やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 令和4年(2022年)10月における日本の高齢化率は29.0%に達し,そのうち75歳以上の高齢者は15.5%と65〜74歳までの高齢者人口を上回っている.75歳以上の高齢者の増加は今後も続き,加齢に伴う機能低下や疾病発症により要介護状態となる方はさらに急増すると予想されている.一方で,介護サービス提供者の減少は続いており,介護人材の雇用確保が難しくなっている.少子化の問題も相まって数十年後の社会保障を考えれば,現状の医療・介護の質と量を確保するのは困難なことが予想される.
 この状況を打開する一つの方法として,高齢者自身による健康増進と社会貢献が考えられ,そのためのソリューションを社会システムとして広く普及する必要がある.令和2年(2020年)4月に「高齢者の医療の確保に関する法律」が改正され,市町村が高齢者の保健事業と介護予防を一体的に実施するための体制が整えられた.健康寿命の延伸へむけて,生活習慣病などの疾病予防から,重症化予防と介護予防を一体的に実施する体制が構築され,切れ目ないサービスの展開が期待されている.すべての高齢者が利用可能な「一般介護予防事業」は,通いの場や地域サロンなど,身近な場所での人と人とのつながりを通した介護予防活動を継続できるように支援するもので,そこで実施されるサービスは多岐にわたる.
 高齢者が要介護となる原因としては,認知症や脳血管疾患など脳の疾病に起因するものと,フレイル,転倒・骨折,関節疾患を含む運動器の問題により要介護になる方で約70%を占めている.認知と運動機能については加齢による低下が認められる反面,可塑性も認められ,介入により高齢者でも機能向上が可能であることが多くの研究によって証明されている.すなわち,やるべきことは明確ななかで,問題なのは,「どうしたら実践してもらえるのか」「どうしたら続けてもらえるのか」である.この点に関する教育や研究は充分に進んでいるとはいえない状況にあるなか,そのノウハウを紹介するために本書を企画するに至った.
 本書は介護予防に関わるすべての方を対象として,効果的かつ持続的に介護予防教室を進めるための実践書である.筆者らが積み重ねてきた経験や研究成果に基づいて執筆している.これらの研究においては長寿医療研究開発費からの援助を受け,多くの自治体や市民の皆様のご協力のうえ知見として集積することができた.この場を借りて関係者の皆様に御礼を申し上げたい.
 本書が多くの方の手に届き,介護予防の推進に寄与することを期待している.
 令和6年2月29日(閏日)
 国立長寿医療研究センター
 島田裕之
 序文(島田裕之)
I章 介護予防とは
 1.介護予防とは(片山 脩)
  (1)介護予防の定義
  (2)高齢化の現況と健康日本21
  (3)要介護認定者の推移
  (4)介護者の現状
  (5)関連する福祉制度
  (6)介護予防の取り組み
 2.フレイル予防(堤本広大)
  (1)フレイルの基本理解
  (2)フレイル予防
 3.認知症予防(土井剛彦)
  (1)認知症予防の概要
  (2)認知症予防の取り組みを始める時期
  (3)認知症予防の効果
 4.介護予防のためのアセスメント(牧野圭太郎)
  (1)生活機能評価の重要性
  (2)基本チェックリストの理解
  (3)IADLのアセスメント
  (4)運動機能のアセスメント
  (5)認知機能のアセスメント
 5.ポピュレーションアプローチとハイリスクアプローチ(冨田浩輝)
  (1)介護予防戦略
  (2)ポピュレーションアプローチとハイリスクアプローチ
  (3)ポピュレーションアプローチとハイリスクアプローチの導入ステップ
 6.介護予防領域におけるICTとIoT技術の活用(島田裕之)
  (1)情報通信技術と高齢者の保健活動
  (2)高齢者の介護予防
  (3)ICTを活用したアセスメント
  (4)介護予防におけるICTの活用
  (5)介護予防におけるIoTの活用
  (6)ICT,IoTのさらなる利活用を目指して
II章 介護予防教室の運営
