やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 2018 年は9 月に公認心理師の国家試験が実施され,第1 回の合格者が誕生した記念すべき年といえる.臨床医学,ことに精神科の臨床においては,様々なバックグラウンドをもつ専門職が力を合わせ,患者さんとその家族を支援していくチーム医療の理念が根幹をなす.チーム医療では医師や看護師,薬剤師のほか,ソーシャルワーカー,言語聴覚士,作業療法士,理学療法士,臨床検査技師といった専門職が彼ら/彼女らだからこその意見を出し合い,有機的にチームの治療方針が形作られていく.このチーム医療のなかで心理職も重要な役割を果たしてきたが,医学系専門職のなかで唯一国家資格になっていなかったことから,診療機関では雇用される機会が少なく,また他の専門職種と連携していないこともあったように思う.今後は,精神科診療のみならず,緩和ケア,ペインクリニック,回復期リハビリテーションなど,様々な場面でチーム医療の一員として,また公認心理師として手腕を大いに発揮して活躍していくことが期待される.
 精神科医は,精神科専門医を目指す前に幅広く医学・医療全般を学び,2 年間は初期臨床研修として身体疾患を中心に研修することが義務づけられている.臨床に携わるのであれば,心の営みを扱う専門職である公認心理師も,脳や身体の基礎知識をもっておくことが求められる.
 本書は,精神科臨床の立場から,公認心理師を目指す学生および心理職の皆さんに知っておいていただきたい必要不可欠のエッセンスをまとめたものである.各章の著者は第一線の臨床家・研究者であり,最適の方たちにご執筆いただけたものと自負している.臨床場面全般に通じる総論と,疾患・病態ごとに概念から対応をまとめた各論に分けているが,可能な限り具体的イメージがわくようにCASEを入れていただいている.また,チーム医療場面で様々に生じてくる臨床的疑問をコラムとして,トピック的に配置している.本文を読み進めていくなかで疲れたら,コラムをパラパラめくっていくのも一興かもしれない.
 公認心理師のカリキュラムには,「精神疾患とその治療」として必要科目に組み込まれ,そこでは公認心理師に求められる役割・知識について,「心理学,医学知識を身につけ,様々な職種と協働しながら支援等を主体的に実践できること」「精神疾患が疑われる者について,必要に応じて医師への紹介等の対応ができること」とされている.このように,心理学教育において精神疾患や臨床医学に関する一定の知識が求められるようになった背景には,心理学系学生の卒後の進路として,精神科診療への門戸が開かれてきたことが挙げられる.しかし,むしろそれ以上に,たとえば学校教育やカウンセリング,発達相談などに携わる公認心理師にも,一定の精神疾患や臨床医学の知識が求められていると考える.
 本書が精神疾患を初めて学ぶ心理学生,公認心理師を目指す方々,さらには臨床に従事する心理職の皆さんの指針となる精神医学テキストとなることを切に願っている.
 2018 年12 月
 編者を代表して
 三村 將
 序文
序章 心理学としての精神医学の理解
 (黒木俊秀)
  I.医学が心理学に期待することは何か
  II.心理学としての精神疾患の理解
  III.心理学と精神医学の連携
総論
1章 精神疾患とは
 (八木剛平,飯島詩織,齊藤和貴,陳 珅昊,山村 卓,細野正美)
  1.精神疾患とは何か
  2.歴史的視点からみた精神医療と臨床心理学
  3.臨床心理学の歴史
  4.生物学的精神医学と精神病理学(異常心理学)─ 二つの系譜
 〈1章Q&A〉
2章 精神症状のみかた
 (成本 迅)
  1.精神症状の分類
  2.意識の異常
  3.知覚の異常
  4.思考の異常
  5.感情の異常
  6.意欲と意志の異常
 〈2章Q&A〉
3章 精神疾患の診断
 (本村啓介)
  1.精神医学における診断
  2.初診時面接:留意点
  3.精神現症
  4.初診時面接:問診事項
  5.身体診察,医学的検査
  6.精神医学的評価尺度,心理検査,診断面接
  7.診断
 〈3章 Q &A〉
4章 精神疾患と薬物療法
 (竹内啓善)
  1.精神疾患の治療における薬物療法
  2.抗うつ薬
  3.抗不安薬・睡眠薬
  4.抗精神病薬
  5.気分安定薬
  6.認知症治療薬
 〈4章Q&A〉
5章 心理療法・支援の基本
 (林 公輔)
  1.個人心理療法
  2.家族療法・集団支援技法
  3.コミュニティアプローチ
 〈5章Q&A〉
6章 リエゾン精神医学と心理支援
 (幸田るみ子)
  1.コンサルテーション・リエゾン精神医学の基本
  2.がんに伴う精神症状
  3.循環器疾患に伴う精神症状
  4.脳卒中に伴う精神症状
 〈6章Q&A〉
7章 多職種協働と医療連携
 (花村温子)
  1.チーム医療とは
  2.連携と協働,他職種連携と多職種連携
  3.チーム医療における各職種の役割
  4.チーム医療に関わる心理職が知っておくべき基本知識と求められる役割
  5.多職種連携による心理職の関わりの例
  6.より良いチーム医療のために
 〈7章Q&A〉
各論
8章 精神疾患の理解(1) 統合失調症
 (田中伸一郎)
  【CASE】 1.成因 2.症状 3.診断
  4.治療法 5.経過 6.本人・家族への支援
 〈8章Q&A,事後学習課題〉
9章 精神疾患の理解(2) うつ病,双極性障害
 (中川敦夫)
 (1)うつ病
  【CASE】 1.成因 2.症状 3.診断
  4.治療法 5.経過 6.本人・家族への支援
 (2)双極性障害
  【CASE】 1.成因 2.症状 3.診断
  4.治療法 5.経過 6.本人・家族への支援
 〈9章Q&A,事後学習課題〉
10章 精神疾患の理解(3) 強迫症,不安症群
 (猪狩圭介)
 (1)強迫症
  【CASE】 1.成因 2.症状 3.診断
  4.治療法 5.経過 6.本人・家族への支援
 (2)不安症群
  【CASE】 1.成因 2.症状 3.診断
  4.治療法 5.経過 6.本人・家族への支援
 〈10章Q&A,事後学習課題〉
11章 精神疾患の理解(4) 適応障害
 (西 大輔)
  【CASE】 1.成因 2.症状 3.診断
  4.治療法 5.経過 6.本人・家族への支援
 〈11章Q&A,事後学習課題〉
12章 精神疾患の理解(5) 神経発達症群
 (太田晴久)
  【CASE】 1.成因 2.症状 3.診断
  4.治療法 5.経過 6.本人・家族への支援
 〈12章Q&A,事後学習課題〉
13章 児童・思春期における心理的問題
 (宇佐美政英)
  【CASE】 1.児童・思春期の発達課題
  2.神経性無食欲症 3.まとめ
 〈13章Q&A〉
14章 女性の心理的問題
 (宮岡佳子)
 (1)女性特有のうつ病
  【CASE】 1.産後うつ病 2.更年期うつ病
  3.月経前不快気分障害 4.女性のうつ病の特徴
 (2)ライフサイクルからみた女性の心理
 〈14章Q&A,事後学習課題〉
15章 高齢期における心理的問題
 (加藤佑佳)
  【CASE】 1.高齢者の心理的側面 2.高齢者の不眠症
  3.高齢者のうつ 4.認知症
 〈15章Q&A,事後学習課題〉

