序文
時代は21世紀へと移り,医学は基礎・臨床を問わず,まさに日進月歩の勢いで発展し続けている.不可能が可能なものへと実現されていく最中,外科領域においては“より安全“,“より正確”な治療,つまり minimally invasive treatment(低侵襲治療)が強く求められている.そのひとつである radiosurgeryは脳神経外科領域において,いまや必要不可欠な治療オプションとして知られるようになった.
現在,おもに脳腫瘍や脳動静脈奇形に対して治療が行われており,とくに外科手術で到達困難な場所,eloquent area(脳機能上大事な領域),また手術自体のリスクが高い患者(高齢,全身麻酔困難,ターミナルステージ)にとって本治療の意義や存在は大きなものとなっている.一方,最近では難治性てんかんや痛み,Parkinson病などの機能的脳疾患,そして眼科疾患やその他の領域に至るまで,本治療の発展性や可能性は脚光を浴びるようになってきた.また,治療機器の進歩および CT,MRI,脳血管撮影などの画像撮像技術の飛躍的な発展は,治療成績向上に大きく貢献している.今世紀の radiosurgeryはまさに円熟のときを迎え,大いなる発展が非常に期待されている.とはいえ,まだ radiosurgeryの歴史は浅く,個々の疾患について完全に確立されたとはいえないのが現状である.これまでの治療経験をまとめ,長期成績を出し,そのうえで今後の治療にフィードバックしていかなければならない.また,外科手術も含め,他の治療オプションとの比較や combined treatmentとしての,よりよい組合わせもこれからの時代は考慮していかなければならない.
本書の構成として,まず“Radiosurgery概説“では全体としての overviewをはじめ,代表するそれぞれの radiosurgeryのシステムであるガンマナイフ,ライナック,サイバーナイフについてそれぞれの特徴を解説していく.また,国内だけの感覚にとらわれない他国での現状や基礎的研究の位置づけと必要性についても触れている.“各疾患に対する radiosurgery”つまり各論においては,それぞれの authorityに豊富な治療経験や長期成績を中心とした現状と展望についてまとめていただき,即実践を意識した“バイブル“となるべく仕上がっている.また,専門医のみでなく,他科ドクターへも容易に理解していただけるよう考慮してまとめられている.とくに,注目の眼科疾患や脊髄をはじめとした体幹部照射,また radiosurgeryに伴う malignant changeの可能性についても解説されている.最後に,“Radiosurgeryに望むこと”として他の minimally invasive treatmentを代表する先生方に,radiosurgeryと比較してのメリット・デメリット,そして将来的にどのような combined treatmentが可能で最良なのかを検討した.以上,本書を通じて,“Radiosurgeryの最前線”についてupdateな知識や現状・未来展望に対する理解が得られることを目的としている.
最後に,本書発行にあたり多大にご指導・ご協力をいただいた東京女子医科大学脳神経外科主任教授・堀 智勝先生,東京女子医科大学学長・▲(▲倉公朋先生,また留学時代から現在もお世話になっている France,Timone University Hospitalの REGIS先生,そして週刊『医学のあゆみ』編集部の皆様にこの場を借りてお礼を申し上げたい.本書が読者の皆様にとって有意義なものとなることを,また今後の radiosurgeryの発展にすこしでも寄与できることを切に願っている.
2002年9月
東京女子医科大学脳神経センター脳神経外科 林 基弘
時代は21世紀へと移り,医学は基礎・臨床を問わず,まさに日進月歩の勢いで発展し続けている.不可能が可能なものへと実現されていく最中,外科領域においては“より安全“,“より正確”な治療,つまり minimally invasive treatment(低侵襲治療)が強く求められている.そのひとつである radiosurgeryは脳神経外科領域において,いまや必要不可欠な治療オプションとして知られるようになった.
現在,おもに脳腫瘍や脳動静脈奇形に対して治療が行われており,とくに外科手術で到達困難な場所,eloquent area(脳機能上大事な領域),また手術自体のリスクが高い患者(高齢,全身麻酔困難,ターミナルステージ)にとって本治療の意義や存在は大きなものとなっている.一方,最近では難治性てんかんや痛み,Parkinson病などの機能的脳疾患,そして眼科疾患やその他の領域に至るまで,本治療の発展性や可能性は脚光を浴びるようになってきた.また,治療機器の進歩および CT,MRI,脳血管撮影などの画像撮像技術の飛躍的な発展は,治療成績向上に大きく貢献している.今世紀の radiosurgeryはまさに円熟のときを迎え,大いなる発展が非常に期待されている.とはいえ,まだ radiosurgeryの歴史は浅く,個々の疾患について完全に確立されたとはいえないのが現状である.これまでの治療経験をまとめ,長期成績を出し,そのうえで今後の治療にフィードバックしていかなければならない.また,外科手術も含め,他の治療オプションとの比較や combined treatmentとしての,よりよい組合わせもこれからの時代は考慮していかなければならない.
