やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 平潟洋一
 東北大学大学院医学系研究科臨床微生物解析治療学講座
 国内では日本感染症学会による感染症専門医制度の開始,さらにインフェクションコントロールドクター(ICD)制度協議会によるICDの認定が開始され,全国の多くの病院に感染症専門医やICDが勤務するようになった.その人数は十分とはいえず,さらにその質の保証を含めて感染症に関する卒後教育が学会などでも重要なディスカッションのテーマとなっているが,これらの認定制度の開始が国内の感染症診療や感染制御における大きな転機となったのは間違いないと考えられる.また,感染管理看護師に加え,日本病院薬剤師会による感染制御認定薬剤師(ICPH),日本臨床微生物学会による感染制御認定臨床微生物検査技師(ICMT)の認定制度もはじまり,多職種で感染症に取り組むシステムづくりが進んでいることはチーム医療を考えるうえで喜ばしいことである.米国でも“antimicrobial stewardship”という新しい概念が登場し,抗菌薬の適正使用に関して薬剤師やオーダリングシステムの活用をはじめ,病院全体で取り組むことが推奨されている.また一方で,この数年,感染症に限らず種々の疾患に対しての診断・治療のガイドラインが刊行されている.比較的専門家向けのものから一般臨床医向けのものまでさまざまであり,すべての感染症の診療・治療ガイドラインに精通している医師は少ないと考えられる.
 このような背景で,本別冊では現時点における感染症診療および感染制御についての情報を整理し共有することを目的に企画を行った.総勢18名のエキスパートに,総論に引き続き,各種感染症の診断と治療に関する現状について最新のガイドラインを交えながら紹介していただき,感染制御部を含む中央診療部門の活動の実際や,現在問題となっているインフルエンザへの対応,微生物検査の最新情報,ICPHやICMTの活動の実際など,幅広く網羅した.現在の感染症診療および感染制御の現状を整理し,今後さらによりよい体制づくりを行っていくうえでの参考となれば幸いである.
 はじめに(平潟洋一)
総論
 1.感染症・感染制御のトレンドと未来に向けての地域ネットワーク(賀来満夫・他)
  ・感染症・感染制御のトレンド
  ・感染制御地域ネットワーク構築の重要性
最新ガイドライン&診断・治療の現況
 2.日本の肺炎ガイドラインとその活用の実際(今村圭文・河野 茂)
  ・市中肺炎
  ・院内肺炎
 3.脳炎・髄膜炎の診断・治療ガイドラインとその活用の実際(亀井 聡)
  ・単純ヘルペスウイルス性脳炎
  ・細菌性髄膜炎
 4.周術期感染の対策―手術部位感染(SSI)防止をめざして(大久保 憲)
  ・SSIの定義
  ・SSIの発生頻度と転帰
  ・SSI発生に関連する患者特性
  ・手術前の対応
  ・手術時の服装および覆布
  ・SSI防止のための主要リスクファクターに対する勧告
 5.結核の診療における最新知見とバイオセーフティ(御手洗 聡)
  ・結核の疫学の最新知見
  ・結核検査の最新知見
  ・結核治療の最新知見
  ・結核菌検査のバイオセーフティ
 6.HIV/AIDSの診断・治療の最新知見(藤井 毅)
  ・HIV/AIDSの概要
  ・HIV感染症の検査
  ・HIV感染症に対する治療方針
  ・抗HIV療法の実際
 7.感染性心内膜炎の診断と治療の最新知見(光武耕太郎)
  ・IEの診断
  ・抗菌薬治療
  ・予防
 8.尿路感染症および性感染症における最近の動向(小野寺昭一)
  ・尿路感染症の起炎菌・耐性菌の動向と治療の現状
  ・わが国における定点把握4性感染症の動向
 9.深在性真菌症の診断と治療の進歩―現在の標準とは(宮ア義継)
  ・抗真菌薬開発の背景
  ・深在性真菌症の診断
  ・深在性真菌症の治療
  ・解決すべき課題
 10.迅速遺伝子解析技術の感染制御への適応と今後の展望(大楠清文・江崎孝行)
  ・感染症遺伝子検査の潮流
  ・分子疫学的な解析の潮流
  ・遺伝子解析技術の感染制御への適応事例
全診療科(部)および重症病棟・救命救急センターにおける感染症とその対策
 11.ICUにおける感染症とその対策―人工呼吸器関連肺炎とその対策(星 邦彦・荒井陽一)
  ・人工呼吸器関連肺炎(VAP)とは
  ・VAP対策
  ・人工呼吸バンドルだけでよいのか
 12.救命救急センターにおける感染症対策―ICDの視点で考える救命救急領域における感染制御(佐々木淳一・篠澤洋太郎)
  ・救命救急領域の患者にみられる感染症と感染制御
  ・感染症の診断
  ・全身的抗菌療法
  ・真菌感染症対策
 13.院内感染対策としてのワクチンガイドライン(岩田 敏)
  ・B型肝炎ワクチン
  ・麻疹,風疹,流行性耳下腺炎,水痘ワクチン
  ・季節性インフルエンザワクチン
 14.ブタ由来新型インフルエンザ流行と対策の問題点(菅谷憲夫)
  ・日本でのS-OIV流行はいまだ前駆波にすぎない
  ・S-OIVの重症度はまだわからない
  ・S-OIVは2回流行する
  ・S-OIVの治療にはoseltamivir投与が必要
  ・S-OIVの高齢者の治療は抗生剤が中心となる
 15.全診療科横断的感染症制御のための感染制御部の役割(朝野和典)
  ・感染制御の活動は全病院的・職種横断的な視点が要求される
  ・組織横断的感染制御活動
  ・感染制御の再編成
  ・感染制御部の感染症診療
  ・医療状況としての組織横断的な感染症診療の必要性
 16.抗菌薬のTDMにおける感染制御専門薬剤師の役割と実践(白石 正・豊口禎子)
  ・抗菌薬のPK/PDに基づく投与設計
  ・グリコペプチド系抗生物質,バンコマイシン(VCM)
  ・グリコペプチド系抗生物質,テイコプラニン(TEIC)
  ・アミノグリコシド系抗生物質,アルベカシン(ABK)
 17.感染制御認定臨床微生物検査技師(ICMT)の役割と実際の活動(木下承晧)
  ・医療関連施設における感染制御および検査体制の現状
  ・ICTへの参画
  ・ICMTの役割と活動
 18.全診療科(部)横断的laboratory-based active consultation(平潟洋一)
  ・感染症コンサルテーションの形態とこれまでの問題点
  ・東北大学病院における新しい試み―Laboratory-based active consultation(L-BAC)と感染症患者データの一括管理
 ・サイドメモ目次
  細菌性髄膜炎の病態
  PDCAサイクル
  ハイブリゼップ(HYBRISEP(R))