やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 理学療法士・作業療法士を目指す皆さんにとって,リハビリテーションの主要な対象といえば,脳,運動器,心血管,呼吸器などの疾患があげられます.もちろん,卒前卒後教育のなかで,これら疾患および障害について専門的な知識を深める必要はありますが,本当にそれらの知識だけでよいのでしょうか.
 リハビリテーションの対象は,疾患や障害ではなくヒトであり,その多くが高齢です.いうまでもなく,ヒトの特徴を理解することなく疾患や障害の理解には至りません.専門科目の前に,解剖学,生理学,運動学という基礎となる知識を身に付けるのはそのためです.そして,ヒトの次に「高齢者の特徴の理解」へ続きます.高齢者の特性,加齢変化の特徴を理解して,ようやく疾患・障害の理解へと進むことができます.小児疾患の勉強を始める前に,発達学を学ぶのと同じです.つまり,今後臨床での活躍が期待される皆さんにとって,高齢者や老化に関するあらゆる領域を含む老年学の知識は不可欠といえます.
 本書では,このような高齢者の特徴から高齢者特有の疾患を15回の講義で習得し,さらに国家試験をクリアするために,カリキュラムに即して知識を整理しました.また,臨床的視点というエッセンスを加えました.認知症,フレイル,サルコペニア,介護予防など,近年では老年学に関する重要なキーワードが臨床現場で注目されています.これらへの対策には,いずれも運動療法を中心とした非薬物療法が重要視され,各方面から理学療法士・作業療法士への期待が寄せられています.基本的な知識を習得するとともに,臨床的重要事項を把握することで,期待に応えられる専門職を目指していただきたいと思います.
 医学・医療の進歩に伴い,人はこれまで以上に長寿となったことで,あまり注目されてこなかった疾患・障害に焦点があてられるようになりました.日々進歩を続ける医療・介護現場で求め続けられる人材になるためにも,皆さんには「考える力」を育てていただきたいと思います.そのためには,臨床的な思考に加えて研究的な思考が必要となります.グラフや表から読み取れることは何か,応用して考えられることは何かなど,本書では「考える素材」を多く掲載しました.友人達と「なぜ?,どうして?」を共有しながら,ぜひ考える基盤を形成してください.
 老年学は古くて新しい学問であり,今後も日々更新され続けていく学問となることでしょう.10年・20年先,皆さんが若手療法士を指導・教育する立場になった際に,ふと思い出していただけるような教科書となることを期待して.
 2023年10月10日
 国立長寿医療研究センター理事長 荒井秀典
 筑波大学人間系教授 山田 実
 序文(荒井秀典,山田 実)
老年学総論
 1章 老年学とは(山田 実)
  1 なぜ老年学を学ぶ必要があるのか
   1.理学療法士・作業療法士の役割と高齢者
  2 今日の人口動態の変化
   1.総人口の推移
   2.高齢者人口・高齢者割合の推移
   3.75歳以上の割合の推移
   4.高齢者の割合の国際比較
  3 高齢者の死因・要介護要因
   1.死因の変化
   2.要介護要因の変化
   3.要介護認定者数,要介護認定割合の変化
  4 リハビリテーションと高齢者
   1.リハビリテーション対象患者の中核は高齢者
   2.高齢疾患患者の特徴
  老年医学の立場からセラピストを目指す学生の皆さんへ
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 2章 高齢者とは(木村鷹介)
  1 高齢者の定義
  2 高齢者の特徴
   1.高齢者の身体的特徴
   2.高齢者の心理的特徴
  3 加齢に伴う変化
   1.神経系
   2.骨・関節系
   3.内分泌系
   4.感覚器系
   5.心血管系
   6.呼吸器系
   7.消化器系
   8.泌尿器系
  4 加齢に伴う運動機能の変化
   1.加齢に伴う骨格筋の変化
   2.握力,歩行速度
   3.バランス能力
  5 加齢に伴う精神・心理機能の変化
   1.認知機能
   2.意欲・気分
   3.うつ
  6 老年症候群,廃用症候群と高齢者特有の疾患
   1.老年症候群
   2.廃用症候群
   3.フレイル
   4.サルコペニア
   5.高齢者がかかりやすい疾患
  老年医学の立場からセラピストを目指す学生の皆さんへ