本書の構成として,まず“Radiosurgery概説“では全体としての overviewをはじめ,代表するそれぞれの radiosurgeryのシステムであるガンマナイフ,ライナック,サイバーナイフについてそれぞれの特徴を解説していく.また,国内だけの感覚にとらわれない他国での現状や基礎的研究の位置づけと必要性についても触れている.“各疾患に対する radiosurgery”つまり各論においては,それぞれの authorityに豊富な治療経験や長期成績を中心とした現状と展望についてまとめていただき,即実践を意識した“バイブル“となるべく仕上がっている.また,専門医のみでなく,他科ドクターへも容易に理解していただけるよう考慮してまとめられている.とくに,注目の眼科疾患や脊髄をはじめとした体幹部照射,また radiosurgeryに伴う malignant changeの可能性についても解説されている.最後に,“Radiosurgeryに望むこと”として他の minimally invasive treatmentを代表する先生方に,radiosurgeryと比較してのメリット・デメリット,そして将来的にどのような combined treatmentが可能で最良なのかを検討した.以上,本書を通じて,“Radiosurgeryの最前線”についてupdateな知識や現状・未来展望に対する理解が得られることを目的としている.
最後に,本書発行にあたり多大にご指導・ご協力をいただいた東京女子医科大学脳神経外科主任教授・堀 智勝先生,東京女子医科大学学長・▲(▲倉公朋先生,また留学時代から現在もお世話になっている France,Timone University Hospitalの REGIS先生,そして週刊『医学のあゆみ』編集部の皆様にこの場を借りてお礼を申し上げたい.本書が読者の皆様にとって有意義なものとなることを,また今後の radiosurgeryの発展にすこしでも寄与できることを切に願っている.
2002年9月
東京女子医科大学脳神経センター脳神経外科 林 基弘
Radiosurgeryの最前線-現況と展望/Current and Future in Radiosurgery
Editor: Motohiro HAYASHI
Radiosurgery概説
1.Radiosurgeryの現況と今後の展望──OVERVIEW (高倉公朋)
2.ガンマナイフ──適応と基礎・最新テクニック 林 基弘・井澤正博
3.Linac radiosurgery 松尾孝之・柴田尚武
4.サイバーナイフ治療──機器の特徴に基づいたガンマナイフとの使い分け 八代一孝
5.フランス機能外科に学ぶ治療の最前線──Radiosurgeryの位置づけ 落合 卓・Jean REGIS
6.ガンマナイフの基礎研究──機能的脳疾患治療への応用を目的に 川上順子・片山洋子
各疾患に対するradiosurgery
7.ガンマナイフを用いた間脳下垂体腫瘍の治療戦略 小林達也
8.ガンマナイフによる聴神経鞘腫の治療──低線量と多数ショットによる治療成績の検討 福岡誠二
9.頭蓋底髄膜腫に対するガンマナイフ治療 岩井謙育
10.転移性脳腫瘍に対するガンマナイフ治療 芹澤 徹・小野純一
11.転移性脳腫瘍のガンマナイフ治療──どこまで攻めるか 山本昌昭
12.グリオーマのガンマナイフ治療──病理組織別にみた反応の差異 木田義久
13.脳動静脈奇形に対するガンマナイフ治療 城倉英史
14.難治性疼痛に対するガンマナイフ手術 林 基弘・平 孝臣
15.不随意運動に対するガンマ視床手術 柴崎 徹・大江千廣
16.難治性てんかんに対するガンマナイフ手術 林 基弘・堀 智勝
17.加齢黄斑変性 堀 貞夫
18.サイバーナイフによる脊髄疾患への定位的放射線治療 丸野元彦・他
19.体幹部腫瘍に対するCTガイド下の三次元定位放射線治療──とくに早期肺癌 植松 稔
20.Radiosurgery後長期経過観察に基づいた合併症の可能性 辛 正廣
Radiosurgeryに望むこと
21.Microsurgeryの立場から 堀 智勝
22.脳動静脈奇形に対するradiosurgeryと血管内手術 石原正一郎
