やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第2版の序
 人類の歴史の中で,はじめに声(voice)と聴覚(hearing)が伝達手段となり,脳の発達とともに言語(language)が生まれ,言語により文明や文化は発達してきた.言語は人と人がコミュニケーションをとる手段としてきわめて有用で,その際に声は話しことば(speech)として使われることが多い.声に障害を生じると社会生活に支障をきたすことから,その診断と治療はますます重要となってきている.そして声の検査は,声の障害の程度の把握や治療効果判定に必須といえる.
 「声の検査法」は日本音声言語医学会の編集によって1979年に発行された.その当時は声の検査についての系統だった包括的な教科書は世界的にもなく,そのさきがけとなる書籍であった.1994年に「声の検査法 第2版」が発行された際には,発声機構の基本的知識を解説した基礎編と,具体的な臨床検査法を述べた臨床編に分けられた.その後,コンピュータや内視鏡の進歩などにより声の障害の診療に大きな変革がもたらされ,これらの内容が盛り込まれた新しい書籍として,2009年に「新編 声の検査法」が出版された.
 今回は最近のデジタル技術の進歩や臨床研究の発展から得られた知見を加えて,「新編 声の検査法 第2版」として発行した.特に内視鏡や画像のデジタル化,高速度ビデオなどについては最新の状況に対応して新しく著者を迎えて書き直し,音響分析や評定尺度法についても新しく著者を迎えて内容を刷新させた.このように本書は15年おきに新しい書籍として登場し進化してきた.
 声の検査は,音声の専門的な施設で保険診療として行われているが,一般診療所ではまだ広く普及した検査法とはいえないのが現状である.声の検査には医学に加えて,工学,心理学などの知識も必要で,取っつきにくい印象も一因と考えられる.本書では声の検査を行う医師,言語聴覚士などにとって実地臨床で役に立つ検査法を選択し,わかりやすく解説するように心がけた.先端的な研究や検査の理解を深める内容は〈Topics〉とし,本書とかかわりの深い内容ながらもコーヒーブレイクのようにお読みいただけるものを〈ちょっと一息〉として掲載した.また,項目によっては前版の内容を使用することを著者にご承諾いただき,活用させていただいた.
 日本音声言語医学会では,2021年に音声言語認定医/認定士制度を発足させ,テキストやDVDを作成して会員に配布し,2022年から認定試験を実施している.この中で声の検査について大きく取り扱っており,声の専門家を育成している.また,日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会では,医師が検査をしっかり理解して実施できるように専門医教育を推進している.検査に関する実技講習は来年度から専門医資格の取得条件に入る予定で,関連する学会での実技講習を推奨しており,声の検査も重要な検査となってきている.
 改めて,本書の発行にご尽力いただいた編集委員をはじめ分担執筆者の方々に,心より御礼申し上げる.本書が多くの方々に愛読され声の検査がさらに広く普及することを願っている.
 2024年8月31日
 大森孝一


初版の序
 言語はヒトに特有のものであり,声はコミュニケーションの手段としてきわめて有用かつ効率的である.声の障害を生じると社会生活に支障をきたすことから,その診断と治療は現在ますます重要となってきている.この際,障害の程度の把握や治療効果判定には声の検査法の確立と普及が必要不可欠である.
 日本音声言語医学会の編集によって「声の検査法」は1979年に発行された.当時,声の検査についての系統だった包括的な教科書は世界的にもなく,そのさきがけとなる本であった.その後,1994年に第2版が発行された際には,発声機構の基本的知識を解説した基礎編と具体的な臨床検査法を述べた臨床編に分けられた.その後,コンピュータや内視鏡技術の進歩などにより声の障害の診療に大きな変革がもたらされ,このたび15年ぶりに「新編 声の検査法」として,これらの内容を盛り込んで発行することとなった.
 声の検査は,諸先輩が多大な努力を積まれてきたことで数多くの施設で行われるようになり,保険診療点数も与えられているが,一般診療ではまだ広く普及した検査法とは言えないのが現状である.声の検査には医学のみならず,工学,心理学などの知識も必要で,取っつきにくい印象をもたれる.本書では声の検査を行う医師,言語聴覚士などにとって実地臨床で役に立つように,現時点あるいは近い将来に実際に使える検査法を選択し,わかりやすく解説するように心がけた.
 第1章では発声の基礎として解剖,生理を中心に解説した.第2章では声の障害と検査の概要を解説し,この章だけでもおおよその声の検査法に触れられるように配慮した.第3章以降は,発声・発語運動の検査,空気力学的検査,声の高さと強さの検査,音響分析による検査,評価尺度法による検査,神経生理学的検査について,実際の声の検査法を詳述した.章によっては最新の内容になるように大幅に書き換えた.先端的な研究や検査の理解を深める内容は〈トピックス〉として掲載し,本書と関わりの深い内容ながらも,ほっと一息のつけるコーヒーブレイク的にお読みいただけるものを〈ちょっと一息〉としてまとめていただいた.また,項目によっては第2版の内容を使用することを著者にご承諾いただき,活用させていただいた.
