やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 玉置 淳
 東京女子医科大学第一内科
 気管支喘息の基本病態はアレルギー性気道炎症である.すなわち,喘息患者の気道粘膜には,好酸球やTリンパ球,マスト細胞などを主体とする炎症細胞の浸潤が認められ,これらの細胞由来のサイトカイン,ケモカイン,成長因子,ケミカルメディエーターが喘息病態の発現や進展に深くかかわっている.
 近年,気道炎症を標的とした抗炎症療法の普及に伴い,喘息コントロールは飛躍的に改善し喘息死も急激に減少しつつある.しかし,喘息には多彩なフェノタイプがある.たとえば,重症難治性喘息や発作の急性増悪時では好酸球よりもむしろ好中球が優位な気道炎症であり,酸化ストレス,TNF-α,エラスターゼなどが特異な病態形成に関与する可能性が推測されている.また,このような気道炎症はTLRを発現する自然免疫系の細胞が関与して誘導されることがわかっており,最近では気道上皮細胞TLR4がハウスダスト含有LPSによって活性化されることが喘息発症の要因であることも報告されている.さらに,気道リモデリングの分子メカニズムも解明されつつあり,なかでも粘液分泌細胞の過形成とその維持におけるEGFRの役割,気道過敏性とウイルス・細菌感染との関連などが注目されている.
 喘息の臨床面においては,非侵襲的なバイオマーカーとしての呼気中NOの測定や呼気凝縮液の解析が進み,病態の評価や治療効果の判定に有用とされている.新規治療薬としては,IgE抗体やIL-5抗体,あるいはTNF-αに対する抗体や可溶性受容体といった生物学的製剤がつぎつぎに開発され,おもに重症喘息に対する有効性が報告されている.さらに,気道アレルギーに対する本質的な治療としての免疫療法や,気管支鏡インターベンションによる気道平滑筋肥大の修復といったユニークな試みも期待されている.
 本別冊が喘息に関する最新知見の理解の手助けとなり,今後の診療や研究を進めていくうえで参考となれば幸いである.
 はじめに(玉置 淳)
喘息の疫学
 1.喘息の疫学(土橋邦生)
  ・喘息の疫学
  ・喘息死の疫学
最新の喘息ガイドラインのポイント
 2.成人喘息のガイドライン(大田 健)
  ・作成の経緯
  ・作成の目的
  ・JGL2009のおもな特徴
 3.小児喘息のガイドライン(藤澤隆夫)
  ・病態生理
  ・診断
  ・重症度の判定とコントロール
  ・治療目標
  ・急性期の治療―重症発作の治療に関して
  ・長期管理の薬物療法
  ・その他の長期管理で留意すべきこと
喘息の発症・進展に関する最近の知見
 4.喘息関連遺伝子―検索の進展状況と最新の知見(棟方 充)
  ・疾患関連遺伝子検索手法の進歩とその成果
  ・喘息感受性遺伝子検索の問題点
  ・今後の展望
 5.気管支喘息のearly interventionとprimary preventionに関する最近の話題(松本健治)
  ・気管支喘息に対するearly intervention(早期介入)
  ・気管支喘息に対するprimary prevention(発症予防)
喘息の病態メカニズムに関するトピックス
 6.気道上皮細胞(橋本 修・他)
  ・気道上皮細胞のバリアー機能
  ・気道上皮細胞のtoll-like receptor
  ・ウイルス感染と気道上皮細胞
  ・気道上皮細胞傷害と修復
  ・気道上皮由来のサイトカイン
 7.気管支喘息における好酸球性気道炎症と好中球性気道炎症(佐野博幸・東田有智)
  ・好酸球性気道炎症
  ・好中球性気道炎症
 8.喘息気道リモデリングの最近の話題―機序と治療(田中裕士)
  ・気道平滑筋の肥大・増生
  ・気道上皮細胞
  ・基底膜網状層,粘膜下組織へのECM沈着
  ・血管新生
  ・気道リモデリングの評価法
  ・気道リモデリングの治療
 9.気道粘液過分泌―その機序と,期待される治療ストラテジー(武山 廉)
  ・喘息における過分泌病態とは
  ・喘息における粘液栓形成機序
  ・喘息におけるムチン発現調節
  ・気道ムチン遺伝子発現調節の新展開―IL-13経路とEGFR経路の関連性
  ・杯細胞の脱顆粒システム
  ・杯細胞過形成の病的維持機構
 10.アレルギー性炎症における好塩基球のあらたな役割―好塩基球は免疫アレルギー反応を調節する細胞である(谷本 安・能島大輔)
  ・好塩基球のアレルギー性慢性炎症への関与
  ・好塩基球は IgEを介した免疫反応においてIL-16とM-CSFを産生する
 11.制御性樹状細胞による制御性T細胞を介したアレルギー性喘息の制御(佐藤克明)
  ・制御性T細胞
  ・樹状細胞
  ・制御性樹状細胞によるアレルギー性喘息の制御
 12.サイトカインシグナル抑制因子と喘息(井上博雅)
  ・JAK-STAT系
  ・SOCS
 13.IL-/Th17細胞(松下 祥)
  ・Th17細胞の分化
  ・Th17細胞のマーカー
  ・Th17細胞と樹状細胞
  ・Th17細胞と好中球性気管支喘息
 14.酸化ストレス―気管支喘息の病態における役割(鈴木慎太郎・他)
  ・酸化ストレスの定義・概念
  ・レドックスとは?
  ・酸化ストレスと呼吸器疾患
  ・喘息と酸化ストレス
  ・喘息における酸化ストレスマーカーの測定と評価
  ・治療への介入―抗酸化の観点から
 15.ウイルス・マイコプラズマと喘息(勝沼俊雄・飯倉克人)
  ・ライノウイルス
  ・RSウイルス
  ・SOIV(swine-origin influenza virus),いわゆる新型インフルエンザ
  ・マイコプラズマ
最新の治療:現状と将来への期待
 16.乳幼児の気管支喘息におけるearly intervention(吉原重美)
  ・乳幼児の気道リモデリング
  ・乳幼児喘息の早期診断
  ・小児気管支喘息における早期介入
  ・一次予防
  ・二次予防
  ・三次予防
 17.ICS/LABA合剤―その効果と将来展望(相澤久道)
  ・気管支喘息の発症機序と治療薬
  ・ICS/LABA合剤の作用機序
  ・気管支喘息に対する効果
 18.生物学的製剤―抗体製剤と受容体製剤(玉置 淳)
  ・抗IL-5抗体
  ・抗IgE抗体
  ・抗TNF-α療法
 19.アレルゲン免疫療法(杣 知行・永田 真)
  ・作用機序の新知見
  ・アレルゲンワクチンの新規開発
  ・投与ルートの進歩
  ・アレルギー自然史への介入
 20.気管支喘息に対する気管支熱形成術(宮澤輝臣・他)
  ・気管支喘息の気道リモデリング
  ・気管支熱形成術
  ・気管支熱形成術の臨床研究
  ・気管支喘息の heterogeneity

 ・サイドメモ目次
  ヒト型抗IgE抗体(omalizumab)
  コントロール困難例
  全ゲノム相関解析(GWAS)
  衛生仮説は吸入抗原にしか当てはまらない
  バリアー機能
  Bronchial thermoplasty
  FOXA2
  Foxp3
  フリーラジカル
  喘息における気道リモデリング
  呼気凝縮液(EBC)
  生体計測電子スピン共鳴(ESR)法
  クラミジア感染
  SMART