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 3章 高齢者には何が必要か(木村鷹介)
  1 医療
   1.社会医学的な観点の重要性
   2.在宅医療
   3.多職種協働
  2 介護,福祉
   1.介護
   2.福祉
  3 予防
   1.予防の重要性
   2.一次予防
   3.二次予防
   4.三次予防
  4 栄養
  5 環境
   1.物的環境
   2.人的・社会的環境
  6 地域・社会生活
   1.地域社会との関わり
   2.通いの場への参加
   3.高齢者の就労
  7 QOL
   1.QOLの定義と概念
   2.健康関連QOLの評価
   3.その他のQOL評価
  8 エンド・オブ・ライフケア
   1.エンド・オブ・ライフケアとは
   2.アドバンス・ケア・プランニング
  9 緩和ケア
   1.緩和ケアの定義
   2.緩和ケアの対象
   3.緩和ケアにおける理学療法士・作業療法士の役割
  老年医学の立場からセラピストを目指す学生の皆さんへ
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 4章 高齢者に対し私たちは何ができるか(石山大介)
  1 高齢者支援における理学療法士・作業療法士の役割
   1.多職種連携による支援
   2.関連職種の理解
  2 リハビリテーション
   1.保険診療におけるリハビリテーション
   2.自由診療におけるリハビリテーション
   3.各病期におけるリハビリテーション
  3 介護予防と健康増進
   1.介護予防
   2.健康増進
  4 社会・福祉制度の理解と活用
   1.介護保険制度
   2.障害者福祉制度
   3.訪問看護制度
  5 災害・パンデミックの対応
   1.災害時に理学療法士・作業療法士ができること
   2.パンデミック下に理学療法士・作業療法士ができること
  老年医学の立場からセラピストを目指す学生の皆さんへ
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高齢者に特有の疾患・障害
 5章 フレイル,サルコペニア(山田 実)
  1 概要
   1.フレイルとサルコペニア
   2.フレイル
   3.サルコペニア
  2 疫学,予後
   1.フレイル
   2.サルコペニア
  3 病理,症候
   1.骨格筋の加齢変化の要因
   2.骨格筋の加齢変化のマクロな特徴
   3.骨格筋の加齢変化のミクロな特徴
  4 診断・評価
   1.フレイルの判定基準
   2.サルコペニアの判定基準
   3.AWGS2019
  5 予防
  6 リハビリテーション治療
   1.フレイル理学療法ガイドライン
   2.サルコペニア診療ガイドライン
   3.フレイル,サルコペニアに対するリハビリテーションの考え方
   4.サルコペニアに対するレジスタンス運動の考え方
  7 その他の治療
   1.アミノ酸・たんぱく質摂取の考え方
   2.たんぱく質摂取の実際
  8 連携
  老年医学の立場からセラピストを目指す学生の皆さんへ
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 6章 MCI,認知症(音部雄平)
  1 概要
   1.認知症とは
   2.軽度認知障害(MCI)とは
  2 疫学,予後
   1.認知症の有病率
   2.認知症の原因疾患
   3.MCIの有病率
   4.MCIの予後
  3 病理,症候
   1.中核症状とBPSD
   2.三大認知症の病理変化と特徴
  4 診断・評価
   1.認知症の診断基準
   2.認知症診断の流れ
  5 予防
   1.認知症予防の取り組み
   2.認知症発症の危険因子
  6 リハビリテーション治療
   1.一般高齢者における身体活動・運動介入による認知症予防効果
   2.MCIのリハビリテーション
   3.認知症者に対するリハビリテーション
  7 その他の治療
   1.薬物療法
   2.食事療法
   3.生活習慣病の管理
   4.音楽・芸術活動
  8 連携
  老年医学の立場からセラピストを目指す学生の皆さんへ
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 7章 うつ病(伊藤大将)