 本書の発行にご尽力をいただいた日本音声言語医学会音声情報委員会委員や分担執筆していただいた方々に,心より御礼申し上げるとともに,本書が数多くの方々に愛読され,声の検査の有用性がさらに広く認められることを願うものである.
 2009年1月20日
 湯本英二・大森孝一
 カラーグラビア
 第2版の序
 初版の序
第1章 発声の基礎
 1 はじめに(大森孝一)
 2 発声とその仕組み(大森孝一)
  1 話しことばと声
   1)発声と発語
   2)母音と子音
  2 発声と聴取
   1)声を出す仕組み
   2)声を聞く仕組み
   3)発声と聴取の相互作用
  3 発声の評価
 3 声帯の構造(佐藤公則)
  1 ヒト成人声帯の構造
  2 ヒト成人声帯粘膜の細胞外マトリックスと細胞
   1)ヒト成人声帯粘膜固有層(ラインケ腔と声帯靱帯)の構造
   2)ヒト成人声帯黄斑の構造
  3 ヒト声帯の成長・発達・老化
  4 ヒト声帯の組織幹細胞と幹細胞ニッチ
  5 まとめ
 4 発声の生理(久 育男)
  1 発声を制御する神経機構
   1)末梢神経
   2)脳幹
   3)大脳皮質(cerebral cortex)
  2 呼気調節
   1)呼気調節に関与する器官の解剖と生理
   2)呼吸運動
   3)発声時の呼気調節
  3 喉頭調節
   1)喉頭の解剖と生理
   2)音源の生成と調節
  4 構音
   1)構音に関与する器官とその役割
   2)構音動作
   3)構音と発声の協調
 5 発声の物理(岸本 曜)
  1 音源と音
  2 音圧と音の強さ
   1)音圧
   2)音の強さ
  3 声帯振動と発声
   1)喉頭音源
   2)音源波形
  4 声帯振動
   1)声帯振動の仕組み
   2)声帯振動のモデル
   3)声帯振動のパターン
  5 共鳴
   1)Source-Filter理論
   2)単一音響管モデル
   3)スペクトル傾斜
   4)フォルマント
 6 まとめ(大森孝一)
第2章 声の障害と検査の概要
 1 はじめに(大森孝一)
 2 声の障害の原因と病態生理(大森孝一)
  1 声の障害の原因
   1)発声器官の形態異常
   2)運動障害
   3)発声の悪習慣,声の濫用
   4)心理的要因
   5)全身性の虚弱や疾病
   6)知能障害
   7)脳損傷
   8)不適切な音声環境,言語環境
   9)聴覚障害
   10)知覚障害
  2 発声障害を生じる病態
   1)声門閉鎖の異常
   2)声帯の硬さの異常
   3)声帯の対称性の異常
   4)呼吸・共鳴腔の異常
   5)心理的要因
   6)妨害物
 3 原因となる主な疾患(大森孝一)
   1)声帯麻痺
   2)声帯炎
   3)声帯溝症
   4)声帯結節
   5)声帯ポリープ
   6)ポリープ様声帯(ラインケ浮腫)
   7)声帯嚢胞
   8)声帯上皮過形成症
   9)喉頭乳頭腫
   10)喉頭癌
   11)声帯の瘢痕化
   12)心因性失声症
   13)痙攣性発声障害
   14)過緊張性発声障害
   15)低緊張性発声障害
   16)変声障害
   17)本態性音声振戦
 4 検査の概要(多田靖宏)
  1 喉頭の観察
   1)間接喉頭鏡検査
   2)喉頭内視鏡検査
   3)ストロボスコピー
  2 音声検査
   1)聴覚心理的評価(GRBAS尺度)
   2)空気力学的検査
   3)ボイスプロファイル
   4)音響分析
   5)筋電図(Electromyography:EMG)
  3 画像検査
   1)喉頭高圧撮影
   2)喉頭低圧撮影
   3)喉頭断層撮影
   4)喉頭造影
   5)食道透視
   6)CT
   7)MRI
   8)超音波断層
 5 診断手順(多田靖宏)
  1 問診
   1)主訴
   2)病歴
   3)誘因
   4)合併症状
   5)既往症・基礎疾患
   6)職業
   7)内服薬
   8)生活習慣
   9)薬剤アレルギー
   10)自覚的評価
  2 視診
   1)頸部を中心とした外観の観察
   2)鼻咽腔の観察
   3)喉頭腔の観察
  3 検査
   1)音声検査
   2)画像検査
 6 まとめ(大森孝一)
第3章 発声・発語運動の検査
 1 はじめに(香取幸夫)
 2 舌・口蓋などの運動に関する検査
  1 超音波断層法(渡邊賢礼,井上 誠)
