用から腫瘍抑制因子として注目されてきた.しかし,本別冊でもたびたび取り上げられているように,TGF-βはある局面では腫瘍の進展を促進し,また免疫能を制御し,血管の恒常性の維持にかかわっている.こうした多彩な作用の結果,TGF-βは,癌はもちろんのこと,多くの疾患の病因と密接に関係していることが大きな特徴である.
(2) TGF-βには,TGF-β1,2,3 をはじめ,構造の類似した因子が数多く存在し,TGF-βファミリーを構成していること.TGF-βファミリーにはアクチビンや BMPなどが含まれ,これらがそれぞれ興味深い作用をもっている.本別冊ではアクチビンや BMPについて述べることはスペースの関係で不可能であることから,TGF-βを中心に最近の知見を中心に紹介することとしたことをご了承いただきたい.
(3) TGF-βはきわめてユニークな経路を使ってシグナルを伝えること.TGF-βシグナル経路の中心となるのは Smadを介した経路である.Smadシグナルを正や負に調節するさまざまな分子や,Smadとともに転写を調節する多彩な因子が TGF-βシグナルの多様性や強度を規定している点が興味深い.また,最近では non-Smad経路の重要性が注目されており,本別冊でもこうした点についてさまざまな角度から述べた.
本別冊では,こうした TGF-βに関するあらたな知見について,基礎的なシグナル伝達研究から疾患との関連,さらには診断・治療への応用に至るまで取り上げた.TGF-βのもつ興味深い作用について読者の方々に理解いただき,楽しんでいただければ幸いである.
はじめに(宮園浩平)
総論
1.TGF-βシグナル伝達研究の新展開(宮澤恵二)
Smadシグナル伝達研究の深化
Non-canonicalな Smad経路と non-Smad経路
ふたたび注目される潜在型からの活性化機構
TGF-βのシグナル伝達機構
2.TGF-βファミリーシグナル抑制機構(伊東 進)
抑制型 Smad(I-Smad)による TGF-βシグナル伝達抑制機構
転写抑制因子による TGF-βシグナル抑制機構
ユビキチン・プロテオソーム系による TGF-βファミリーシグナル抑制機構
脱リン酸化酵素による TGF-β/Smadシグナル抑制機構
microRNA(miRNA)による TGF-βシグナル制御
TMEPAによる新規 TGF-βシグナルネガティブフィードバック機構
3.TGF-βによる転写制御―ChIP-sequencingがもたらす転写制御研究の新たな局面(鯉沼代造)
Smadファミリーによる転写制御
Non-Smad経路
ChIP-chipや ChIP-sequencingによる Smad結合部位の網羅的同定
4.TGF-βによる細胞内レドックス制御とミトコンドリア(柴沼質子)
TGF-β刺激下でのミトコンドリア依存 ROS産生と細胞内レドックス変化
ミトコンドリア枯渇状態での TGF-βシグナルと遺伝子発現誘導
Mito/ROSシグナルの実体と意義の解明をめざして
5.癌における上皮間葉転換(EMT)―癌におけるTGF-β誘導性EMTの作用機構(齋藤正夫)
上皮間葉転換(EMT)
TGF-βによる EMT誘導の分子機構
癌微小環境における EMT
6.TGF-βによるヘルパーT細胞の分化制御(武藤 剛・他)
ヘルパー T細胞
免疫系における TGF-βの活性化
TGF-βによる Tregの維持および誘導
TGF-βによる Th/Th2 分化の抑制
TGF-βによる Th17 分化誘導
TGF-βによる iTregと Th17 のバランス制御機構
Foxp3 非依存的なTGF-βによる免疫抑制
7.TGF-βファミリーによる血管新生制御機構(伊東史子・加藤光保)
血管内皮細胞の機能調節
血管平滑筋細胞の機能調節
遺伝子改変マウスの解析
TGF-βファミリーシグナルの異常に起因する心血管系疾患
8.In vivo光イメージング―光技術を駆使したシグナル伝達研究(今村健志・羽生亜紀)
