やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 松岡博昭
 獨協医科大学名誉教授,宇都宮中央病院院長
 わが国の高血圧人口は約4,000万人といわれており,もっとも頻度の高い疾患である.日本高血圧学会では日常臨床で遭遇することの多い高血圧患者に適切な診療を提供するための指針として,2000年と2004年に高血圧治療ガイドラインを発行しているが,最近わが国におけるエビデンスが集積されてきたということもあり,2009年1月には新しいガイドライン(JSH2009)を発行した.本別冊では第一部としてJSH2009の内容をより掘り下げて理解してもらうために,JSH2009の作成に携わった先生方に“JSH2009に基づいた診療“というテーマで多岐にわたる項目について執筆をお願いした.また,第二部としては“高血圧診療のトピックス”としてわが国の疫学やわが国を含めた最近の介入試験を取り上げるとともに,心血管イベントとの関係で注目されている診察室以外の血圧測定や中心動脈圧などについて専門の先生方にそれぞれ解説をお願いした.
 本別冊が読者の方々の高血圧診療の一助となれば幸いである.
 はじめに(松岡博昭)
JSH2009に基づいた高血圧の診療
 1.高血圧の診断とリスク評価(安井大策・今井 潤)
  ・高血圧の病型分類
  ・血圧値の分類と危険因子の評価
  ・予後評価のためのリスク層別化
 2.初診時の治療指針と降圧目標(田中秀一・菊池健次郎)
  ・初診時の高血圧治療指針
  ・降圧目標と今後の課題
 3.生活習慣修正の実際(安東克之)
  ・食塩制限とその目標
  ・減塩の実際
  ・野菜,果物,魚,コレステロール,飽和脂肪酸など
  ・適正体重の維持
  ・運動
  ・節酒
  ・禁煙
  ・その他
  ・生活習慣の複合的な修正
 4.降圧薬治療の進め方―第一選択薬と併用療法(齊藤郁夫)
  ・主要降圧薬と積極的適応
  ・主要降圧薬とエビデンス
  ・併用療法
  ・合剤
  ・多剤の併用療法
  ・降圧の速度
  ・降圧薬治療の費用と効果
【臓器障害,合併症を伴った高血圧治療の進め方】
 5.脳血管障害を伴う高血圧(島田和幸)
  ・脳卒中急性期
  ・脳卒中慢性期
 6.心疾患を伴う高血圧(甲斐久史・今泉 勉)
  ・冠動脈疾患
  ・慢性心不全
  ・心肥大
  ・心房細動の予防
 7.慢性腎臓病を伴う高血圧(伊藤貞嘉)
  ・慢性腎臓病の早期発見に努める
  ・なぜ CKDはCVDのリスクか
  ・CKD患者をみたら
  ・二次性高血圧の除外
  ・生活習慣の修正
  ・降圧薬治療
  ・血清カリウムの問題
 8.大きく変わった糖尿病患者の高血圧の治療(片山茂裕)
  ・糖尿病患者における高血圧の特徴と血圧の測定
  ・糖尿病患者における高血圧の治療
  ・糖尿病腎症の進展抑制・寛解と発症予防をめざして ACE阻害薬/ARBを
  ・糖尿病網膜症の治療薬としての RAS抑制薬の可能性
 9.メタボリックシンドロームにおける高血圧治療(島本和明)
  ・メタボリックシンドロームにおける高血圧の病態
  ・メタボリックシンドローム合併高血圧の治療―基本方針
  ・降圧薬の選択
 10.高齢者高血圧治療の進め方(神出 計・楽木宏実)
  ・高齢者の血圧調節機能の特徴に基づく診断と治療の注意点
  ・積極的降圧の推奨と過度な降圧を注意すべき対象
  ・降圧目標と緩徐な降圧スピード
  ・降圧薬の選択
  ・今後の課題
 11.小児高血圧への対応(内山 聖)
  ・高血圧基準値
  ・血圧健診用基準値の考え方
  ・小児高血圧の診断
  ・肥満と高血圧
  ・胎児期の栄養と高血圧
  ・小児・高校生における本態性高血圧の問題点
  ・高血圧の管理
  ・薬物療法
 12.妊婦の高血圧は治療すべきか―コクランレビューから学ぶ妊娠高血圧症候群の治療(鈴木洋通)
  ・妊娠高血圧症候群とは
  ・妊娠高血圧への対応とは
  ・重症妊娠高血圧への対応
  ・妊娠高血圧への現実的対応
 13.治療抵抗性高血圧―評価と対応(瀧下修一)
  ・みかけ上の治療抵抗性
  ・薬剤関連の要因
  ・生活習慣の要因
  ・体液量の過剰
  ・二次性高血圧
  ・降圧薬療法
 14.二次性高血圧診療の進め方(土肥靖明・木村玄次郎)
  ・腎実質性高血圧
  ・腎血管性高血圧
  ・内分泌性高血圧
高血圧診療のトピックス
 15.わが国における高血圧の疫学(上島弘嗣)
  ・国民の高血圧の有病率と有病者数
  ・国民の血圧水準の推移
  ・高血圧者の頻度の推移
  ・国民の血圧水準の低下に寄与したものは何か
  ・高血圧による脳卒中と心疾患の発症
  ・年齢別の血圧水準と循環器疾患・総死亡危険度との関連
  ・種々の血圧指標と循環器疾患発症危険度との関係
 16.家庭血圧・24時間血圧を実地臨床に活かす(河野雄平)
  ・家庭血圧,24時間血圧とその測定意義
  ・家庭血圧,24時間血圧測定の実際と留意点
 17.中心血圧の臨床的意義―中心血圧は血圧測定のパラダイムシフトとなるか(南 順一)
  ・中心血圧の測定法
  ・中心血圧と末梢血圧の差異
  ・最近の大規模試験による知見
 18.降圧薬治療に関する最新の海外エビデンス(平和伸仁・梅村 敏)
  ・降圧目標に関するエビデンス―高齢者高血圧患者に対する治療の必要性に関する研究
  ・降圧薬の種類に関するエビデンス
  ・降圧薬の併用療法に関するエビデンス
 19.降圧薬治療におけるわが国のエビデンス(石光俊彦)
  ・初期の臨床試験
  ・日本が参加した国際的臨床試験
  ・近年,結果が示された臨床試験

 ・サイドメモ目次
  出生体重とインスリン抵抗性
  授乳と降圧薬
  降圧目標達成には主治医の治療強化意志が重要