   1)概要
   2)特徴
   3)検査法
   4)今後に向けて
  2 エレクトロパラトグラフィ:電気式口蓋図法(二藤隆春)
   1)概要
   2)検査機器
   3)検査と評価の方法
  3 CT,MRI,MRI動画(高野佐代子)
   1)CT(コンピュータ断層撮像法,computed tomography)
   2)MRI(磁気共鳴画像法,magnetic resonance imaging)
   3)MRI動画
 3 声帯を中心とした喉頭の静的動的検査
  1 喉頭内視鏡総論
   1)喉頭観察法の種類(塩谷彰浩)
   2)硬性鏡(rigid telescope)(楠山敏行)
   3)軟性鏡(flexible scope)(楯谷一郎)
   4)画像強調技術(楯谷一郎)
  2 喉頭ストロボスコピー(齋藤康一郎)
   1)概要
   2)検査機器
   3)臨床的な有用性
  3 画像の録画と保存(渡邊健一,太田 淳)
   1)はじめに
   2)当施設の録画およびデータ保存システム
   3)デジタルデータ保存の特徴
   4)おわりに
  4 その他(金子賢一)
   1)高速度デジタル画像撮影法(High-speed digital imaging:HSDI)
   2)電気声門図(Electroglottography:EGG)
 4 直達喉頭顕微鏡検査(田村悦代)
   1)はじめに
   2)検査器具の選択
   3)喉頭鏡の挿入
   4)視野の確保
   5)鉗子類
   6)内視鏡下喉頭微細手術からロボット手術へ
 5 まとめ(香取幸夫)
第4章 空気力学的検査
 1 はじめに(湯本英二)
 2 呼吸機能検査(兵頭政光)
  1 測定の実際と注意事項
  2 肺気量
  3 努力呼気曲線(Tiffeneau曲線)
  4 フローボリューム曲線(Flow-Volume曲線)
 3 最長発声持続時間(MPT)(梅野博仁)
  1 測定の実際と注意事項
  2 正常例と代表的な異常例
   1)正常例
   2)代表的な異常例
 4 発声時平均呼気流率(MFR)(梅野博仁)
  1 測定の実際と注意事項
  2 正常例と代表的な異常例
   1)正常例
   2)代表的な異常例
  3 PQ(phonation quotient)
 5 声門下圧(岩田義弘)
  1 声門下圧測定の実際と注意事項
   1)直接法を行うときの注意
   2)間接法(気流阻止法)を行うときの注意
   3)結果の保存と解析
  2 直接的に声門下圧を測定する方法
   1)小型圧センサー挿入法
   2)気管穿刺法
  3 間接的に声門下圧を測定する方法
   1)食道内圧法(intraesophageal pressure measurement)
   2)気流阻止法(airflow interruption method)
   3)口腔内圧測定法(/i//pi/発声による声門下圧測定)
  4 正常例と代表的な異常例
   1)圧トランスデューサによる声門下圧直接測定
   2)気流阻止法による声門下圧測定
  5 声門下圧から求められる二次パラメータ
   1)喉頭抵抗
   2)声門下パワー
 6 喉頭効率(岩田義弘)
  1 声の効率
   1)声の効率の計算方法の概念
  2 正常例と代表的な異常例における喉頭効率
   1)正常者における喉頭効率
   2)疾患声帯における喉頭効率
  3 声の能率指数(AC/DC比)
   1)正常および疾患声帯のAC/DC比
 7 まとめ(湯本英二)
第5章 声の高さと強さの検査
 1 はじめに(湯本英二)
 2 声の高さ(讃岐徹治)
  1 測定項目
  2 測定の実際と注意事項
   1)声の高さの測定
   2)生理的声域の測定
   3)声区に関する検査
  3 正常例と代表的な異常例
 3 声の強さレベル(讃岐徹治)
  1 測定の実際と注意事項
  2 正常例と代表的な異常例
 4 ボイスプロファイル(湯本英二)
  1 測定の実際と注意事項
   1)使用する機器
   2)測定の手順
   3)注意事項
  2 測定の意義
  3 正常例と代表的な異常例
   1)正常例
   2)代表的な異常例
 5 まとめ(湯本英二)
第6章 音響分析による検査
 1 はじめに(荒井隆行)
 2 デジタル音響分析の基礎(粕谷英樹・荒井隆行)
  1 標本化と量子化
  2 デジタル音響分析
 3 録音(榊原健一・河原英紀)