さまざまな in vivoイメージング技術の台頭
In vivo光イメージング
蛋白質間相互作用のイメージング
転写活性のイメージング
細胞周期のイメージング
TGF-βシグナルとがん
9.胃癌におけるTGF-βシグナルの役割(江幡正悟)
癌抑制因子としての働き
胃癌における受容体 Smadの発現低下・機能喪失
胃癌における TGF-βシグナル制御因子の発現上昇・機能亢進
胃癌における癌抑制遺伝子 Runx3 の発現低下
最近の話題から
10.ウイルス性慢性肝疾患におけるリン酸化Smadを介する可逆的な癌化・線維化シグナル―リン酸化Smadシグナルからみたウイルス性慢性肝疾患の病態把握と治療への応用(松崎恒一)
Reversible fibro-carcinogenic phospho-Smad signaling in chronic hepatitis viral disorders
TGF-βシグナリングからみたウイルス性慢性肝疾患の進展
C末端がリン酸化した Smad3(pSmad3C)を介する癌抑制シグナルと,リンカー部が^nリン酸化した Smad3(pSmad3L)を介する癌化・線維化シグナルの相反関係
C型慢性肝炎における pSmad3Cと pSmad3Lの相反する組織分布
ウイルス性慢性肝疾患の Smad3 リン酸化別の 12 年累積発癌率は,^npSmad3L増加/pSmad3C低下に比例して発癌率の上昇を認める
ウイルスと慢性炎症は“協調して”pSmad3Cを介する癌抑制シグナルから,^npSmad3Lを介する癌化・線維化シグナルへの転換を促す
ウイルス性慢性肝炎症例の pSmad3Lを介する癌化・線維化シグナルは,^n抗ウイルス療法によって pSmad3Cを介する癌抑制シグナルに回帰しうる
11.膵癌とTGF-βシグナル(伊地知秀明)
腫瘍抑制シグナルとしての TGF-βシグナル
遺伝子改変マウスによる膵特異的 TGF-βシグナル不活化モデル
TGF-βの腫瘍促進作用
治療の分子標的としての TGF-βシグナル
12.乳癌におけるTGF-βの癌抑制因子から癌促進因子への転換機構(佐藤三佐子・大島 章)
癌抑制因子としての TGF-β
癌促進因子としての TGF-β
乳癌前臨床試験
13.白血病におけるTGF-βシグナル(仲 一仁・平尾 敦)
TGF-β-Smadシグナルによるがん抑制メカニズム
白血病幹細胞の抗がん剤抵抗性を担う TGF-βシグナル
14.脳腫瘍の発生・進展におけるTGF-βシグナル(生島弘彬・宮園浩平)
脳腫瘍組織における TGF-βの発現
TGF-βシグナルの脳腫瘍細胞増殖に対する作用
TGF-βシグナルの脳腫瘍幹細胞に対する作用
TGF-βシグナル阻害剤の臨床応用
疾病とTGF-βシグナル伝達異常
15.TGF-βと線維症―TGF-βを標的とした線維症の予防・治療法,診断法開発の試み(原 詳子・小嶋聡一)
線維症と TGF-β
TGF-βの発現
TGF-βの活性化
TGF-βの受容体・結合蛋白質
TGF-βのシグナル伝達
TGF-βによる転写調節
16.アレルギー疾患と母乳中TGF-β―TGF-βの経口摂取によって食物アレルギーの予防は可能か(中尾篤人)
経口 TGF-βは腸管内 TGF-βシグナルを活性化する
経口 TGF-βは経口免疫寛容を増強する
経口 TGF-βによる食物アレルギー反応の抑制
母乳中 TGF-βの胃酸による活性化
市販の乳製品における TGF-β活性
17.TGFシグナル異常による骨・軟骨疾患―単一遺伝子病からありふれた疾患まで(木下 晃)
TGFシグナルと骨リモデリングの一般論
TGFシグナル系遺伝子の変異で発症する単一遺伝子病としての骨系統疾患
TGFシグナル系と骨・軟骨に関するありふれた疾患の感受性
18.バイオマーカーとしてのTGF-β(澤城大悟・鈴木 亨)
健常人血漿中の TGF-β値
血漿中 TGF-βの由来
血漿中 TGF-βのクリアランス