  1 概要
   1.高齢期うつ病の概要
   2.高齢期うつ病の特徴
  2 疫学,予後
   1.高齢期うつ病の有病率
   2.高齢期うつ病の予後
   3.高齢期うつ病から認知症への発展
  3 病理,症候
   1.高齢期うつ病の要因
   2.高齢期うつ病の病態・臨床的特徴
  4 診断・評価
   1.高齢期うつ病の診断基準
   2.高齢期うつ病の評価
   3.高齢期うつ病と認知症
   4.高齢期うつ病とアパシー
   5.高齢期うつ病とせん妄
  5 予防
  6 リハビリテーション治療
   1.日本うつ病治療学会ガイドライン─高齢者のうつ病治療ガイドライン
   2.高齢期うつ病に対するリハビリテーションの考え方
   3.高齢期うつ病に対する運動
  7 その他の治療
   1.日本うつ病治療学会ガイドライン─高齢者のうつ病治療ガイドライン
   2.高齢期うつ病に対する薬物療法
  8 連携
  老年医学の立場からセラピストを目指す学生の皆さんへ
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 8章 転倒・骨折(山田 実)
  1 概要
   1.転倒・骨折
   2.転倒による重篤な外傷
  2 疫学,予後
  3 病理,症候
   1.要因の整理
   2.薬剤の影響
   3.サルコペニアの影響
   4.ふらつきの影響
   5.環境(外的要因)の影響
  4 診断・評価
   1.地域での転倒リスクアセスメント
   2.身体機能評価
   3.施設内転倒リスクアセスメント
  5 予防
   1.地域在住高齢者に対する転倒予防介入
   2.院内の転倒予防
   3.頭部外傷予防
  6 リハビリテーション治療
  7 その他の治療
  8 連携
  老年医学の立場からセラピストを目指す学生の皆さんへ
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 9章 栄養障害(田中 周)
  1 概要
   1.栄養障害
   2.低栄養
   3.過栄養(肥満)
  2 疫学,予後
   1.低栄養の有病率
   2.低栄養の予後
   3.過栄養(肥満)の有病率
   4.過栄養(肥満)の予後
  3 病理,症候
   1.低栄養
   2.過栄養(肥満)
  4 診断・評価
   1.低栄養の判定基準
   2.過栄養(肥満)の判定基準
  5 予防
  6 リハビリテーション治療
   1.リハビリテーション栄養学会診療ガイドライン
   2.高齢者肥満症診療ガイドライン
   3.低栄養に対するリハビリテーションの考え方
   4.過栄養(肥満)に対するリハビリテーションの考え方
  7 その他の治療
   1.食品摂取の多様性
   2.ビタミンD
  8 連携
  老年医学の立場からセラピストを目指す学生の皆さんへ
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 10章 摂食嚥下障害(鈴木瑞恵)
  1 概要
   1.摂食嚥下とは
   2.オーラルフレイル
   3.高齢者の摂食嚥下
  2 疫学,予後
   1.摂食嚥下障害の有病率
   2.摂食嚥下障害の予後
  3 病理,症候
   1.加齢に伴う摂食嚥下の変化
   2.疾患別の摂食嚥下障害の特徴
  4 診断・評価
   1.オーラルフレイルの判定基準
   2.摂食嚥下障害の判定基準
  5 予防
  6 リハビリテーション治療
   1.嚥下間接訓練
   2.嚥下直接訓練
   3.摂食嚥下リハビリテーションにおける経口摂取の考え方
  7 その他の治療
   1.歯科的治療
   2.栄養療法
   3.薬物療法
   4.外科的治療
  8 連携
  老年医学の立場からセラピストを目指す学生の皆さんへ
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 11章 排泄障害(西尾尚倫)
  1 概要
   1.排尿
   2.排便
  2 疫学,予後
   1.排尿障害の有病率
   2.排尿障害の予後
   3.排便障害の有病率
   4.排便障害の予後
  3 病理,症候
   1.排尿障害の要因
   2.排便障害の要因
  4 診断・評価
   1.排尿機能の評価
   2.排便機能の評価
  5 予防
   1.排尿障害の予防
