やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 リハビリテーション(以下リハ)栄養を身体面,心理面,社会面に分けると,今までのリハ栄養は身体面がメインでした.リハ栄養の目的は生活機能とQOLをできるだけ高めることですが,リハ栄養の臨床,研究,教育はほとんどが身体面でした.生活機能やQOLをより高めるには,こころのリハ栄養や社会面のリハ栄養をより充実させることが必要です.そこで,エビデンスは不十分ですが,ポジティブリハ栄養の書籍を企画しました.
 ポジティブ心理学は,心理面のマイナスをゼロに近づける従来の心理学と異なり,心理面のゼロやプラスをよりプラス方向に増やす心理学です.個人因子に偏っている,臨床研究の質があまり高くない,ビジネスなど医療以外の領域での広がりが目立つ,などポジティブ心理学に問題が少なくないことは事実です.ただし,強みをみつけて強みを伸ばすという考え方は,国際生活機能分類やリハ栄養と相性がよいです.従来のリハ栄養は弱みや問題点でなければ,つまり低栄養,サルコペニア,栄養素摂取の過不足がなければそれでよしとしていました.しかし,低栄養,サルコペニア,栄養素摂取の過不足がなければそれでベストでしょうか.生活機能とQOLを最大限高めるために,栄養状態,筋肉の状態,栄養素摂取をより改善できることは少なくありません.ポジティブリハ栄養の視点で,患者にも自分自身にも向き合うことで,行動変容と成果につながることを期待しています.今回,難しいテーマで執筆してくださった皆様に深謝いたします.
 『問題解決大全―ビジネスや人生のハードルを乗り越える37のツール』(読書猿 著,フォレスト出版)では,問題解決をリニア(直線的)とサーキュラー(円環的)に分類しています.リニアでは,問題を現状とあるべき姿(目標・理想)の差として発見して,問題の原因を追究して問題解決を行います.従来のリハ栄養では,問題解決の多くはリニアでした.もしくはあるべき姿(生活機能とQOLを最大限発揮できる体重など)を設定せずに,問題を的確に発見していなかったかもしれません.リニアな問題解決は,リハ栄養でもちろん大切です.
 一方,問題の中には鶏と卵のようにループしていて,何が原因で何が結果かはっきりしないものがあります.複数のループが絡み合う場合もあります.この場合,ループのどこかに介入することでループ全体の変化を期待するサーキュラーな問題解決が有用です.ポジティブリハ栄養の視点は,リフレーミングとしてサーキュラーな問題解決に役立ちます.たとえば,問題の原因がはっきりしなくても,運動,食事,睡眠,排泄,性生活,こころ,環境,薬剤などに介入することで,食欲,栄養状態,生活機能,QOLなどを改善できることがあります.本書が患者と医療者の生活機能とQOLのさらなる向上に役立てば幸いです.
 最後に今回も企画,編集などで医歯薬出版株式会社の小口真司様に大変お世話になりました.この場を借りてお礼申し上げます.