なにによって血漿中 TGF-βが影響を受けるのか
各病態における TGF-βのバイオマーカーとしての役割
新たな治療へ向けて
19.TGF-β阻害剤の臨床応用―難治性疾患への新たな治療法(白井陽太郎・宮園浩平)
TGF-β阻害剤の分類
TGF-β阻害剤の線維症への治療の応用
TGF-β阻害剤の癌の治療への応用
あらたな治療法へ向けて
■サイドメモ目次
Smad cofactor
ChIP-sequencingの現状
血管新生(angiogenesis)
サリドマイド
細胞周期の進行をリアルタイムにイメージングする Fucci
転写因子 Runxファミリー
リン酸化 Smad2 ならびに Smad3 の組織・細胞内局在
インテグリン
KLF6
遺伝子座異質性(locus heterogeneity)
総論
1.TGF-βシグナル伝達研究の新展開(宮澤恵二)
Smadシグナル伝達研究の深化
Non-canonicalな Smad経路と non-Smad経路
ふたたび注目される潜在型からの活性化機構
TGF-βのシグナル伝達機構
2.TGF-βファミリーシグナル抑制機構(伊東 進)
抑制型 Smad(I-Smad)による TGF-βシグナル伝達抑制機構
転写抑制因子による TGF-βシグナル抑制機構
ユビキチン・プロテオソーム系による TGF-βファミリーシグナル抑制機構
脱リン酸化酵素による TGF-β/Smadシグナル抑制機構
microRNA(miRNA)による TGF-βシグナル制御
TMEPAによる新規 TGF-βシグナルネガティブフィードバック機構
3.TGF-βによる転写制御―ChIP-sequencingがもたらす転写制御研究の新たな局面(鯉沼代造)
Smadファミリーによる転写制御
Non-Smad経路
ChIP-chipや ChIP-sequencingによる Smad結合部位の網羅的同定
4.TGF-βによる細胞内レドックス制御とミトコンドリア(柴沼質子)
TGF-β刺激下でのミトコンドリア依存 ROS産生と細胞内レドックス変化
ミトコンドリア枯渇状態での TGF-βシグナルと遺伝子発現誘導
Mito/ROSシグナルの実体と意義の解明をめざして
5.癌における上皮間葉転換(EMT)―癌におけるTGF-β誘導性EMTの作用機構(齋藤正夫)
上皮間葉転換(EMT)
TGF-βによる EMT誘導の分子機構
癌微小環境における EMT
6.TGF-βによるヘルパーT細胞の分化制御(武藤 剛・他)
ヘルパー T細胞
免疫系における TGF-βの活性化
TGF-βによる Tregの維持および誘導
TGF-βによる Th/Th2 分化の抑制
TGF-βによる Th17 分化誘導
TGF-βによる iTregと Th17 のバランス制御機構
Foxp3 非依存的なTGF-βによる免疫抑制
7.TGF-βファミリーによる血管新生制御機構(伊東史子・加藤光保)
血管内皮細胞の機能調節
血管平滑筋細胞の機能調節
遺伝子改変マウスの解析
TGF-βファミリーシグナルの異常に起因する心血管系疾患
8.In vivo光イメージング―光技術を駆使したシグナル伝達研究(今村健志・羽生亜紀)
さまざまな in vivoイメージング技術の台頭
In vivo光イメージング
蛋白質間相互作用のイメージング
転写活性のイメージング
細胞周期のイメージング
TGF-βシグナルとがん
9.胃癌におけるTGF-βシグナルの役割(江幡正悟)
癌抑制因子としての働き
胃癌における受容体 Smadの発現低下・機能喪失
胃癌における TGF-βシグナル制御因子の発現上昇・機能亢進
胃癌における癌抑制遺伝子 Runx3 の発現低下
最近の話題から
10.ウイルス性慢性肝疾患におけるリン酸化Smadを介する可逆的な癌化・線維化シグナル―リン酸化Smadシグナルからみたウイルス性慢性肝疾患の病態把握と治療への応用(松崎恒一)
