やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 食べることの目的は,過去も,現在も,未来も変わりがないものと思います.しかし時間が流れ,少子・高齢化は確実に身近で感じる現実のものとなってきました.
 著者2 人は,『摂食・嚥下障害への作業療法アプローチ』(医歯薬出版刊,2010 年)を出版したあとも,食べることについての臨床や研究を積み重ねてきました.この10 年間において,食べることに関する高齢者への対応も大きく変化したことを感じずにはおれません.
 大きく変化したことの1 つ目は予防の観点です.いままでは,食べる障害を抱えた人たちに対して,食べる機能を再獲得させるための治療が中心でした.しかし現在は,食べる障害につながる事象を早期に発見して対応する,早期発見・早期予防という考え方が一般化しつつあります.
 2 つ目の変化は連携という視点です.従来は,医療・保健・福祉がそれぞれの領域で,食べることに対するチームアプローチを行っていました.しかし現在では,医療・保健・福祉領域が,相互に横の連携を図りながらアプローチを行うことが必須の時代になってきました.その理由としては,在院日数の制限,老老介護の増加,介護保険の恩恵による自宅療養希望者の増加などがあげられます.
 3 つ目の変化は施設の多様性です.これまでは,介護保険サービスで利用できる施設として,介護老人保健施設,特別養護老人ホーム,介護療養型医療施設の3種類が一般的でした.しかし近年は,加えて,有料老人ホーム(介護付,住宅型,健康型),高齢者向け住宅(サービス付き高齢者住宅,シニア向け分譲マンション,高齢者専用賃貸住宅,高齢者向け有料賃貸住宅),地域密着型施設(グループホーム,小規模多機能型居宅介護),軽費老人ホーム(ケアハウス自立型・介護型)など,高齢者の心身および介護状態やライフスタイルさらには費用面などから検討できるさまざまな種類の施設や住宅があります.
 前述した変化は,高齢化の進展とともにますます多様化していくと思われますが,食べることは,年齢や時代の流れに関係なく生きていくために不可欠です.このような時代にふたたび本書を出版する機会を得ました.著者らは,医療・保健・福祉領域の職種がともに手を携えて,高齢者の食べることを支えるために必要な最小限の知識と技術を作業療法士の立場から提供したいという思いで本書を執筆いたしました.
 本書が,高齢者の食べることを支えていく医療・保健・福祉職の方々の少しでもお役に立てばと願ってやみません.
 最後に,著者らの思いを表現できる機会が与えられたことに対して,改めて心よりお礼を申し上げます.
 2018 年8 月 東嶋美佐子
 序文
第1章 食べることの基礎について学ぼう!
 1 食べることの目的
 2 食べることに必要な機能
 3 老化が食べることに及ぼす影響
  1)感覚器と末梢(求心性)神経の老化によっておこる問題
  2)末梢(求心性)神経からの情報をとらえる中枢神経の老化によっておこる問題
  3)効果器と末梢(遠心性)神経の老化によっておこる問題
 4 食べることの重大リスク
  1)誤嚥とは
  2)窒息とは
第2章 食べることについての問題点のとらえ方を学ぼう!
 1 観察
  1)食べる環境の観察項目
  2)食べる機能や能力の観察項目
  3)1 日分の観察チェック票
 2 検査・測定
  1)反復唾液嚥下テスト
  2)改訂水飲みテスト
  3)80cmの吹き戻しを使った呼息運動時間テスト
  4)発声・構音テスト
  5)口顔面失行テスト
  6)頚部の関節可動域,筋力,筋緊張
第3章 安全に食べることにつながる気配りポイントについて学ぼう!
 1 食べることはたいへんな活動
 2 生活リズムの形成
 3 就寝中
  3-1)寝ている体位は大丈夫?
  3-2)口腔内の潤いは大丈夫?
  3-3)寝返りが自力でできない人への対応は大丈夫?
 4 起床時
  4-1)寝起きの覚醒は大丈夫?
  4-2)バイタルサインは大丈夫?
 5 食事への諸条件
  5-1)覚醒は大丈夫?
  5-2)食卓で待つ時間は大丈夫?
  5-3)口の受け入れ準備は大丈夫?
  5-4)食事姿勢は大丈夫?
  5-5)むせや咳は大丈夫?
  5-6)食物の運びや取り込みは大丈夫?
  5-7)1 日の摂取量やカロリーは大丈夫?
  5-8)口腔内の衛生状態は大丈夫?
第4章 安全に長く口から食べるための運動や活動について学ぼう!
 1 フレイル予防の原則
 2 フレイル予防法の原則
 3 フレイル予防法としての運動・活動の選択上の原則
 4 食事に関与する身体機能の維持・改善のための運動・活動の実際
  1)風船バレー
  2)吹き戻し
  3)ブローイング
  4)呼吸運動とともに行う関節可動域と筋緊張の維持・改善のための体操
  5)口腔・顔面の体操
  6)発声を用いた口腔・顔面の体操
  7)摂食嚥下機能に関与する筋力維持や強化のための体操
第5章 認知症患者の食べる機能やその対応について学ぼう!
 1 認知症と物忘れの違い
  1)認知症によっておこってくる問題
  2)認知症と一般的な物忘れとの違い
 2 認知症のタイプ別症状と対処方法
  1)アルツハイマー型
  2)レビー小体型
  3)前頭側頭型
  4)脳血管性
 3 認知症の進行段階における症状と対処方法
  1)初期の段階
  2)中期の段階
  3)末期の段階
  4)終末期の段階
  5)経口摂取可否の最終判断
 4 認知症の進行予防のための活動
  1)個別の活動
  2)手続き記憶を利用した活動
  3)歌
第6章 食事介助について学ぼう!
 1 介助者の食事介助技術を向上させる目的
 2 食事介助技術のポイント
  1)食べさせる人と食べる人の位置関係
  2)スプーン介助
  3)水分介助
  4)飲み込みの確認
  5)食物残渣の確認
  6)食事に関して,しなくてはいけないこと・してはいけないこと
 3 職員間での勉強会
  1)職員の技術向上のための施設内勉強会を開催しましょう
  2)課題にあがってくると予想される内容とその対応
  3)誤嚥徴候(注意すべき症状)を知りましょう
  4)介助側が,しなくてはいけないこと・してはいけないことを再確認しましょう
  5)食事に関する自分の施設の良好な点と不良な点を知りましょう

 付録 食べることを支援する機関と団体
  【1】摂食嚥下関連医療資源マップ
  【2】一社)日本作業療法士協会の専門作業療法士
  【3】一社)日本摂食嚥下リハビリテーション学会「認定士」と「嚥下リハ相談窓口」
  【4】保健・医療・福祉に関して各都道府県に活動拠点をもつNPOおよび団体

 索引