  1 録音機器
   1)マイクロホン
   2)アンプおよびレコーダ
  2 録音環境
  3 音圧較正
  4 まとめ
 4 サウンドスペクトログラムによる分析(粕谷英樹・荒井隆行)
  1 短時間フーリエ分析
  2 サウンドスペクトログラム
  3 時間分解能と周波数分解能
  4 広帯域分析と狭帯域分析
  5 スペクトログラム分析とスペクトル分析
  6 病的音声の特徴
 5 病的音声の音響分析(河原英紀・榊原健一)
  1 基本周波数の分析法
  2 基本周波数のゆらぎと振幅のゆらぎ
  3 喉頭雑音
  4 スペクトル形状
  5 ケプストラムに基づく音響分析
  6 これからの音響分析
 6 まとめ(荒井隆行)
第7章 評定尺度法による検査
 1 はじめに(城本 修)
 2 評定尺度法による検査の意義(城本 修)
  1 評定尺度法とは
  2 音色の評定尺度法に必要な条件
  3 病的音声(嗄声)の聴覚心理的評価
  4 自覚的評価
 3 嗄声の聴覚心理的評価(GRBAS尺度)(石毛美代子)
  1 GRBAS尺度
  2 GRBASの各尺度
  3 GRBAS尺度による評価法
  4 GRBAS尺度に関する最近の動き
  5 GRBAS尺度の今後
 4 話声の評価(CAPE-V)(岸本 曜)
  1 はじめに
  2 CAPE-V
   1)デザイン
   2)評価項目
   3)評価項目の定義
   4)検査方法
   5)データスコアリング
   6)妥当性と信頼性
 5 自覚的評価(VHI,V-RQOL)(城本 修)
  1 VHI(Voice Handicap Index)
   1)概要
   2)実施方法
  2 V-RQOL(Voice-Related Quality of Life)
   1)概要
   2)実施方法
 6 まとめ(城本 修)
第8章 神経生理学的検査
 1 はじめに(西澤典子)
  1 末梢の運動系と神経筋単位
  2 中枢の運動系
  3 筋電位導出
 2 喉頭筋電図検査(熊田政信)
  1 筋電図の原理と臨床的意義
   1)筋電図の原理
   2)喉頭筋電図の臨床的意義
   3)発声機能検査における喉頭筋電図の位置付け
  2 喉頭筋電図の手技
   1)機器
   2)導出法
   3)甲状披裂筋
   4)輪状甲状筋
   5)その他の内喉頭筋
   6)内喉頭筋以外の筋
  3 喉頭筋電図所見の概論
   1)運動時の喉頭筋電図
   2)安静時の喉頭筋電図
   3)neurogenic pattern
   4)myogenic pattern
  4 代表的疾患の喉頭筋電図
   1)喉頭の運動障害
   2)運動ニューロン疾患
   3)重症筋無力症
   4)痙攣性発声障害
  5 喉頭筋電図の応用:痙攣性発声障害に対するボツリヌストキシン注入術
   1)内転型痙攣性発声障害
   2)外転型痙攣性発声障害
   3)痙攣性発声障害の特殊型
 3 まとめ(西澤典子)

 ちょっと一息
  声種,声域,声帯長(西澤典子)
  声の共鳴(渡嘉敷亮二)
  声帯は楽器!(佐藤公則)
  仮声帯発声(原 浩貴)
  声と甲状腺手術(湯本英二)
  Genderと音声(中村一博)
  Raoul HussonとNeurochronaxic theory(西澤典子)
  電気喉頭の進歩(本間明宏)

 Topics
  喉頭アレルギーと慢性咳嗽(内藤健晴)
  胃食道逆流症(GERD)と喉頭病変(折舘伸彦)
  竹節声帯(今泉光雅)
  音響分析ソフトウェア―MDVP,Praat,VA―(児嶋 剛)
  音声言語医学における診断治療評価の標準化に向けて必要な「声の検査法」(角田晃一)
  磁気共鳴画像法(MRI)(高野佐代子)
  脳機能画像による声帯に器質的異常のない音声障害の責任病巣の探求(喜友名朝則)
  ポジトロン断層法(PET)による脳活動研究(楯谷一郎)
  一側声帯麻痺における喉頭内腔の形態評価―三次元CT内視法の応用―(湯本英二)
  コーンビームCTによる喉頭画像(堀 龍介・児嶋 剛)
  空気力学的検査による嚥下機能評価(梅野博仁)
  声の高さと大きさに関する物理量(今泉 敏)
  加齢性音声障害の検査(平野 滋)
  文章による音響分析と聴覚心理的評価(今泉 敏)
  歌声の評価(西澤典子)
  痙攣性発声障害の評価(兵頭政光)
  評価用短文・文章の現状とこれから(石毛美代子)
  無喉頭音声の評価(今泉 敏)