23.神経内視鏡の立場から 上川秀士
24.てんかん治療におけるradiosurgeryの展望──てんかん外科の立場から 川合謙介
25.機能的疾患に対するradiosurgeryの問題点──機能外科の立場から 小倉光博・板倉 徹
サイドメモ
重粒子線治療
Model C-APS
LQモデルとα/β値
Stereotactic radiosurgery(SRS)とstereotactic radiotherapy(SRT)
Circuling behavior
ガンマナイフ
頭蓋底髄膜腫の治療の時代変遷
ガンマナイフ治療可能な脳転移の大きさと数の限度
グリオーマの辺縁をとらえる方法
その他の頭蓋内血管奇形に対するガンマナイフ治療
下垂体破壊術(hypophysectomy,pituitary ablation)
治療支援システム(Leksell Gamma Plan:LGP,SurgiPlan system:SPS)
視床下部過誤腫
サイバーナイフ
Radiation-induced tumor
迷走神経刺激療法
Parkinson病に対する脳深部刺激術
Editor: Motohiro HAYASHI
Radiosurgery概説
1.Radiosurgeryの現況と今後の展望──OVERVIEW (高倉公朋)
2.ガンマナイフ──適応と基礎・最新テクニック 林 基弘・井澤正博
3.Linac radiosurgery 松尾孝之・柴田尚武
4.サイバーナイフ治療──機器の特徴に基づいたガンマナイフとの使い分け 八代一孝
5.フランス機能外科に学ぶ治療の最前線──Radiosurgeryの位置づけ 落合 卓・Jean REGIS
6.ガンマナイフの基礎研究──機能的脳疾患治療への応用を目的に 川上順子・片山洋子
各疾患に対するradiosurgery
7.ガンマナイフを用いた間脳下垂体腫瘍の治療戦略 小林達也
8.ガンマナイフによる聴神経鞘腫の治療──低線量と多数ショットによる治療成績の検討 福岡誠二
9.頭蓋底髄膜腫に対するガンマナイフ治療 岩井謙育
10.転移性脳腫瘍に対するガンマナイフ治療 芹澤 徹・小野純一
11.転移性脳腫瘍のガンマナイフ治療──どこまで攻めるか 山本昌昭
12.グリオーマのガンマナイフ治療──病理組織別にみた反応の差異 木田義久
13.脳動静脈奇形に対するガンマナイフ治療 城倉英史
14.難治性疼痛に対するガンマナイフ手術 林 基弘・平 孝臣
15.不随意運動に対するガンマ視床手術 柴崎 徹・大江千廣
16.難治性てんかんに対するガンマナイフ手術 林 基弘・堀 智勝
17.加齢黄斑変性 堀 貞夫
18.サイバーナイフによる脊髄疾患への定位的放射線治療 丸野元彦・他
19.体幹部腫瘍に対するCTガイド下の三次元定位放射線治療──とくに早期肺癌 植松 稔
20.Radiosurgery後長期経過観察に基づいた合併症の可能性 辛 正廣
Radiosurgeryに望むこと
21.Microsurgeryの立場から 堀 智勝
22.脳動静脈奇形に対するradiosurgeryと血管内手術 石原正一郎
23.神経内視鏡の立場から 上川秀士
24.てんかん治療におけるradiosurgeryの展望──てんかん外科の立場から 川合謙介
25.機能的疾患に対するradiosurgeryの問題点──機能外科の立場から 小倉光博・板倉 徹
サイドメモ
重粒子線治療
Model C-APS
LQモデルとα/β値
Stereotactic radiosurgery(SRS)とstereotactic radiotherapy(SRT)
Circuling behavior
ガンマナイフ
頭蓋底髄膜腫の治療の時代変遷
ガンマナイフ治療可能な脳転移の大きさと数の限度
グリオーマの辺縁をとらえる方法
その他の頭蓋内血管奇形に対するガンマナイフ治療
下垂体破壊術(hypophysectomy,pituitary ablation)
治療支援システム(Leksell Gamma Plan:LGP,SurgiPlan system:SPS)
視床下部過誤腫
サイバーナイフ
Radiation-induced tumor
迷走神経刺激療法
Parkinson病に対する脳深部刺激術