 付録 精神疾患に関わる医療・福祉制度 小野賢一
  精神保健及び精神障害者の福祉に関する法律(通称:精神保健福祉法)
  障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害者総合福祉法)
  心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律(通称:心神喪失者医療観察法)
  生活保護法
  成年後見制度
  その他 福祉サービスなど

 コラム
  〈1章〉(八木剛平,飯島詩織,齊藤和貴,陳 珅昊,山村 卓,細野正美)
   精神疾患は心の病気か? 脳の病気か?
   日本の精神病者の「二重の不幸」とは何か
   カウンセリングとは何か
  〈3章〉(本村啓介)
   記述的診断と病因論的診断
   伝統的診断図式(外因・内因・心因)
   生物・心理・社会モデル
  〈5章〉(林 公輔)
   心理療法のトレーニング
   チーム医療と守秘義務
   投影についての一考察
  〈各論〉(齊藤和貴,山村 卓,陳 珅昊,飯島詩織,細野正美)
   PTSDの理解と心理支援
  〈8章〉(田中伸一郎)
   統合失調症の病型分類
   統合失調症の基本症状
   シュナイダーの一級症状
   DSM-5 による統合失調症の診断基準(2013 年)
  〈12章〉(太田晴久)
   発達障害の原因の詳細
   遂行機能障害
  〈14章〉(宮岡佳子)
   マタニティブルーズ(maternity blues)
   更年期障害
  〈15章〉(加藤佑佳)
   アセスメントを行ううえでの留意点
   軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment;MCI)
   認知症の人の意思決定能力をどう評価し支援にいかすか

 本書で解説されている疾患のDSM-5,ICD-11 対応表
 索引