Reversible fibro-carcinogenic phospho-Smad signaling in chronic hepatitis viral disorders
TGF-βシグナリングからみたウイルス性慢性肝疾患の進展
C末端がリン酸化した Smad3(pSmad3C)を介する癌抑制シグナルと,リンカー部が^nリン酸化した Smad3(pSmad3L)を介する癌化・線維化シグナルの相反関係
C型慢性肝炎における pSmad3Cと pSmad3Lの相反する組織分布
ウイルス性慢性肝疾患の Smad3 リン酸化別の 12 年累積発癌率は,^npSmad3L増加/pSmad3C低下に比例して発癌率の上昇を認める
ウイルスと慢性炎症は“協調して”pSmad3Cを介する癌抑制シグナルから,^npSmad3Lを介する癌化・線維化シグナルへの転換を促す
ウイルス性慢性肝炎症例の pSmad3Lを介する癌化・線維化シグナルは,^n抗ウイルス療法によって pSmad3Cを介する癌抑制シグナルに回帰しうる
11.膵癌とTGF-βシグナル(伊地知秀明)
腫瘍抑制シグナルとしての TGF-βシグナル
遺伝子改変マウスによる膵特異的 TGF-βシグナル不活化モデル
TGF-βの腫瘍促進作用
治療の分子標的としての TGF-βシグナル
12.乳癌におけるTGF-βの癌抑制因子から癌促進因子への転換機構(佐藤三佐子・大島 章)
癌抑制因子としての TGF-β
癌促進因子としての TGF-β
乳癌前臨床試験
13.白血病におけるTGF-βシグナル(仲 一仁・平尾 敦)
TGF-β-Smadシグナルによるがん抑制メカニズム
白血病幹細胞の抗がん剤抵抗性を担う TGF-βシグナル
14.脳腫瘍の発生・進展におけるTGF-βシグナル(生島弘彬・宮園浩平)
脳腫瘍組織における TGF-βの発現
TGF-βシグナルの脳腫瘍細胞増殖に対する作用
TGF-βシグナルの脳腫瘍幹細胞に対する作用
TGF-βシグナル阻害剤の臨床応用
疾病とTGF-βシグナル伝達異常
15.TGF-βと線維症―TGF-βを標的とした線維症の予防・治療法,診断法開発の試み(原 詳子・小嶋聡一)
線維症と TGF-β
TGF-βの発現
TGF-βの活性化
TGF-βの受容体・結合蛋白質
TGF-βのシグナル伝達
TGF-βによる転写調節
16.アレルギー疾患と母乳中TGF-β―TGF-βの経口摂取によって食物アレルギーの予防は可能か(中尾篤人)
経口 TGF-βは腸管内 TGF-βシグナルを活性化する
経口 TGF-βは経口免疫寛容を増強する
経口 TGF-βによる食物アレルギー反応の抑制
母乳中 TGF-βの胃酸による活性化
市販の乳製品における TGF-β活性
17.TGFシグナル異常による骨・軟骨疾患―単一遺伝子病からありふれた疾患まで(木下 晃)
TGFシグナルと骨リモデリングの一般論
TGFシグナル系遺伝子の変異で発症する単一遺伝子病としての骨系統疾患
TGFシグナル系と骨・軟骨に関するありふれた疾患の感受性
18.バイオマーカーとしてのTGF-β(澤城大悟・鈴木 亨)
健常人血漿中の TGF-β値
血漿中 TGF-βの由来
血漿中 TGF-βのクリアランス
なにによって血漿中 TGF-βが影響を受けるのか
各病態における TGF-βのバイオマーカーとしての役割
新たな治療へ向けて
19.TGF-β阻害剤の臨床応用―難治性疾患への新たな治療法(白井陽太郎・宮園浩平)
TGF-β阻害剤の分類
TGF-β阻害剤の線維症への治療の応用
TGF-β阻害剤の癌の治療への応用
あらたな治療法へ向けて
■サイドメモ目次
Smad cofactor
ChIP-sequencingの現状
血管新生(angiogenesis)
サリドマイド
細胞周期の進行をリアルタイムにイメージングする Fucci
転写因子 Runxファミリー
リン酸化 Smad2 ならびに Smad3 の組織・細胞内局在
インテグリン
KLF6
遺伝子座異質性(locus heterogeneity)