   2.排便障害の予防
  6 リハビリテーション治療
   1.排尿障害
   2.排便障害
  7 その他の治療
   1.排尿障害
   2.排便障害
  8 連携
  老年医学の立場からセラピストを目指す学生の皆さんへ
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主要疾患における高齢期の特徴
 12章 生活習慣病(小山真吾)
  1 概要
   1.生活習慣病とは
   2.高血圧
   3.脂質異常症
   4.糖尿病
  2 高齢期での特徴
   1.高血圧
   2.脂質異常症
   3.糖尿病
  3 診断・評価
   1.高血圧の判定基準と降圧目標
   2.脂質異常症の判定基準
   3.糖尿病の判定基準と血糖コントロール目標
  4 予防
  5 リハビリテーション治療
   1.高血圧に対する運動
   2.脂質異常症に対する運動
   3.糖尿病に対する運動
   4.高齢者に対する運動の配慮やポイント
   5.身体活動量の向上
  6 その他の治療
   1.生活習慣の是正
   2.薬物療法
  7 連携
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 13章 心疾患,呼吸器疾患(吉沢和也)
  1 概要
   1.心疾患
   2.呼吸器疾患
  2 高齢期での特徴
   1.心疾患
   2.呼吸器疾患
  3 診断・評価
   1.心不全
   2.虚血性心疾患
   3.COPD
   4.誤嚥性肺炎
  4 予防
   1.虚血性心疾患の一次予防
   2.心不全疾患の二次予防
   3.COPDの再発予防
  5 リハビリテーション治療
   1.心疾患患者に対するリハビリテーション
   2.呼吸器疾患に対するリハビリテーション
  6 その他の治療
   1.心疾患患者のその他の治療
   2.呼吸器疾患のその他の治療
  7 連携
  老年医学の立場からセラピストを目指す学生の皆さんへ
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 14章 腎疾患(音部雄平)
  1 概要
   1.腎臓の解剖と生理
   2.腎臓の機能と障害
   3.腎不全とは
   4.慢性腎臓病(CKD)
   5.CKDの原因
   6.人工透析
  2 高齢期での特徴
  3 診断・評価
   1.CKDの定義
   2.代表的な血液検査
   3.尿検査
  4 予防
   1.血圧管理
   2.血糖管理
  5 リハビリテーション治療
   1.運動制限から運動推奨への転換
   2.運動療法の内容
   3.運動療法時のリスク
  6 その他の治療
   1.栄養療法
   2.食塩管理
   3.薬物治療
  7 連携
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 15章 がん(市川雄大)
  1 概要
   1.がんの疫学
   2.がんの予後
   3.がんの病態
  2 高齢期での特徴
   1.加齢に伴う変化
   2.身体的側面
   3.栄養
   4.認知機能
   5.精神・心理的側面
   6.社会的側面
  3 診断・評価
   1.高齢者機能評価(GA)
   2.全身状態
   3.日常生活活動能力
   4.身体機能検査
   5.サルコペニア,フレイル
   6.栄養
   7.認知機能,情動・気分評価
   8.呼吸・循環機能検査,画像検査,生化学検査
   9.がん関連性倦怠感,QOL
  4 予防
  5 リハビリテーション治療
   1.がんのリハビリテーション診療ガイドライン
   2.がんリハビリテーションの対象と目的
   3.高齢期がん患者に対するリハビリテーションの考え方
   4.リハビリテーションにおけるリスク管理
  6 その他の治療
  7 連携
  老年医学の立場からセラピストを目指す学生の皆さんへ
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 Column
  感覚器の加齢性変化(小山真吾)
  睡眠障害(伊藤大将)
  骨粗鬆症(山田 実)
  褥瘡(田中 周)
  誤嚥性肺炎(鈴木瑞恵)
  末梢循環障害(吉沢和也)
  高齢者の急性疾患(吉沢和也)
  高齢者の皮膚疾患(小山真吾)

 索引