 1.介護予防教室を行うための準備(原田健次)
  (1)介護予防教室を実施するための準備にむけて
  (2)準備を進める前に
  (3)教室実施前の検討・準備
  (4)教室中・後の動き
 2.介護予防教室におけるリスク管理(下田隆大)
  (1)リスク管理とは
  (2)高齢者特有のリスク
  (3)介護予防教室開催時の確認事項
  (4)緊急時の対応
  (5)インシデントレポート
 3.介護予防教室におけるスタッフの役割(森川将徳)
  (1)介護予防教室におけるスタッフの役割とは
  (2)役割(1) 実施母体の声を参加者へ届けるスピーカーとしての役割
  (3)役割(2) 実際に教室を実施する役割
  (4)役割(3) 参加者の声を実施母体へ伝えるインタビュアーとしての役割
 4.介護予防教室で求められる接遇(李 相侖)
  (1)介護予防教室で求められる接遇とコミュニケーション能力
  (2)言語コミュニケーションと非言語コミュニケーション
  (3)非言語コミュニケーションの効果
  (4)会話をするときのポイント(コミュニケーション・スキル)
  (5)お勧めしないコミュニケーション・スキル
  (6)基本的マナー
III章 介護予防教室の具体例
 1.フレイル予防教室(堤本広大,島田裕之)
  (1)フレイル予防について
  (2)フレイルに対する運動(身体活動)の効果
  (3)高齢者に対する運動指導の留意点
  (4)フレイル予防教室について
  (5)具体的な60分プログラム例
  (6)具体的な運動プログラム例
  (7)スタッフが意識したいこと・注意点
 2.認知症予防教室(土井剛彦,崎本史生)
  (1)認知症予防教室について
  (2)認知症予防教室で実施する運動
  (3)具体的な60分プログラム例
  (4)認知症予防教室にコグニサイズを導入するときの工夫
  (5)コグニサイズの実際
  (6)認知症予防教室で行える取り組み
 3.口腔機能・栄養改善教室(西島千陽,川上歩花)
  (1)口腔機能・栄養改善教室について
  (2)具体的な60分プログラム例
  (3)具体的なプログラム例
  (4)効果的な教室のための工夫
IV章 介護予防の地域人材育成
 1.To Doとタイムスケジュール(栗田智史)
  (1)自治体との協議,連携
  (2)人材募集
  (3)事業説明会
  (4)研修,実習,習熟度テスト
  (5)教室の告知から教室実施までのスケジュール
 2.自治体との連携(山口 亨)
  (1)介護予防教室を展開するには
  (2)一般介護予防事業
  (3)介護予防教室の展開
 3.人材募集の方法(見須裕香)
  (1)人材募集のための資金が確保できる場合や有償の人材募集の方法
  (2)人材募集のための資金が確保できない場合や無償の人材募集の方法
 4.研修の実施(藤井一弥)
  (1)教室運営マニュアルの作成
  (2)研修の進め方
  (3)認知症予防プログラム研修のスケジュール
  (4)研修の参加者による研修内容の違い
  (5)研修資料の実際と講義のポイント
  付録:研修会用資料(PDF)データ
 5.実習の実施(木内悠人)
  (1)準備
  (2)実習
 6.習熟度テスト(西本和平)
  (1)習熟度テスト作成における注意点
  (2)ペーパーテストの問題例
V章 介護予防教室Q&A
 Q1 1回あたりの時間はどれくらいが適当ですか?(von Fingerhut Georg)
 Q2 自主グループの形成と継続のコツは何でしょうか?(垣田大輔)
 Q3 地域住民の参加を得るための効果的な方法は何でしょうか?(堤本広大)
 Q4 参加意識が低い人への対応はどうしたらよいですか?(松田総一郎)
 Q5 運動負荷を高めるための工夫はありますか?(中島千佳)
 Q6 家で活動してもらうため工夫はありますか?(中島千佳)
 Q7 リーダーの選定の方法はありますか?(松田総一郎)
 Q8 スマートフォンの教え方はどうしたらよいですか?(川上歩花)
 Q9 運動負荷がかけられない場合はどうしたらよいですか?(崎本史生)
 Q10 参加者との信頼関係を築くコツはありますか?(山際大樹)