 2023年6月
 若林秀隆
第1章 ポジティブ心理学の基礎
 (1)ポジティブ心理学とは
  1.ポジティブ心理学運動のはじまり
  2.応用ポジティブ心理学の発展
  3.リハビリテーションや栄養管理におけるポジティブ心理学
 (2)ポジティブ心理学介入とは何か
  1.医療者のセルフケアとポジティブ心理学
  2.ポジティブ心理学介入とは
  3.ポジティブ心理学におけるマインドフルネスとコーチング心理学
  4.ポジティブ組織心理学介入
第2章 リハビリテーション栄養の基礎
 リハビリテーション栄養の基礎
  1.リハビリテーションと国際生活機能分類
  2.リハビリテーション栄養とリハビリテーション栄養ケアプロセス
  3.診断推論
  4.悪液質
  5.リハビリテーション栄養の実践と関連概念
  6.ポジティブ心理学とリハビリテーション栄養の関係
第3章 ポジティブ心理学とリハビリテーション栄養ケアプロセス
 (1)リハビリテーション栄養ケアプロセスにおけるポジティブ心理学の有用性
 (2)ポジティブアセスメント
  1.ICF
  2.フレイル
  3.栄養評価
  4.QOL・生きがい・幸福感
  5.強み
 (3)ポジティブ診断
  1.低栄養・低栄養のリスク状態
  2.過栄養・過栄養のリスク状態
  3.サルコペニア
  4.栄養素の摂取不足・栄養素摂取不足の予測
  5.栄養素の摂取過剰・栄養素摂取過剰の予測
 (4)PERMAなゴール設定
  1.PERMAとは
  2.PERMA-V
  3.PERMAな活動
 (5)ポジティブ介入
  1.認知行動療法
  2.マインドフルネス
  3.環境因子への介入
 (6)ポジティブモニタリング
  1.リハビリテーション栄養モニタリング
  2.ポジティブモニタリング
  3.ポジティブモニタリングの頻度・期間
  4.ポジティブモニタリングからポジティブアセスメントへ
 (7)ポジティブリハビリテーション栄養ケアプロセスの実践例
第4章 ポジティブ心理学と栄養管理・リハビリテーション
 (1)ポジティブ心理学と食行動
  1.食行動研究の社会的背景
  2.食行動研究の新潮流―ポジティブ心理学に基づく食行動研究
  3.ポジティブ心理学に基づく食行動研究の課題と展望
 (2)ポジティブ心理学と栄養指導
  1.はじめに
  2.摂食障害に対するポジティブ栄養指導
  3.生活習慣病に対するポジティブ栄養指導
  4.栄養指導にポジティブ心理学をどのように応用すべきか
  5.おわりに
 (3)ポジティブ心理学と臨床栄養
  1.臨床栄養の課題
  2.臨床栄養のポジティブ心理学
  3.臨床栄養におけるポジティブ心理学的視点
  4.臨床栄養でポジティブ心理学を応用する要素
  5.おわりに
 (4)ポジティブ心理学と運動療法
  1.はじめに
  2.精神・心理疾患における運動療法とメンタルヘルス
  3.身体疾患における運動療法とメンタルヘルス
  4.ポジティブ心理学と運動療法
  5.おわりに
 (5)ポジティブ心理学と心理療法
  1.地域リハビリテーションと神経心理学/心理学的介入
  2.リハビリテーションに活かせるポジティブ心理学
  3.リハビリテーションにおけるポジティブ心理療法
  4.リハビリテーション従事者が自身に行うポジティブ心理療法(マインドフルネス)
  5.おわりに
 (6)ポジティブ心理学と理学療法
  1.はじめに
  2.ポジティブ心理学とは
  3.ウェルビーイングに必要な要素
  4.国際生活機能分類にみるポジティブ思考
  5.レジリエンスの形成
  6.ポジティブ感情
  7.ポジティブ心理学のアプローチ
  8.おわりに
 (7)ポジティブ心理学と作業療法
  1.はじめに
  2.作業療法とは
  3.健康,生活,それらの背景にあるものの評価
  4.本人にとって価値や意味のある作業の評価と支援
  5.おわりに
 (8)ポジティブ心理学と言語聴覚療法
  1.はじめに
  2.摂食嚥下障害
  3.音声障害/構音障害
  4.おわりに
 (9)ポジティブ心理学と音楽療法・芸術療法
  1.はじめに
  2.芸術療法とは
  3.芸術療法の可能性
  4.症例からみたPERMA
  5.おわりに
 (10)ポジティブ心理学と笑い療法・笑いヨガ
  1.笑いの基礎知識
  2.笑い療法と笑いヨガ
  3.笑い療法の心理的効果
  4.笑い療法のリハビリテーションへの応用
  5.笑い療法とリハビリテーション栄養
  6.笑い療法のこれから
 (11)ポジティブ心理学と健康の社会的決定要因
  1.ICFによる全人的評価と「背景因子」
  2.健康の社会的決定要因(SDH)と健康格差
  3.うつ病と社会的要因の関係
  4.「生き抜く力」としての首尾一貫感覚(SOC)
  5.社会的処方とヘルス・アドボケイト

 コラム
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